中国のマイナーが国を追い出されて向かう先

暗号資産(仮想通貨)マイニングに対する中国の取り締まりによって、中国のマイナーは移転先を世界中で探している。北米がマイナーを呼び込んでいるという報道もあるが、今のところはっきりとした勝者はいないようだ。

マイニング機器のホスティング施設建築にかかる時間やエネルギー費用、人件費、税制度、気候、政治やビジネス環境といった要素によって、マイナーが移転のルートを計画するのが困難になっていると、業界関係者は語る。

北米が主要移転先の1つであることは確かだが、中央アジア、ラテンアメリカ、ヨーロッパが将来的には手強い競争相手となるか可能性もある。暗号資産業界には、このような展開を喜ぶ人たちもいるだろう。世界中にハッシュパワーがより分散し、中国のマイナーがビットコインネットワークに過剰な影響力を持つことへの懸念が和らぐ可能性もあるからだ。

3月以降に中国の取り締まりによってオフラインとなったハッシュレートの約25%は最終的に北米に、25%はカザフスタンやモンゴル、ロシアの一部などの中央アジアへと移転するだろうと、シアトルにある暗号資産マイニング企業ルクソール(Luxor)のCEO、ニック・ハンセン(Nick Hansen)氏は予測している。

ハッシュレートの15%はラテンアメリカに、10%はEU圏の国々に、旧式のマイニング機器の一部は中国から脱出できずに、残りはオンラインに復帰しないだろうと、ハンセン氏はみている。

中国マイナーの移転の正確なルートはまだはっきりとしていない。ハンセン氏の予測は、マイナーとのやり取りや、この先6〜12カ月でマイナーをオンラインに復帰させるのに適した電力源やインフラへのアクセスがあるのはどこなのかというデータを使った分析にもとづいている。

「アメリカには現在、利用可能なエネルギーが多くあるのは知っている。それらは活用可能であり、最大級のエネルギー生産イノベーターたちの一部はそれを取り込みたがるだろう」とハンセン氏。「しかし現実には、望むほどには電力を稼働できない可能性もあり、そうなると中国のマイナーは、別の場所へと移転することになるだろう」

中央アジア

電力コスト、人件費、輸送費、関税や税金の低さが、一部の中国マイナーが北米ではなく中央アジアや一部の東欧諸国を選ぶ主な理由となると、北京にあるクリーンエネルギーマイニング企業SAIのCEO、アーサー・リー(Arthur Lee)氏は語った。

「アジアには大きな潜在能力があると考えられる。私たちにとって戦略的に非常に重要だ」と、リー氏。同氏によれば、ビットメイン(Bitmain)にサポートを受ける同社は、アジアでかなり大きな範囲に到達し、今年上半期にはアジアで1、2位のマイニング企業となる計画だ。

中央アジアの電気料金は平均で、税金やその他の関連コストを含めてキロワット時当たり0.05ドル。テキサスのマイニングファームも同様の水準だが、アメリカの他の州では料金はさらに高い可能性があると、カザフスタンとロシアで有数のマイニングインフラプロバイダー、MYRICのフランキー・フー(Franky Fu)氏は指摘する。

エネルギーコストの低さは、マイナーの利ざやや、マイニング機器のコストなどを決定する重要な要素の1つである。キロワット時当たり0.05ドルならば、最近のビットコイン(BTC)価格を考えると、マイナーはかなり大きな利ざやを手にすることができる。

より安価な電力に加え、維持費の低さも中央アジアの魅力だ。

「専門職の人件費は、ロシアやカザフスタンよりアメリカの方が高額だ」と、フー氏。「マイニング機器の維持・修理にかかる人件費の高さのために、アメリカの多くのマイナーは壊れた機器をそのまま放置している」

フー氏によれば、マイニング機器の減価償却率は、気候条件に応じて月に1〜5%だ。テキサスは一般的に高温多湿の気候であり、マイニング機器に問題が生じやすくなる。

アメリカでは他のコストも生じる。電子部品を含む中国からの輸入品への25%の関税が、トランプ政権時代から現在のバイデン政権へと引き継がれているのだ。

さらに、IRS(米内国際入庁)の暗号資産マイニング税に関するガイダンスによれば、IRSはマイニングを通じて生まれた暗号資産に収入と同じ税率を適用しており、その率は州によって10〜37%となっている。

北米では建設資材がより高額であることに加えて、電気配線や機器の安全な設置のための電気工事規定がより厳格であることも、暗号資産マイニングのコストを高める要因となると、マイニング企業ファウンドリー(Foundry)のケビン・ツァン(Kevin Zhang)氏は指摘する。

エネルギー源が豊富で暗号資産マイニングにフレンドリーな州でも、コストは問題となり得る。

「ケンタッキー州とワイオミング州の両方を検討したが、残念ながら、電力コストは私たちが問題ないと感じる水準ではない」と、ミネソタ州にあるマイナーホスティングサービスプロバイダー、コンピュート・ノース(Compute North)の創業者兼CEO、デイブ・ペリル(Dave Perrill)氏は語る。

「我が社は、業界の中でも低コストのプロバイダーの1つだが、エネルギーの調達についてはかなり慎重に戦略的で、非常にこだわっている。税金の問題だけを考えても、有利ではない」

中央アジアのビットコインマイニング中心地の中でも有数のカザフスタンは最近、ビットコインマイナーを惹きつけるための優遇措置を終了し、マイニング事業に使われる電力に対して課税を始めた。それでも北米のマイナーが中央アジアと同じ水準までコストを下げることは非常に難しいだろうと、リー氏は指摘した。

時間との戦い

ビットコインの価格高騰のために、既存のホスティング施設の大半がすでに一杯であることを考えると、中国マイナーの移転先決定におけるもう1つの大きな要素は、マイニング機器を運用するための新たな施設をどれくらいはやく建設できるか、という点だ。

マイニング業界のボトルネックは、新型コロナウイルスのパンデミックによってサプライチェーンでの危機に直面していた機器の調達と製造から、インフラへとシフトしたと、ツァン氏は語る。数カ月間でホスティング施設の容量の50%が使えなくなると、新たなホスティング施設への需要が大いに高まる。

マイニングに対する中国での取り締まりは、ビットコインのマイニング難易度を急激に減少させ、マイナーが同じ資源を使ってより多くのビットコインをマイニングできるチャンスを生み出した。マイニング難易度の減少により利ざやが大きくなる中、中国以外のマイナーはより多くの機器を運用するために新しい施設の建設を急ピッチで進めている。

「難易度は、遅くとも12カ月間で中国での取り締まり前の水準まで戻るだろう」とハンセン氏。「今後増加するハッシュパワーを考えれば、難易度はおそらく過去最高を記録するはずだ」

地元の建設業者、マイニングインフラに対する規制要件、中国からの距離などの理由から、中央アジアよりも北米でホスティング施設を建設する方が長い時間がかかる。

「アジアの建設業者はおおむね非常に効率的であり、プロジェクトを短期間で完了できる」とリー氏。「プロセスは非常にはやくなり、サイクルは短くなる」

ツァン氏によれば、建設のプロセスを遅らせる要素が他にも2つある。アメリカにおける許認可のプロセスと、マイニング施設に必要な資材だ。

「アメリカでは、変圧器や電気インフラには銅が使われる傾向にあるが、銅は現在、供給が逼迫しており、一方の中国やカザフスタンではアルミニウムが使われる」とツァン氏。「そのためにリードタイムがより短くなる」

フー氏によると、カザフスタンやロシアから中国への輸送にかかる平均時間は約2週間。一方、ペリル氏によれば、マイニング機器をアメリカまで海を超えて輸送するには、約7週間かかることもあるという。

ロシアと、カザフスタン、キルギスタン、ジョージアを含むCIS(独立国家共同体)諸国は、地理的に中国により近接していると、ロシアにあるマイナーホスティングサービスプロバイダー、ビットリバー(BitRiver)のCEO、イゴール・ルネッツ(Igor Runets)氏は話す。

「さらに、中国から北米へのマイニング機器への輸入には追加の関税が課される。進行中の米中の“貿易戦争”や、2国間のその他の緊張状態のためだ」とルネッツ氏は説明した。「このため、中国から北米よりもロシアやCIS諸国に機器を輸送する方がはるかに容易かつ安価で、時にはよりはやいのだ」

北米

だからと言って、北米が考慮されないという訳ではない。中国のマイナーの一部は、暗号資産フレンドリーな規制、政治状況、利害関係者の説明責任が問われるビジネス環境を理由に、アメリカやカナダを選んでいる。

「中国のマイナーの多くが移転先としている最も望ましい場所は北米だ」とツァン氏。「多くのマイナーがテキサスやアメリカの他の地域など、暗号資産やビットコインマイニングに対して非常にフレンドリーな場所を検討している」

アメリカの雑誌『National Review』によると、25の州議会で、2021年の会期中にブロックチェーンや暗号資産関連の法案が提出される見込みだ。

テキサス州のアボット知事は6月、ブロックチェーンと暗号資産に明確な法的枠組みを提供する、テキサス暗号資産法案に署名。共和党のシンシア・ルミス上院議員(ワイオミング州)は、ビットコインマイニング業者が無駄になっている天然ガスをマイニング機器に活用していると主張した。ケンタッキー州のベシア知事は3月、同州内のマイナーに優遇税制措置を与えるビットコイン・インセンティブ法案に署名した。

アメリカの他の有力政治家たちも、ビットコインマイニングに対して好意的になっている。マイアミのスアレス市長は、豊富な原子力発電による電力を基盤にして、マイアミがビットコインマイニングの中心地になるべきだと語った。次期ニューヨーク市長に見込まれるエリック・アダムス氏は選挙運動期間中に、ニューヨーク市をビットコインの中心地にすると誓った。

明確な法的枠組みを伴う、安定したビジネス環境は、中国のマイナーが北米を選ぶ理由の1つだ。

ツァン氏は「西洋においては、ずっと安定した法システムが存在する」とした上で、「誰が法的手段を持っているのか、何が期待されているのかが、すべて契約で定められており、裁判で強制力を持つ」と話す。

ビットコインマイニングと暗号資産はすでに、法的拘束力を持つホスティング契約が存在しないことも多い中国では、かなりのグレーゾーンになっていると、ツァン氏は述べる。

もちろん、すべての州がビットコインマイニング事業を歓迎している訳ではない。ニューヨーク、ワシントン、モンタナなどの一部の州では、ビットコインマイニングに対してより制限的な規制や法律が存在する。

口約束

中央アジアにおけるコストの低さとリードタイムの短さが、中国の多くのマイナーを惹きつけているが、彼らは中国と同じような課題に直面するかもしれない。

「ホスティング施設の作られ方という点では、中央アジアは中国に非常に似ている」とツァン氏は語る。「中国では、6〜9カ月以内に機器にかかった費用を取り返そうと必死になる。汚染した空気にさらされるために、あまり長くは持たないからだ。フィルターはあまり良質のものではないし、施設全体の質もそれほど優れてはいない」

さらに、北米に比べて中央アジアでは、正式な契約ではなく、口約束の方がより一般的で、法的な明確さや法的手段の欠如によって、マイナーの資産の安全性は低くなると、ツァン氏は指摘する。

一方、リー氏はそのような状況は変化している可能性があると述べる。

「それらの国々に対して、私たちは偏見を持っていると思う」とリー氏。「中央アジアや中東における規制やビジネスの環境は、北米ほど発展してはいないが、徐々に改善している」

中央アジアの国々は、電力供給という点でも競争力を持つ。「これらの国々のエネルギー供給量は比較的に少ないが、エネルギー消費も少ない。余剰エネルギーが存在する」とリー氏は指摘した。

新しい土地

ハンセン氏は、ベネズエラとパラグアイの復活にともない、ハッシュパワーの15%はラテンアメリカに移転すると予測する。

「私たちはラテンアメリカのマイニング業界を売り込んでいる。マイナーにとって魅力的だからだ」と、ベネズエラにある暗号資産マイニング企業ドクターマイナー(DoctorMiner)のCEO、テオドロ・アラウホ(Theodoro Araujo)氏は語る。「ベネズエラはマイニングの楽園のようなところだ」

アラウホ氏によれば、ドクターマイナーのホスティング施設が提供する電気料金は、関連費用をすべて含めてもキロワット時当たり0.04ドルと低く、ビットコインの現在の価格を考慮すると、マイニング事業は収益性の高いものになる。

比較的安価なエネルギーコストを可能としているのは、ベネズエラの豊富な水力発電による電力と、進行中の経済危機だ。

世界最大級のダムであるベネズエラのグリダムは、10ギガワットを超える設備容量を誇り、同国は石油や天然ガスの埋蔵量も世界屈指である。

グリダム近くの多くの工場や倉庫は、国内の経済危機によって麻痺状態に陥っており、そのインフラの一部を低コストで使うことができると、アラウホ氏は説明した。

2メガワットの容量を持つ施設を設置するのには、ひと月からひと月半かかるとアラウホ氏は語るが、多くのマイナーにとってはそれは早いと感じられるものだ。

ドクターマイナーでは、中国のエンジニアや専門の技術者を現地に招き、さらにリードタイムを短くすることを検討している。同国ではそのような労働者に労働許可を取得するのは難しくないからだ。

ドクターマイナーは現在、15メガワットの容量を抱えており、2022年までには50メガワットへと拡大することを目指している。拡張のためにパラグアイのマイナーとも連携する計画だ。パラグアイにも、隣国ブラジルと共有しているイタイプダムという巨大ダムがある。

パラグアイの議員カルロス・レハラ氏は7月、世界のマイニング企業やその他の暗号資産関連企業を呼び込むための法案を提出。可決されれば、ビットコインマイナーを含めた暗号資産企業が、同国での事業の資金を暗号資産を使ってまかない、配当金を海外に送金し、自国の銀行で利益を活用することができるようになる。

一方、エルサルバドルのブケレ大統領は、ビットコインマイナーが地熱発電の電力を利用できるようにするよう、国営の地熱発電所に指示した。

しかし、ラテンアメリカの国々が中国のマイナーを含めた国際的顧客を惹きつける上で直面する最大の課題の1つは、不安定な政治とビジネス環境だ。

ベネズエラの電力生産量の80%以上を占めるグリダムは、同国の16の州が2019年3月、4日間の停電に苦しんで以来議論の的となっている。電力復帰に長時間かかったことで、ダムの長年にわたるずさんな管理と、ダムの運営を監督する関連当局内の汚職が明らかとなった。

さらにベネズエラでは、気候変動を一因として、深刻で長期的な干ばつに苦しめられており、水力発電による電力が劇的に減少している。一部の州では電力を配給式にすることを余儀なくされた。

分散化の進展

結局のところ中国のマイナーにとって、明らかに目指すべき目的地はないのかもしれない。「多様化が大きな力となるだろう」とハンセン氏。「1つのエリアに集中することはない」

中国のマイナーが実際に今のところ、どこに落ち着いているのかを示すはっきりとしたデータはなく、お金の取引もまだ始まっていないと、カナダ・マイニング企業Hut 8のCEO、ジェイミー・レバートン(Jamie Leverton)氏は語る。

「皆が憶測を立てているが、すべては様々な地域から聞こえてくるインバウンドの需要に基づくものだ」とレバートン氏。「しかし、取引が行われ、事業が始まるまでは、言明するのは困難だ」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Banished Chinese Bitcoin Miners Look to the West, and Far Beyond