「暗号資産」という用語は変えた方がよいか【オピニオン】

「Great Reset(グレート・リセット)」など忘れよう。「FTX」という危機の影をひきずってダボス会議に参加した「暗号資産」、あるいは「ブロックチェーン」「デジタル資産」「分散型台帳テクノロジー」業界の関係者は、壮大なリブランディングを求めている。

※Great Reset:2021年のダボス会議のテーマ。あらゆるシステムの見直しを意味する。

ダボス会議への疑念

FTXの破綻を受けて、「暗号資産」や「NFT」という言葉は、この技術を実用性のない戯言と拒絶する懐疑派を、より刺激する言葉となっている。2018年のICO(新規コイン公開)バブルの頃の「ブロックチェーン」という言葉に匹敵するほどだ。

当時、ロングアイランド・アイスティー(Long Island Iced Tea)という会社が、ロング・ブロックチェーン(Long Blockchain Corp.)に社名を変更するという悪名高いニュースも生まれた。

ダボス会議では、ビジネスリーダーが議員に建設的な規制の必要性を説いたり、メイストリーム企業のリーダーの理解を得ようとする一方で、新しい用語についての議論が交わされた。

読者の多くは、こうした議論に嫌悪感を感じるだろう。中央集権化に向けた、権力掌握的な動きと考える人もいるかもしれない。

無理もないだろう。ダボス会議はしばしば、偽善、中身のない議論、エリート主義と批判され、暗号資産やブロックチェーンは既存の不公平なグローバル経済を変える可能性があると考える人にとって、批判対象となっている。

世界経済フォーラム(WEF)の設立者クラウス・シュワブ氏の「グレート・リセット」というアイデアに対して、陰謀論的な疑念を感じなかったとしても、既存システムの搾取的で、中央集権型の権力構造を存続させるビジネスモデルを持つ、ダボス会議の多くの参加企業や参加組織に対して、懸念を持つことは理解できる。

ネガティブなイメージ

しかし、「暗号資産」という用語が今、「Have Fun Staying Poor(貧乏なままでいることを楽しんで)」と公言する一部の暗号資産支持者や、「トークンカジノ」とも呼ぶ人もいる投機的な側面と広く関連づけられていることは明らかだ。

この用語が政治家や経営者に不快感をもたらす事実は、暗号資産業界のリーダーの取り組みを妨げる。

あまり奇妙に、恐ろしく聞こえない用語を探すことは、それほど悪いアイデアではなさそうだ。より普遍的で好意的に受け入れられるアイデアを表す言葉を探そう。

WEFのブロックチェーン・デジタル資産責任者ブラインリー・リール(Brynly Llyr)氏は、テクノロジーの機能を正確に表現しつつ、暗号資産カルチャーとのネガティブな関わりを連想させるリスクのない表現として「分散型システム」を提案している。

シンプルに「ブロックチェーン」を使おうと提案する人もいる。ブロックチェーンを活用して企業ニーズに取り組みたいと考えている企業にとっては、より受け入れやすいだろうというわけだ。

懸念は、かつてビジネス界では好まれていたが、分散型ではないため、真の価値をもたらすことのなかった「パーミッションド(許可型)」ブロックチェーンを連想させること。

とはいえ、今では、多くの企業がイーサリアムなどのパーミッションレス(非許可型)ブロックチェーン上でWeb3戦略を展開しており、「ブロックチェーン」の復活はそれほど悪いことではないかもしれない。

不正確な用語

用語にまつわる問題は、「暗号資産」のマイナスイメージだけにとどまらない。正確さと、大切なニュアンスを欠いている用語は他にもある。

例えば、「トークン」。パブリックブロックチェーンを支えるイーサリアム(ETH)のようなコモディティトークンから、ビットコイン(BTC)のような価値保管の手段としてのトークン、USDコイン(USDC)のような決済トークン、そして、希少なデジタル資産を象徴するNFTまで、トークンにはさまざまなタイプが含まれる。

これらがすべて、多くの場合に「クリプトカレンシー(暗号資産、仮想通貨)」というラベルで語られるが、「資産」「通貨」といった旧来的な考え方との関連を強めてしまい、かつ、法的・政治的に違った意味合いを感じさせることになる。

こうした不正確さは、業界関係者がサービス規約についてお互いに話し合うときに、さらには、政治家や暗号資産関連ではない企業と話し合うときに問題を生じさせる。

「話が噛み合わなくなることがあまりに多い。ある分野には当てはまるが、それ以外のすべての分野には当てはまらないような議論が展開されてしまう」とアクセンチュア(Accenture)でブロックチェーンを担当するデイビッド・トリート(David Treat)氏は述べた。

トリート氏が求めているのは「アイデンティティ、マネー、アイテムのトークン化の相互作用を表すことが可能で、近視眼的な1つの要素だけに限定されて、より広範で重要な議論を逃してしまうことのない」用語だ。

誰が決める?

FTXの破綻を引き起こしたような不正行為の予防策を考えることが一番大切な時に、用語の問題に執着することは的外れかもしれない。

しかし、コンプライアンス担当者たちが銀行に対して、「暗号資産」と関連したあらゆる組織(文字通りに解釈すれば、マイクロソフト、スターバックス、さらには大手銀行のBNYメロンも含むことになる)に対するサービスを停止するよう指示したという報道がなされるなか、用語を明確にすることは不可欠なことだ。

しかし、誰が決めるのだろう?

この業界がどのようなブランディングを行うべきかを決定できる、中心的なマーケティング部署も、最高ブランド責任者も存在しない。市場が、どの用語を使うかを決める。

つまり、今のところは「暗号資産(crypto)」を使うしかない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Bad Vibes from the Word ‘Crypto’ Have Some Calling for a Rebrand