メタバースがやってくる。企業はどう備えるべきか?

インターネットのバージョン2「ウェブ2.0」は、静的なウェブサイトから、新しいインタラクティブな体験と、ユーザーが生み出すコンテンツへのシフトを促し、世界を新たなパラダイムへと連れて行った。

そして現在私たちは、次なるステージへと進もうとしている。それまでに存在していたすべてのものの仕組みを壊す、劇的な転換だ。

バーチャルな世界、拡張現実、インターネットサービスが収束して生まれるバーチャルスペース、メタバース(仮想空間)がやって来るのだ。すべてを変えることになるだろう。

人間が相互に交流し、暮らす方法に大変革をもたらすことで、メタバースは企業やその事業運営の方法を再定義することになる。観察し、学んでいる企業もあり、彼らは取り残されないだろう。

新型コロナウイルス、世代交代、テクノロジーの発展に加速され、インターネットユーザーはますますバーチャルの世界で人付き合いをし、遊び、買い物をしている。一部のブランドはこのチャンスを捉え、提供するサービスに完全に没入型のデジタル体験を加えはじめている。

大手ブランドの取り組み

例えば、ファッション界のパイオニア、グッチ。先日同社は、オンラインゲームプラットフォーム「Roblox」のユーザーが、商品を吟味し、購入することのできる没入型マルチメディア体験「グッチ・ガーデン(Gucci Garden)」を発表した。

バーチャルプラットフォーム内に眠る価値を反映して、グッチ・ガーデンで発売された限定版デジタルハンドバックは、4000ドル以上と、同等の実物のハンドバックよりも高値で売れた。

グッチだけに限った話ではない。ルイヴィトンやバーバリーも、話題のゲームと手を組んでバーチャルリアリティの世界に進出。ナイキをはじめとする一部大手ブランドは、実物アイテムのバーチャルバージョンを販売している。

これら小売大手は、現代の流行を作る存在だ。彼らがバーチャルの世界に進出していることは、とりわけ若い世代に評価され続けたいと考えているブランドはメタバース内で、実世界の商品とつながるようなユーザー主導の完全に没入型のデジタル体験を生み出していく必要があるという事実を象徴している。

現在のメタバースにおいては、Robloxや、分散型3Dバーチャルリアリティプラットフォーム「Decentraland」など、バーチャルの世界を動き回るデジタルアバターによって人間が表されている。しかし、実世界に存在するユーザー自身とデジタルの世界に存在するアバターの間には、分断がある。

ブランドの観点から見るとこれは、2つの世界で商品を提供するチャンスがもたらされると考えることができる。現実の世界と、アバターに最新のデジタルスニーカー、パーカー、ハンドバッグを着せることのできるバーチャルの世界だ。

この新しい分野は、ユーザーがバーチャルかつ外部のブランド大使となることのできるステージを提供している。しかし、ブランドが既存のショッピング慣習や実店舗を真似る実世界の単なるデジタル版だと、メタバースを捉えることは近視眼的だ。

実世界とバーチャル世界の融合

メタバースが特別なのは、企業が慣習を破り、実世界の既存の限界にまったく囚われない世界を生み出すことを可能にするからだ。

ブランドは、想像力とクリエイティビティに任せ、実際の世界では起こり得ない体験を生み出すことができるようになる。実店舗が販売の中心ではなくなり、実世界とバーチャル世界が連結するチャンスも生まれる。企業にも消費者にも、まったく新しい体験的次元が生まれるのだ。

それは、消費者がメタバースでブランド品を探す冒険に出ながら、アクションを完了させたり、獲得したものを回収するために実世界でのショッピング施設へも足を運ぶ形でタスクを完成させるような、デジタルと実世界の融合型クエストという形態を取るかもしれない。実世界とデジタル世界は、区別できないほどに融合されるのだ。

実店舗での小売が不調の世界において、メタバースは企業に軸足を移すチャンスを与える。実世界とデジタル世界での商品やサービスを統合して、顧客に売るということの意味を取り戻すのだ。

今年人気が急上昇しているNFT(ノンファンジブル・トークン)を販売することは、メタバースで話題となり、ブランドアイデンティティを確立しようとするブランドにとっては必須となるだろう。

メタバースの参加者たちは、その価値が検証され、その希少性がよく知られたアイテムを保有することを通じて、社会資本を獲得する。ブランドは例えば、限定版デジタルスニーカー購入を希望する人に対して、そのデジタル資産を保有していることを証明する証明書を発行する必要があるだろう。

メタバースで販売を行うすべてのブランドがNFTを提供しているわけではない。4000ドル以上の値が付いたグッチのハンドバッグの場合、買い手はNFTを通じてではなく、Robloxでのみそのアイテムを所有する。つまり、50年後にRobloxがなくなれば、そのアイテムも同じようになくなるということだ。

所有権のコンセプトがメタバースにおいて意味を持ち、根づくためには、NFTが鍵となるだろう。

メタバースにアマゾンは必要か?

現在では、ログオンした時しかインターネットを体験できないが、メタバースでは、常に、あらゆる場所で体験できるようになる。インターネットと実世界が重なり合うことが可能になるのだ。これは、消費者との深い関係性を目指して事業を形づくる中、企業にとっては顧客がこれまで以上に大切となることを意味する。

メタバースの魅力の1つは、ユーザーが創造の一端を担える点だ。ユーザーが好きなように生み出し、探検することのできる分散型の空間なのだ。これは、ユーザーが開発者ツールキットを通じてゲームを構築していく、Robloxをはじめとする多くの既存ゲームプラットフォームでもそうである。

ブランドの観点から考えると、メタバースコマースの分散型の性質は、アマゾンのような、収益やテクノロジーの大きな部分を吸い上げてしまう仲介業者の助けを借りずに販売するチャンスを提供してくれる。より小口の販売者が、顧客の注目を取り戻し、収益や露出をコントロールし続けられる空間を提供してくれるのだ。

バーチャルエコノミーが実世界のエコノミーと同じくらいの価値を持つ未来がやって来ている。この先10年間で、テクノロジーは大いに発展し、実世界とデジタルの世界は区別できないほどに統合されるだろう。

ブランドがこの新しい未来に合うように転換していく中、所有権、クリエイティビティ、包括性をミッションの中核に置くようなユーザー主導の没入型体験を生み出すことへと、事業の重点を正していくことが極めて重要である。

ホリー・アトキンソン(Holly Atkinson)は、ゲーム理論がエンコーディングされたNFTを使ったdコマースエコシステムの先駆者となっているプロジェクト「Boson Protocol」でメタバーステクノロジーの責任者を務めている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:The Metaverse Is Coming, Companies Need to Prepare