8月のビットコイン(BTC)は心理的に重要な水準5万ドルの突破で苦戦が続いた。4月の過去最高値更新から50%以上下落ししばらく低迷が続いた後、8月は23%上昇して3ヵ月ぶりの高値を回復。9月に入って5万ドルを突破したのだが、過去最高値の6万4900ドルを狙う態勢はまだ整っていないようだ。
クラーケンの研究チーム「クラーケン・インテリジェンス」によると、これには4つの理由がある。
ビットコイン先物の建玉
まず注目したいのがビットコイン先物の建玉(未決済のまま残っている約定)だ。8月にビットコインは反発して強気相場が再開したにもかかわらず、8月終了時点でビットコイン先物建玉は332億ドルにとどまった。
確かに8月だけで100億ドル以上増えてはいるが、4月や5月の水準と比べて見劣りする。当時ほどレバレッジを使った取引への熱狂ぶりは高まっていないことが分かる。
資金流入額
暗号資産の投資ファンドを運用するグレイスケール・インベストメンツが手がける投資信託など、ビットコインとイーサリアム関連の投資商品への1週間あたりの資金流入額も、全盛期の水準まで戻っていない。
イーロン・マスク氏がテスラによるビットコイ保有を明かした第1四半期や、価格が過去最高値を更新した第2四半期と比較して、現在は機関投資家からの引き合いが弱いことが分かる。
グーグル検索トレンド
以下は、ビットコインとイーサリアム、カルダノ、ドージコイン、ソラナ、ドージコインのグーグル検索数の推移だ。
8月にひときわ好調だったカルダノ(緑)とソラナ(オレンジ)以外の暗号資産は、今年前半ほどの検索ボリュームを獲得できていないのが分かる。
レディット(Reddit)
最後に、アメリカの掲示板型ソーシャルニュースサイト「レディット(Reddit)」レディットの動向を見てみよう。ビットコインとイーサリアム、カルダノ、ソラナ、ポルカドットのサブレディット(特定のテーマに焦点を当てたコミュニティ掲示板)の一日あたりの登録者数だ。
上記サブレディットへの新規登録者数の合計をみると、現在は今年前半までに比べて勢いがないことが分かる。
以上が、ビットコインが本調子ではない4つの理由だ。
また、9月は歴史的にも「微妙」な月でもある。ビットコイン史上、9月の平均リターンはマイナス7%で、2011年以降で9月のリターンがプラスだった年は、2012年、2015年、2016年の3回しかない。
ゴールデンクロスの足音
一方で朗報もある。テクニカル的な強気シグナルである「ゴールデンクロス」が形成される気配があるのだ。
5月にビットコインは50日単純移動平均線(SMA)が200日単純移動平均線(SMA)を下回って、デスクロスを形成。中国のマイニング規制などネガティブなヘッドラインも相次ぎ、調整局面を迎えた。
4カ月ほどが経過した現在、今度は、50日単純移動平均線(SMA)が200日単純移動平均線(SMA)を上回るゴールデンクロスの足音が聞こえてきた。
ゴールデンクロス形成が阻止されるとしたら、9月にビットコインが1日平均で345ドル以上下がる必要がある。
順調にいけば、2、3週間後の9月中頃にもゴールデンクロスが形成される。もし、9月のビットコインが8月と同じペースで一日平均190ドルで上昇すれば、9月14日にもゴールデンクロスが形成されると期待できる。
ビットコインの歴史の中でゴールデンクロスが形成されたのは7回。90日後と180日後の平均リターンは、それぞれ13%と42%だ。年末にかけてビットコインが6万ドルを再び挑戦する機運が高まるかもしれない。
千野剛司:クラーケン・ジャパン(Kraken Japan)代表──慶應義塾大学卒業後、2006年東京証券取引所に入社。2008年の金融危機以降、債務不履行管理プロセスの改良プロジェクトに参画し、日本取引所グループの清算決済分野の経営企画を担当。2016年よりPwC JapanのCEO Officeにて、リーダーシップチームの戦略的な議論をサポート。2018年に暗号資産取引所「Kraken」を運営するPayward, Inc.(米国)に入社し、2020年3月より現職。オックスフォード大学経営学修士(MBA)修了。
※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。
|編集・構成:佐藤茂
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