ビットコインに対して、マイナーはブル(強気)だった?【Krakenリサーチ】

2022年9月15日、イーサリアムは大型アップグレード「Merge(マージ)」を無事完了し、コンセンサスアルゴリズム(合意形成の方法)がプルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)に移行した。

これまで膨大な演算を行うマイナーに依拠してきたものが、ブロックチェーンにトークン(暗号資産)をロックする(≒ステーキング)バリデーターにとって代わられ、イーサリアム上のエネルギー消費量がMerge前と比較して99.9%削減されたという。

イーサリアムのように巨大で影響力のあるブロックチェーンがコンセンサスアルゴリズムを変更するのは、これが初めてであり、イーサリアムの共同創設者ヴィタリック・ブテリン氏は、このMergeこそが、初期のイーサリアムと「私たちがずっと待ち望んでいた」イーサリアムとの違いを象徴していると述べた。

(クジラが保有するビットコイン<水色>とイーサリアム<紫色>/Kraken Intelligence)

活発なイーサリアムのクジラ、静観するビットコインのクジラ

クラーケンのリサーチチームである「クラーケン・インテリジェンス(Kraken Intelligence)」は、ビットコイン(BTC)のクジラを1,000BTC(約28億円)以上を持つアドレス、イーサリアム(ETH)のクジラを1万ETH(約19億円)以上を持つアドレスと定義している。

(ビットコイン<水色>とイーサリアム<紫色>のクジラの数/Kraken Intelligence)

クジラが保有するETHは月初8,120万ETHだったが、Merge完了の前日である9月14日に一時的に8,090万ETHまで減少、Mergeの無事完了を見届けた後にリバウンドし、8,150万ETHで月を終えた。

クジラの数は1,314アドレスから1,293アドレスに減少した。一方、BTCのクジラは比較的穏やかな様子で、保有量はほとんど横ばいの789万BTC、クジラの数は
2,151アドレスから2,124アドレスへと微減した。

ビットコイン、約2カ月ぶりの採掘難易度低下

ビットコインの2022年9月のパフォーマンスとしては、3%の下落にとどまった。20,154ドルに始まり、9月12日には高値の22,339ドルをつけ、その後下落し19,477ドルで月を終えた。なお過去の実績では、ビットコインの9月の騰落率の中央値は-7%であり、9月は下落しやすい傾向にある。

(ビットコインのドミナンス<灰色>と価格<紫色>の推移/Kraken Intelligence)

また、過去の傾向では相場の下落局面においてはBTCのドミナンス(暗号資産マーケット全体に対する時価総額の割合)は上昇しやすいが、2022年9月におけるBTCのドミナンスは37%から38%へとわずかに上昇するにとどまった。

9月27日には、ビットコインのマイニング・ディフィカルティ(採掘難易度)が約2.1%低下した。直近4連続(ディフィカルティは2016ブロックごと、約2週間に一度の頻度で調整される)で上昇してきたが、久々のマイナス調整となった。

それと同時に、1秒あたりの演算速度を示すハッシュレート(採掘速度)も226EH/s(読み方:エクサハッシュ)まで低下。ディフィカルティやハッシュレートの低下は、新規のブロック生成における競争の低下を示す。

その週は、BTCの時価総額が約30億ドル(約420億円)減少したが、マイナーが保有するBTCの総額もそれに歩調を合わせる形で減少した。この動向は、マイナーが直近のマーケットの乱高下の中においても、BTCを売却せずに保持した可能性を示す。

相場をベア(弱気)に見ていれば、特別な事情がない限り売却して換金するのがセオリーであり、今回下落局面にありながらBTCを保持していたマイナーたちはもしかしたら相場に対してブル(強気)だったのかもしれない。

リスクオン資産、リスクオフ資産それぞれとの相関が高まったビットコイン

(ビットコインとリスクオン資産(ナスダック<水色>/S&P500<紫色>)の相関係数の推移(90日ローリング)/Kraken Intelligence)
(ビットコインとリスクオフ資産(米国債<水色>/金<紫色>)の相関係数の推移(90日ローリング)/Kraken Intelligence)

2022年9月のビットコインは、株式などのリスクオン資産と米国債や金などのリスクオフ資産それぞれとの正の相関の高まりが見られた。

2022年8月時点と比較してみると、リスクオン資産であるナスダックとの相関係数が0.36、S&P500との相関係数が0.47であったが、9月においてはそれぞれ0.8、0.74へと上昇。リスクオフ資産である米国債と金との相関係数がそれぞれ0.21と0.45だったところから0.73、0.77へと共に上昇した。

相関係数は、1に近づくと正の相関、0に近づくと相関がなく、-1に近づくと負の相関があることを示す。暗号資産(仮想通貨)マーケットの話題は、これまでイーサリアムのMergeで持ちきりだったが、ビットコインについても、決済速度の上昇やコストの低い取引を実現するためのライトニングネットワークの開発が各方面で進む。

今後は「元祖」暗号資産であるビットコインの動向にも目が離せない。


吉田友斉:慶應義塾大学経済学部卒業。新日本監査法人(現 EY新日本有限責任監査法人)にて大手金融機関の監査、アドバイザリー業務等に従事後、金融庁に入庁。検査局において金融機関の検査業務に従事。2018年7月に暗号資産(仮想通貨)取引所「Kraken」を世界的に運営する米国Payward Inc.に入社。2018年11月Krakenの日本法人であるPayward Asia株式会社の財務・リスク・コンプライアンス部門統括取締役に就任。2022年7月より現職。 公認会計士(日本)。クラーケンHPはこちら:https://k.xyz/3Bt

※本稿において意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、所属組織の見解を示すものではありません。


|編集・構成:佐藤茂
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