暗号資産は犯罪向きではない【オピニオン】

CoinDeskのダニー・ネルソン(Danny Nelson)記者は先日、暗号資産分析企業チェイナリシス(Chainalysis)が警察当局への協力の一環として、ユーザーのIPアドレスを収集するウォレットのエクスプローラーサイトを運営していることを示すプレゼン資料を記事にまとめた。

無差別的な監視ではなく

IPデータを収集するハニーポットウェブサイトというのは間違いなく不気味だが、チェイナリシスの手法は称賛に値すると述べたい。なぜなら、無差別の監視としてではなく、標的を絞った捜査の一環としてデータの収集が行われていたからだ。

アップルのような企業に対して、すべてのユーザーのプライバシーを犠牲にするようなシステムへの裏口を求めて圧力をかけたり、侵略的で無差別な監視要件を伴う暗号資産法案を押し進めるなど、世界各国の議員たちは時にその区別を見失いがちのようだが。

今回の件で特に注目すべきなのは、問題のブロックエクスプローラー「walletexplorer.com」が、少なくとも西欧においては、とりわけよく知られたものではないという点だ。その点は、サイトの古臭い見た目と相まって、チェイナリシスが犯罪者たちの世界において、より主流なブロックエクスプローラーに代わる「安全な」ものとして、同サイトを積極的に売り込んでいた可能性を示唆している。

流出した文書が説明している通り、チェイナリシスのブロックエクスプローラーが収集したIPアドレスは、捜査対象の実世界での身元を特定するのに役立たせるため、ブロックチェーン内外のデータと相互に関連づけられたのかもしれない。つまり、チェイナリシスの標的となっていなければ、同ブロックエクスプローラーを訪問しただけで、あなたの身元情報が犠牲になった可能性は低い。

当記事は犯罪者向けのアドバイスコラムではないが、そうだとしたら、ここが重要な点だ。犯罪のために暗号資産を使ってはならないのだ。

暗号資産とプライバシー

どういう訳か、ビットコインは初期のころ、「匿名である」と表現されることが多かったが、それは大いに不正確である。多くの場合、機能するために取引データの透明性を保つ必要のあるパブリックブロックチェーンに、真のプライバシーを導入することは極めて困難である。この場合の取引データとは、ビットコインの場合には、これまでのあらゆる取引の公開記録を含む。

ビットコインウォレットはユーザーの名前が付属していないという点では、一般的なプライバシーを有益なレベルで守ってくれるが、相互に関連づけることのできる大量のメタデータが存在するのだ。

ここ数年間で、そのようなデータはしばしば、実世界での名前につながることがますます明らかとなってきた。チェイナリシスが収集したIPアドレスも、明らかにヒントとなるものだが、それだけではないだろう。

プライバシーを重視して作られた暗号資産でさえも、大いなる制約を抱えているようだ。プライバシー重視のモネロブロックチェーン上の捜査の65%で、「有益な手掛かりを提供」できたと、チェイナリシスは主張している。

マネーロンダリングサービスを探しているのなら、より良いオプションがある。大物ならば、メガバンクのHSBCに連絡すれば良い。HSBCはメキシコの麻薬カルテルの違法なニーズに対して、極めて良く対応している。

より秘密を重視するなら、バチカン市国を訪問したらどうだろう。ローマ教皇庁は「グラディオ作戦」の一環として、関連銀行を通じて、CIAの麻薬資金をイタリアやヨーロッパ中でテロリスト組織に流すのに重要な役割を果たしていたようだ。

繰り返しになるが、これは犯罪者向けアドバイスコラムではない。しかし、私は有益な情報を提供しているのだ。

チェイナリシスのおかげで、ブロックチェーンネットワーク上での犯罪行為のレベルは低いことはすでに分かっている。犯罪はブロックチェーンテクノロジーが適合するように作られた用途ではないし、これからも決してそうはならないかもしれない。より多くの人がそれに気づけば、法律を守る市民のプライバシーを体系的に犠牲にする負担を強いるように当局が圧力をかけることはより難しくなる。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Who Watches the Chain Watchers?