データから見る暗号資産の犯罪利用の実情【コラム】

データから見る暗号資産の犯罪利用の実情【コラム】

暗号資産(仮想通貨)に対して向けられる変わらない批判のひとつが、「麻薬密売人とブラックマーケット参加者だけが使っている」というものだ。

この古臭い決まり文句の人気が衰えないのは、(最近では、暗号資産の合法な用途も数多く見られるのにも関わらず)一般の人たちに広がる誤解のせいかもしれないが、私たちの多くが初めて暗号資産について耳にした時の記憶のせいかもしれない。

オンラインブラックマーケット「シルク・ロード(Silk Road)」での利用だ。

もちろん、暗号資産が違法な目的のために幅広く使われている、あるいは使われていない、といった記事を書くには、はっきりとしたデータが大切だ。(少なくともこの目的のためには)ありがたいことに、暗号資産を支えるブロックチェーンはおおむね透明性が高く、チェイナリシス(Chainalysis)やサイファートレース(CipherTrace)、クリスタル・ブロックチェーン(Crystal Blockchain)などの企業がブロックチェーン調査サービスを提供している。

そしてそのような企業は、かなり良い仕事をするようになってきているのだ。

例えば、チェイナリシスは、ランサムウェア、詐欺、国家レベルの広範な制裁に対する違反、テロリストへの資金提供など、複数の種類の犯罪での暗号資産の利用を分析する「暗号資産犯罪報告書(Crypto Crime Report)」を毎年発表。

2月に発表された2021年版の報告書から、暗号資産が犯罪者のみによって使われているという印象がどれほど正しいのかを探ってみた。報告書で扱われている犯罪は、どれも関心を寄せるべき重要な犯罪であるが、当記事では、ダークウェブマーケットプレースに的を絞ることにする。

それでは早速、数字が語る現実を見ていこう。

その前にまず、暗号資産が使われた違法行為全体に関して、チェイナリシスの報告書の中で取り上げておくべき興味深いポイントがいくつかある。あらゆる取引が公開の台帳に記録されるため、本来なら暗号資産は、犯罪に使うには最悪のはずだ。

データもおおむね、それを裏付けているようだ。

違法アドレスが1年間に受け取った暗号資産の合計額
出典:Chainalysis

2021年、違法行為と関連した暗号資産の合計額は140億ドル。暗号資産以外でどれほどのお金が違法行為のために使われているのかはわからないが、世界のGDP80兆ドルの、かなりの割合を占めるだろう。例えばその割合が22%とすると、17兆ドル。それと比べれば、140億ドルなんて取るに足らない額だ。

しかし、そこが核心ではない。暗号資産は確かに違法行為を可能にするし、2020年から2021年にかけて、違法行為と関連した暗号資産の額も増えている。しかし暗号資産の名誉のために言うと、すべての暗号資産取引高に占める違法行為関連の額は2019年以来減少し、現在ではわずか0.15%となっている。

暗号資産の全取引高に占める違法行為関連の取引高の割合
出典:Chainalysis

つまり、違法行為に使われる暗号資産の額は増えているが、合法な暗号資産の利用は、それをはるかに超えるペースで増大しているのだ。

それでも、チェイナリシスの報告書の主要なポイントの1つは、2021年における暗号資産の違法な取引の大半(〜53%)は、詐欺や盗みに関連するものであったという点。これらは深刻な問題ではあるが、暗号資産にも旧来の金融市場にも内在する問題だ。お金儲けのチャンスがある場には、偽の約束や盗みがつきものである。

そこで、暗号資産が独自の形で支える犯罪行為を見てみるべきだろう。前述の「麻薬密売人とブラックマーケットの参加者」たちの行為である。

暗号資産とダークウェブマーケット

違法行為の蔓延するインターネットの一角、ダークウェブマーケットは2021年、収入記録を更新。合計で21億ドル相当の暗号資産収入を稼ぎ出した。

違法アドレスが1年間に受け取った暗号資産の合計額
青(ダークウェブマーケット)、黄(詐欺ショップ)
出典:Chainalysis

ダークウェブマーケットへと送金された金額の合計はかなり急速に増加しているが、送金の回数は、2016年の1170万回から2021年の370万回へと、ここ5年間で減少している。

同時に、ユーザー数の合計も減少した。送金とユーザー数が増加していないということは、送金額の増大の要因は1回の送金額の増加。実際、同じ5年間で、平均の支払い金額は160ドルから493ドルへと増えている。

続いては、2022年は今のところどんな感じなのかを見ていこう。

ダークウェブマーケットの2022年

チェイナリシスは8月16日、2021年版報告書をアップデート。2022年の興味深いデータが浮き彫りになってきた。

まず何よりも、違法アドレスが受け取った暗号資産の年初からの合計額は、2019年と2021年の同じ時期と比べて、2022年の方が少なくなっている。

1年に違法アドレスが受け取った暗号資産の額(月ごとの累進)
出典:Chainalysis

あらゆる犯罪行為に関連する暗号資産の額は、2022年の年初から7月までの方が、2021年の年初から7月までよりも少なくなっており、チェイナリシスのブログには、次のように記されている。

「全体的に、犯罪行為は値下がりに直面してもより高いレジリエンスを示しているようだ。合法な暗号資産取引額が前年比で36%減少しているのに対し、違法行為に関連する暗号資産取引額は前年比でわずか15%減である」

チェイナリシスのアップデートの残りの部分は、2022年にどのような犯罪行為が増加、減少したかについてのアップデートである。その中でも、ハッキングと盗みが増加し、詐欺は減少したことは注目だ。さらに注目なのは、ダークウェブマーケットの収入にも減少が見られたことだ。

1年にダークウェブマーケットが受け取った暗号資産の額(月ごとの累進)
出典:Chainalysis

この減少の主な理由は、世界最大かつ最も有名なダークウェブマーケット「ハイドラ・マーケット(Hydra Market)」が4月に閉鎖されたことだろう。ドイツ当局は、ロシアを拠点としたこのダークウェブマーケットプレースを閉鎖し、アメリカはさらに、関連する何百ものビットコイン(BTC)ウォレットを制裁対象リストに加えた。

収入の減少は、当局がダークウェブマーケットでの犯罪を検知するのが上手くなっていることを示唆している。しかし、チェイナリシスは次のように、大事な点を指摘している。

「業者は配送の匿名性を高めるためにさらなる方策を講じ、買い手はそのような業者と直接取引を始めている。これらのトレンドが、急速に成熟するダークネットマーケット業界の現状を象徴している」

つまり、当局がダークウェブマーケットを検知する精度も上がっているが、ダークウェブマーケットが捜査をかわすのも上手くなっているのだ。そこで、このデータを見るときに考慮するべき、プライバシーコインについての重要なポイントが浮かび上がってくる。

プライバシーコイン

プライバシーコインとは、プライバシーをデフォルトオプションとして持つ暗号資産。ビットコインやイーサ(ETH)とは明らかに異なるものだ。最も有名な2大プライバシーコインはモネロ(XMR)とジーキャッシュ(ZEC)である。

プライバシーコインを追跡するのは極めて難しく、ブロックチェーン調査企業は、ZEC取引の一部を追跡できると謳っているが、特定するための情報ははるかに少ない。一方のモネロは、追跡が驚くほど困難(あるいは不可能?)で、米内国歳入庁(IRS)では、モネロのコードを解読できた人に、62万5000ドルの報奨金をオファーしている。

そのため、ダークウェブマーケットがビットコインのような透明性の高い暗号資産に見切りをつけて、モネロのようなプライバシーコインを使うようになるのも当然だ。チェイナリシスによれば、モネロのダークウェブマーケットでの利用は増大。2019年にはダークウェブマーケットの45%がモネロでの決済に対応していたのに対し、2020年にはその割合が45%まで増えている。

しかし、モネロはそれ以外のより透明性の高い暗号資産からマーケットシェアを奪ってはいるかもしれないが、ビットコインはいまだに、ダークウェブマーケットの93%で採用されており、ダークウェブにおけるビットコインの優勢がうかがえる。

そのため、ダークウェブマーケットプレースユーザーが送金する暗号資産の額の減少は、プライバシーコインへのシフトが一因かもしれないが、それよりも、当局の犯罪阻止の力が向上していること、ブロックチェーン分析の精度が高まっていることのおかげである面の方が、大きいはずである。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Criminal Crypto Use Is Growing, but That’s Just Half the Story


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