超高速決済・送金は未来をこう変える【オピニオン】

超高速決済・送金は未来をこう変える【オピニオン】

2008年頃、野心的なスタートアップが、シカゴからニューヨークへとトンネルを掘ることを決断した。最終的なコストは3億ドル(約340億円)と、困難かつ高くつくプロジェクトだ。

そのトンネルは、前例のないようなスピードで、非常に価値あるものを移動させ、顧客たちはその恩恵を受けるために、気前良く支払いをするはずだ。

しかし計画されたトンネルは、新しい高速道路でも、高速鉄道でも、ガスパイプラインのためでもなかった。モノや人、素材を動かすためのものではなく、背の高い人なら直立するのも難しいほどの狭いトンネルだ。

トンネルが移動させるものはただ1つ、お金だ。

2010年に完成した、スプレッド・ネットワーク(Spread Network)が手がけた新トンネルは、シカゴからニューヨークまで、トレーディングオーダーを送る光ファイバーケーブルを内蔵。

通信速度は、第2位のケーブルよりも、3ミリ秒(0.003秒)速かった。3ミリ秒と言うと、わずかな差に聞こえるかもしれないが、ユーザーは競争相手に対して、決定的な強みを持つことができる。トンネルの顧客は当時流行の「高頻度取引」投資企業であり、各社のアルゴリズム戦略はしばしば、同じシグナルに反応していた。

3ミリ秒速いということは、トレーディングポジションに対して、繰り返し優位な値段を得られるということを意味した。少なくとも理論的には、お金を生み出すツールであったのだ。

それから10年が経ち、私たちはお金のスピードに関して、異なる時代に突入している。インターネットと革新的なブロックチェーンテクノロジーを活用して、暗号資産(仮想通貨)は既存の銀行や支払いシステムよりもすばやく、世界中でお金を移動させ、同時に仲介業者ではなく、ユーザーに直接コントロールを握らせることができる。そのことは、コマース、グローバル化、そして何よりも投資にとって、多くの意味を持つだろう。

スピードについて語るときに私たちの語ること

前述の内容に、小さな不正確さが含まれることに気づいたかもしれない。スプレッド・ネットワークの光ケーブルは、シカゴとニューヨーク間で「お金を動かしていた」訳ではない。

その代わりに、オーダーを送信していたのであり、それを使うトレーダーたちはおそらく、そのオーダーを支えるだけの資産を持っていると保証するだけの信頼のある関係、クレジットライン、その他の手段を持っていたはずだ。

このような2段階システムが、現在の通貨送金の大多数である。誰かに紙の小切手を渡すという行為を考えてみよう。

(時代錯誤なアメリカ以外に住む人のために説明しよう。あなたは「通貨」を渡していることになるのだろうか?そうではない。あなたの銀行口座から通貨を届ける、という約束を渡しているのだ。相手が小切手を預け入れると、その銀行とあなたの銀行が複雑な一連のやり取りを行い、その金額が利用可能であることを確かめる)

通貨が実際にひとつの銀行の台帳から、別の銀行の台帳へと動くのは、そのやり取りが、皆が満足するように決着してからだ。それには、小切手が銀行に預け入れられてから、ましてやあなたが小切手を渡してからは、かなりの時間がかかることもある。国際的な送金では、取引が実際に「決済」されるまでには、さらに高レベルなやり取りと確認が必要となる。

ペイパル(PayPal)、マスターカード(Mastercard)、ベンモ(Venmo)など、「ファスト・マネー」の第一陣は、そのようなモデルをひっくり返してはいない。それらのサービスはおおむね、内部台帳を調整する自己完結型のウォールドガーデンを作るか、送金と決済の間の遅れを引き受けるある程度のリスクを負うことによって、「より速く」お金を動かしている。

ウォールドガーデン:クローズドなプラットフォームで、自社のプラットフォーム内にユーザーを可能な限り留めさせ、ユーザーデータや情報を保持する組織や企業のこと。

(このため例えばペイパルでは、「より速く」送金するために追加の手数料を支払うことができるのだろう。より高速な処理のコストを負担しているのではなく、決済リスクが高まることに対して、保険料を支払っているのだ)

暗号資産が「より速い」と言う場合には、スプレッド・ネットワークが光ファイバーケーブルで成し遂げようとしていたタイプのスピードについて話している訳ではない。

ビットコイン(BTC)は魔法のように、マスターカードよりも速くデータを送信できたりはしない。そうではなく、暗号資産の「スピード」とは、決済段階のものなのだ。お互いを信頼しているかどうか分からないような銀行間の複雑な秘密のやり取りの代わりに、ビットコインをはじめとする暗号資産は、送信と決済を組み合わせている。

だからこそ暗号資産は、「デジタルキャッシュ」と呼ばれる。暗号資産を送金すると、受け取り手が直接保有、管理するものとなる。送金と決済の間に区別はない。ビットコインの場合には送金にかかる時間は10分、手数料は3ドル未満だ。

バックエンドでの違いはあるが、暗号資産のスピードも、高頻度取引トレーダーたちがスプレッド・ネットワークに求めたのと同じ敏捷性を提供する。異なる暗号資産システム間の相互運用もより高速になっており、世界的に相互運用可能な高速支払いシステムが生まれている。

それが可能となっているのは、ペイパルとは違い、暗号資産ネットワークがオープンアクセス式だからだ。誰でもサービスを接続したり、独自のフロントエンドを構築したり、何でも可能である。

これが、小売業における支払いに対して、大きな影響を与える方法を思い描くのは難しい。暗号資産のボーダーレスな性質は、細かいところで意義のある新しい可能性を開くことは確かだが、ペイパルでも、クリスマスプレゼントの注文には十分なスピードを発揮する。

1つの例外は、利便性のために貧しいユーザーたちに法外な手数料をふっかけることに依存しているクレジットカードのビジネスモデルだろう。消費者フレンドリーな暗号資産サービスが、債務という束縛なしで同様の利便性を提供すれば、大変革が起こるかもしれない。

国境を超えた送金への影響の方がよりはっきりとしているが、それほど興味深くはない。ウエスタンユニオンといった企業が古いルートを利用して、一部の国への送金に信じられないほど高い手数料を課している。

手数料の低さとサービスの質については、暗号資産が勝っているが、認知度や複雑さ、ユーザーエクスペリエンス(UX)の点ではまだまだ改善の余地がある。しかしあと数年もすれば、ウエスタンユニオンの送金サービスが存続し続ける理由はなくなるだろう。

高速投資という恐ろしい未来

つまり、買い物に関しては、クレジットカードやペイパルでの支払いと、暗号資産での支払いの間には、それほど大きな違いはない。送金に関しては、暗号資産の強みは、奇妙なところもほとんどなく、はっきりとより優れている。

しかし、変化が深く奇妙であり、予期しない結果も多くもたらされる分野が1つある。暗号資産ではできるが、マスターカードやペイパル、ウエスタンユニオンではできないことは、10分間で世界の反対側にいる他人と、大規模な投資をまとめることだ。

暗号資産のエンドツーエンドのスピードが、集団的な金融プロジェクトに対してまったく新しい領域を切り開き、それは真にワイルドなものとなるだろう。

ここ数カ月でも、このような新しい種類の「高速投資」の劇的な例を私たちは目の当たりにしてきた。例えば「ConstitutionDAO」は約1週間で、希少な合衆国憲法の原本を買うために、4000万ドルもの資金を集めた。

それは従来の意味での投資とは少し異なっているが、数年前であったとしても、そして時には今でも、4000万ドルの新しいベンチャーキャピタルファンドが発表されれば、主流メディアで見出しを飾るのに十分であったことを考えてみて欲しい。

伝統的モデルにおいてそのような4000万ドルは、手に汗握る会議と、手の込んだプレゼンを経て、苦労して手に入れるものである。しかし今では、最近リッチになったばかりの変わり者たちが、部屋から一歩も出ることなく、ニコラス・ケージのミームを使って、そんな多額の資金集めをやってのけたのだ。同じようなことが、より伝統的な暗号資産関連のベンチャーキャピタルの取り組みでも起こっている。

伝統的VC(ベンチャーキャピタル)でも、暗号資産VCでも、資金を投資するスピードがこれまで以上に大切になっているというのは共通のテーマだ。話題のスタートアップや創業者からリターンを得たければ、ミーティングに最初にこぎつけて、資金を差し出してこなければいけないのだ。資金調達のプロセスが一段と高速になるにつれ、この傾向はさらに顕著になるだろう。DAO(自律分散型組織)として行われるVCプロジェクトなら尚更だ。

しかしここで、本当のデメリットが見え始めてくる。資金の調達と分配のスピードの高まりは、あらゆる種類の投資を長年にわたって特徴づけてきた、慎重な意思決定に圧力をかけるだろう。

戦後の西欧金融システムは間違いなく、資本主義における第一線での計算高い兵士、アナリストの台頭に特徴づけられている。アナリストの仕事は、棚卸資産や利ざや、企業が実際にやっていることといった退屈な事柄や、提案されたスタートアップの潜在市場といったものを検討することだ。

アナリストは、銀行やヘッジファンドで日の当たらない地味な場所で働いている。より明るい場所で仕事をしているのは、銀行やファンドに新しい資金を連れてくる人たちや、資産を売買するブローカーだ。

このようなモデルにおいては、少なくとも構造的、技術的制約のために、資金の調達も配備もゆっくりと思慮深いプロセスである。アナリストは、スロー・マネーの産物と呼べるかもしれない。

通貨のスピードが上がるに伴って、現状のような量的緩和政策が施された環境においてはとりわけ、アナリストはますます遅れた存在となっている。投資家やVCによる決断は、アナリストの代わりに、「マネーの雰囲気」とでも呼ぶべきものに基づくようになっていくだろう。

投資アプリ「ロビンフッド(Robinhood)」や暗号資産の世界で投資を牽引するミームや、ソーシャルメディアでの話題の力は顕著になっているが、金融系メディアにおいてさえもおおむね、特異なものやジョークのように扱われてきた。実際にこのトレンドは、始まったばかりだ。そしてこの先、暗号資産が可能にする資本の集積における、高速な未来の仕組みを定義することになるだろう。

最も知識を持った投資家やVCという少数のエリートにとっては、素晴らしいことになる。高速の判断は、本質的に悪い判断ということではなく、逆にアナリストが慎重に検討した少なからぬ数の投資も、はやばやと失敗に終わってきた。

「何が起こっているかを本当に理解していれば、何が起こっているかを知るために何が起こっているかを知る必要はない」と、投資の古典的著作『マネー・ゲーム―情報に賭ける社会』の中で、アダム・スミスというペンネームを使った著者は述べた。「しっかりとした統覚と150のIQがあれば十分だ。(中略)見出しなんて無視しても大丈夫。何カ月も前に予測できていたのだから」と。

それは、通貨が加速しても変わらない。大きな勝利を収めるのは、同じタイプの人たちだ。時代の波に乗った、直感的で自信があり、判断力の優れた人物である。

しかし、加速した投資環境においては、敗者はだいぶ異なっているかもしれない。ConstitutionDAOの実現を支えた、映画『ナショナル・トレジャー』のミームが、「メタバース・ベンチャー・キャピタルDAOをスタートする」ことについてのミームだったらどうだろう?

たった今、話題沸騰中のセクターについての魅力的なミーム(あるいは単なるキャッチフレーズ)は、小口のアマチュア投資家を大量に惹きつけるだろう。特に、投資するのに数回クリックするだけで良いとしたら、尚更だ。そのような人たちは、業界トップのVCと、業界20位のVCの違いも分かっていない。市場のニュアンスもそれほど分かっていない。優れた投資家に必要な、感情面での自己統制力も持っていない。

そのため多くの場合、ファスト・マネーな環境の中では、彼らは破滅する。投資は矢継ぎ早な高騰と急落の繰り返しとなり、敗者の負けも高速になる。

ところで、私たちは最近では、SPAC(特別買収目的会社)というものによって、高速投資のローテク版プレビューのようなものを目の当たりにしている。

その焦点は初期の資金調達というより、買収にあるが、SPACは株式市場を、高速なVC資金調達のルートのように使っている。SPACは電気自動車のような話題セクターに重点を置いたが、実際の参加者よりもチャマス・パリハピティヤ(Chamath Palihapitiyah)氏やビル・アックマン(Bill Ackman)氏など、カリスマ的投資家たちにより利益をもたらす、おおむね芳しくない投資に終わっている。

速さの行き着く先

高速環境の結末の1つは、皮肉なことに、個人としての評判や人脈の役割の増大となるかもしれない。最高の投資手段は、個人的な人脈と、本当に内情に通じている人たちの直感に基づき続ける一方、宣伝用のツイートのカモとなる人たちからは、ミームマネーが集まるだろう。

少なくとも原理上はそれが、米証券取引委員会(SEC)がヘッジファンドやVC投資を「適格投資家」のみに限定している理由だ。しかし、技術革新と批判の高まりは、そのような制限をあまり長くは維持できないことを示唆している。

(注目すべきことに、適格投資家ルールの最大の批判者は、VCやヘッジファンドの運営者である傾向にある。それがどういうことか、考えてみて欲しい)

国民の資産を、最善の投資先が存在しない国内に留めておきたい中国のような国にとっては、さらに深刻な問題だ。中国が今年行った暗号資産取り締まりを、プルーフ・オブ・ワークによる電力消費や、投機や詐欺のリスクにまつわる懸念によるものというよりも、資本逃避が数クリックでできてしまうような環境を阻止するための取り組みと見るのは簡単だ。

経済が低迷した国々が、自らがこの先直面する問題を認識するに伴い、同じような動き、あるいはさらに厳しい措置を取るのは間違いない。

それも当然だ。資本逃避は、経済的に上手くいっている新興国にとっても真の脅威なのだ。しかし、暗号資産投資はそのような場合に、諸刃の剣となるかもしれない。

世界の目立たない地域での魅力的な投資は、より簡単に資本を集める可能性があるからだ。それは発展途上世界において、より多くの富と大きな勝者と同時に、ボラティリティと、経済階層の最下層にいる人たちへのリスクを生み出してきた、ここ30年間の経済グローバル化と経済統一への道と呼応するものである。

高頻度取引トレーダーにとっても、スピードは諸刃の剣となった。彼らはいまだに重要なプレイヤーであり、取引高においては資産取引の大きな割合を占めているが、高頻度取引戦略によるリターンは、ここ10年で低下している。

シカゴ・ニューヨーク間の光ファイバーケーブルトンネルを開発した非上場企業スプレッド・ネットワークも、スピードから利益を上げてはいないようだ。同社は2017年、トンネル建設にかかった費用を考えればだいぶ目減りした1億2500万ドルで買収されることになっていた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:Money at the Speed of Thought: How ‘Fast Money’ Will Shape the Future

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