暗号資産規制に動く欧米議員、そびえる世界の壁【コラム】

暗号資産(仮想通貨)の存在は、アメリカとヨーロッパの政治家の活動をより多忙なものにしている。

彼らは本当であれば、協力すべきなのだ。さらに言えば、世界中の政治家たちと連携するべきだ。国境をほとんど気にも留めないテクノロジーに対処する場合には、一段とボーダーレスなアプローチが必要とされる。

ここひと月のアメリカでの動きを見てみると、共和党のシンシア・ルミス(Cynthia Lummis)上院議員(ワイオミング州)と民主党のキルステン・ジリブランド(KIrsten Gillibrand)上院議員(ニューヨーク州)は、包括的暗号資産法案を共同で起草。

共和党のパット・トゥーミー(Pat Toomey)上院議員(ペンシルベニア州)は、ステーブルコイン規制のためのフレームワークを提案。そして民主党議員らが、現金のように使えるデジタルドル開発のための、「Electronic Currency And Secure Hardware Act(電子通貨・セキュアハードウェア法)」の法案を提出した。

一方、ベルギーのブリュッセルでは、EUの重要な暗号資産規制法案「Markets in Crypto Assets(MiCA)」が、欧州議会、欧州理事会、欧州委員会での「三者協議」の段階に入った。

この法案は、EUの27の全加盟国で有効な、暗号資産サービス提供業者向けの「パスポート型」ライセンスを供与するための、単一のモデルを生み出すことを目指している。先月の紙一重の投票で、この法案からは、環境への負荷を理由にプルーフ・オブ・ワーク(PoW)マイニングを禁止する厳しい規定が削除され、現在はステーブルコインに重きを置いたものとなっている。

暗号資産コミュニティの立場から言えば、アメリカやEUにおけるこのような様々なアプローチには、メリットとデメリットがある。そもそも、すべてが無意味となる可能性もあるのだ。

主要欧米諸国の外で活動する開発者たちの存在は、暗号資産が本質的にグローバルなもので、最も抵抗の少ない場で成長するということを痛感させてくれる。そうなると、ヨーロッパやアメリカで暗号資産業界を規制、管理するためのあらゆる決定にも、大きな影響が出てくるのだ。

国際的普及

例えばアフリカでは、大手暗号資産取引所FTXと、ケニアの首都ナイロビに拠点を置くAZAファイナンスのパートーナーシップによって、様々な法定通貨を使うアフリカの人たちがWeb3コマースやシステムを利用するための、オン/オフランプのネットワークが誕生しようとしている。

これは、アフリカでの暗号資産利用が盛況を迎える中での進展だ。暗号資産分析企業チェイナリシス(Chainalysis)がまとめた2021年のグローバル暗号資産普及インデックスでは、合わせて約2億6000万人の人口を抱えるケニアとナイジェリアがそれぞれ第5位と6位にランクしていた。

昨年の6月時点では、ピアツーピア暗号資産決済をリードするパックスフル(Paxful)の最大の市場はナイジェリア。150万人のユーザーを抱えていた。さらに、暗号資産イノベーションのハブが、ナイジェリアのラゴス、ケニア、南アフリカのヨハネスブルクやケープタウンで栄えており、分散型金融(DeFi)やNFT(ノン・ファンジブル・トークン)プロジェクトが、各地で始動している。

一方、大手取引所は、中東での事業開始を急いでいる。アラブ首長国連邦において、新しく融和的な法律が整備されるに伴って、バイナンスは先日、バーレーンとドバイで事業を行うための、比較的自由なライセンスを獲得した。アブダビでも、実質ブローカーディーラーとして事業を行う認可を受けた。同じ頃、FTXもドバイでの操業ライセンスを取得している。

ウクライナも忘れてはならない。軍事行動のサポートと人道支援のためにウクライナに前例のないほどの暗号資産による寄付が集まることとなった、ロシアによる侵攻の前から、ウクライナは暗号資産普及で世界をリードしていた。ゼレンスキー大統領が暗号資産を合法化する新しい法案に署名した今、暗号資産の利用でも、おそらく世界をリードしているだろう。

規制当局にとっては危うい規制対象

暗号資産開発者にとっては、前述のような地域が暗号資産開発の活発な場だ。政府が暗号資産に対してフレンドリーな姿勢を持つだけでなく、普及が急ピッチで進んでおり、暗号資産開発者たちが、収益性のある暗号資産サービスを提供するよう促すような、好循環が生まれているのだ。

デジタルでノマド的に生きられる開発者たちは、そのようなチャンスを活かすために、実際にそのような地域に引っ越す必要もないので、そのようなチャンスに飛びつくペースも、非常にはやいものとなっている。

これはつまり、アメリカやヨーロッパが暗号資産サービスの開発を抑制、管理しようと単独で取り組んでも、暗号資産をめぐるより広範なエコシステムは、開発と成長を続けていくことを意味する。

しかも、アメリカやヨーロッパにとって利益のある形で成長を続けるかどうかは、まったく保証がない。

事実、プルーフ・オブ・ワークマイニングをEUで禁止しようとする試みを挫いた主張は、温室効果ガスを排出するエネルギー事業者に対して、ビットコインマイナーを自らの地域へと呼び寄せるチャンスを生むだけだ、というものだった。具体的には、カザフスタンの石炭燃料ベースのマイニングブームが一例である。

気候変動関連の規制の場合など、規制の目指すところが、世界全体にとってメリットを生むことであれば、そのような逆効果に注意して規制を組み立てる必要がある。

国際的協調アプローチ

銀行の規制は比較的簡単だ。銀行は当然ながらライセンスが必要で、その存在自体が、中央銀行の通貨政策との関係によって定義されている。ライセンスを剥奪すれば、その組織は銀行ではなくなるのだ。

オープンソース開発者、とりわけ、中央集権的企業によって報酬を受けているのではなく、プロトコルが生み出し、発行するトークンによって、オープンネットワークから見返りを受け取っている場合には、規制ははるかに難しくなる。

DeFi開発者たちにライセンスの制約を課すための、アメリカとヨーロッパの協力も見られるが、どこにでも行けて、自分自身にしか責任を負わない人たちに対して、オープンソースコードを書かないよう強制するのは、非常に難しい。

誤解しないで欲しいのだが、暗号資産プロジェクトを規制するべきでない、と言っている訳ではない。暗号資産プロジェクトを、公益を守る方向へと導くことには、真の社会的利害が関わっている。ただ、暗号資産の規制を効果的なものにするには、より微妙で、融和的、そして何よりも、国際的に協調したアプローチが必要なのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The US and Europe Can’t Regulate Crypto Alone