ビットコインと人権活動家【コラム】

13年目を迎えた人権・民主主義活動家のための「オスロ・フリーダム・フォーラム(Oslo Freedom Forum)」の参加者は、暗号資産(仮想通貨)カンファレンスに間違って迷い込んだのか、と不思議に思ったかもしれない。

ビットコイン(BTC)開発者のジミー・ソン(Jimmy Song)氏のお馴染みのカウボーイハットが、人権財団主催のフォーラムが開かれたオスロ・コンサート・ホールの会場のあちこちで見られた。博識な投資家で起業家のニック・カーター(Nic Carter)氏も、会場を歩き回っていた。

壇上では、作家でポッドキャスターのローラ・シン(Laura Shin)氏が、NFTアーティストにインタビュー。ビットコインとライトニング・ネットワークの支持者たちは、ビットコインの使い方についてワークショップを開いた。暗号資産企業のCEOたちは、舞台裏で、ステーブルコインが禁止された場合の戦略について話し合っていた。

もちろん、暗号資産カンファレンスでは普通、政治的抑圧についての実体験を語る人権活動家や、プロパガンダと戦った調査報道ジャーナリスト、スパイウェアの痕跡を調べるサイバーセキュリティの専門家を目にすることはない。

しかし、考えてみれば、暗号資産関連のイベントも、そのような要素をもう少し盛り込むことができるのかもしれない。

多くの人にとって、暗号資産はリッチになるための手段だが、人権のツールと考える人もいる。金融の検閲や監視が当たり前になっている地域で、それらを迂回するための、時には使いにくいがそれでも役立つ方法をもたらしてくれるのだから。

さらにそのようなユースケースは、ビットコインが値上がりしようが値下がりしようが、なくなることはない。

ビットコインを使って

「ビットコインの価値がほとんどなくなったとしても、(世界中で資産を移動させ)自由のために戦うことができる」と、ビットコイン決済スタートアップ、ストライク(Strike)のCEOジャック・マラーズ(Jack Mallers)氏は語った。

人権財団の最高戦略責任者で、今回のフォーラムで金融の自由を担当したアレックス・グラッドスタイン(Alex Gladstein)氏は、活動家コミュニティが暗号資産に心を開き始めているか、と聞かれた。

同氏はその質問に対し、ビットコインのコンテンツをプログラムに取り入れた理由は、「多くの組織がすでに利用しているから」と答えた。同氏のおかげでビットコインを使っている組織もあるのだ。

人権活動家のメロン・エステファノス(Meron Estefanos)氏は、アフリカ大陸北東部の国、エリトリアで人身売買の被害者を解放する支援活動に取り組んでいる。同氏は、最初はビットコインに対して懐疑的だったが、グラッドスタイン氏のワークショップに参加した後には、好意的な印象を持つようになった、と語る。

さらに、エリトリア政府は、国境を超えて現金を受け渡すネットワークに依存した昔からの送金システム「ハワラ(Hawala)」への取り締まりを強めているのだ。

ハワラの仲介業者は現在、客に名前を聞くようになっているが、人権活動を理由にエリトリア当局に追われているため、「自分の名前を使って母親に送金することはできない」と、スウェーデンに拠点を置くエステファノス氏は説明する。だからビットコインが送金手段になっているのだ。同氏はサポートしてくれる研究者チームに対して、ビットコインで支払いをしている。

活動を理由に亡命を余儀なくされたロシアの活動家たちにとっても、ビットコインは祖国に残された人たちと自らをつなぐ生命線となっていると、投獄されたロシアの反体制指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に寄せられた暗号資産による寄付を管理するレノイド・ボルコフ(Lenoid Volkov)氏は語る。

「私たちの運動がロシアで禁止され、海外への移転を余儀なくされた後、ビットコインが非常に大切なものだと気づいたのだ。ロシアに残った友人や同僚をサポートするのに使えるからだ。ビットコインを使わなければ、彼らは『テロリスト』から資金を受け取っていることになる」と、ボルコフ氏は話す。

ビットコインは、海外から資金を受け取ると、活動家が当局の標的になってしまうような金融監視を乱用する政権下において、地下での支払い手段として機能することもできる。世界中の学生デモを支援するアメリカのNGO「Students for Liberty」が、中国の学生に送金する必要があった時がその例だ。

「送金すると、翌日に学生は警察に呼ばれ、その経緯について説明するよう求められた」と、NGOの代表ヴォルフ・フォン・ラーエル(Wolf von Laer)氏は語った。同氏は、ロシアの侵略によって危険な地域から避難する必要のあったウクライナのスタッフにも、ビットコインで送金したことがある。

ステーブルコインの懸念

グラッドスタイン氏自身が長年ビットコインに傾倒していたこともあり、今回のフォーラムの暗号資産関連の討論会はほとんどが、ビットコインに関するものであった。ビットコイン決済のための様々なソフトウェアやサービスに関する、実用的な一連のワークショップも開かれた。

しかし、テザーでCTOを務めるパオロ・アルドイノ(Paolo Ardoino)氏と、アフリカの暗号資産企業ヘリキャリア(Helicarrier)の共同創業者アイレ・アデリノクン(Ire Aderinokun)氏が参加した討論会では、ステーブルコインも注目を集めた。

アルドイノ氏は聴衆に対し、テラのアルゴリズムステーブルコインUSTと姉妹トークンLUNAが暴落した後のような、危機的な状況の時でさえも、テザー社は大量のUSDTを換金することができると話した。

聴衆は、アルドイノ氏の話を好意的に受け取っているようだった。しかし、討論会の後、イギリスの暗号資産取引所コインフロア(Coinfloor)の創業者オビ・ヌウォス(Obi Nwosu)氏が、アルドイノ氏のもとに寄っていった。テザーの値下がりのリスクに対して、とりわけUSDTと交換に米ドルを受け取ることのできない国の保有者に対して、どのような保険を作れるかを聞くためだった。

「テザーが破綻するのは、政府が禁止した場合のみだと思う」と、ヌウォス氏は語った。2人は、USDT保有者が、テザーが持つはずだった価値に相当するビットコインを受け取れるような保険を作る可能性について話し合ったが、その細かい仕組みは今のところ、保留状態のままとなった。

テザーの信頼性とレジリエンスの問題は、金融サービスを利用することができず、自国の不安定な経済に振り回され、USDTが米ドル建ての銀行口座に代わる唯一のオプションとなっている人たちにとっては、とりわけ切実だ。ナイジェリアが一例だと、アデリノクン氏は説明した。

「ドル建ての銀行口座は、誰でも利用可能な訳ではなく、月に20ドルの維持費がかかる」とアデリノクン氏は語り、「ある日目覚めると、政府がすべての米ドルを(現地通貨の)ナイラに変換してしまった、ということもあり得るのだ」と続けた。

エルサルバドルの市民

暗号資産の存在理由として最も強力な主張の1つであることに加えて、人権という切り口は、傲慢さや欲、その他の不道徳な人間の性質が話題をさらってしまいがちな暗号資産のナラティブのバランスを取ってくれる。

しかし、エルサルバドル調査報道ジャーナリスト、ネルソン・ラウダ(Nelson Rauda)氏は、ブケレ大統領主導で昨年ビットコインを法定通貨に採用したエルサルバドルで大いに喧伝されている変化に、水を刺した。

ビットコイナーたちは、その動きについて大喜びでツイートしたが、数少ない手持ちの資産がビットコインのボラティリティや、政府公認のビットコインウォレットの欠陥によって消えてしまうことを心配する一般市民たちにとっては、素晴らしいことは今のところ何も起こっていないと、ラウダ氏は語り、「通りに出て話を聞けば、人々がビットコインを受け入れていないことが分かる」と続けた。

豊かなビットコイナーたちが、あまり裕福ではないエルサルバドルの人たちに、彼らの未来がどれほど明るいかを語るのは苛立たしいものだ。その顕著な例が、ラ・ウニオンの街をビットコイン基盤の都市に作り替える「ビットコイン・シティ」構想だ。

このプロジェクトはラ・ウニオンのコミュニティの生活を「一掃」してしまうかもしれないのだ。人々の住宅は、ブケレ大統領の夢の都市建設のために、取り壊しが予定されていると、ラウダ氏は説明した。

「家を追われることになる漁師の家を先週訪ねた。ビットコイン・シティを支持する億万長者たちのために、コミュニティが居場所を失うのだ」と、ラウダ氏は語り、次のように続けた。

「ビットコインは、サイファーパンク(社会変革の手段として暗号資産の利用を推進する活動)のムーブメントにルーツを持っている。活動家たちによって生み出されたのだ。それがどうして、エルサルバドルをヘリコプターで飛び回る億万長者たちのものへと変わってしまったのか?私にはさっぱり分からない」

これも、通常の暗号資産カンファレンスで話し合うべきトピックなのかもしれない。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto’s One Unassailable Use Case: Helping Human Rights Activists
|編集部より:第8パラグラフの社名を訂正して、記事を更新しました)