ソラナのDeFi「Solend」:危機回避の一部始終

数百万ドルのマージンコールが発生して、誰もそれに応じなかったらどうなるのか?

このような不気味なシナリオが先週、Solendにとって悪夢のような現実になろうとしていた。Solendは、ブロックチェーン「ソラナ」で2番目に大きな分散型金融(DeFi)プロトコル。

1億7000万ドル相当のソル(SOL)の預け入れに対して、USDコイン(USDC)で1億700万ドルを借り入れていたウォレットを持つ単独最大のユーザーが、清算の危機にあったのに、まったく連絡が取れなくなったというのだ。

Solendの開発者たちは、掲示板「レディット(Reddit)」に投稿したり、オンチェーンでメッセージを送ったり、ツイッターのミームも試して、この匿名のアカウントに迫り来る危機を警告しようとした。

いわゆる「クジラ」と呼ばれるこの大口保有者のアカウントは、壊滅的なオンチェーンでの清算を回避するために、資産を積み増すか、ポジションを縮小させる必要があった。プロジェクトの責任者たちは、清算となれば、Solendだけでなく、ソラナさえも破綻の危機を迎える可能性があると考えていた。

Solendを救おうとする必死の取り組みは、ガバナンスや権力に関する議論に発展。ツイッター上では、DeFiの偽善性を批判する声が上がった。

最終的には、クジラに危機を気づかせたのは、中央集権型取引所大手のバイナンスであったと、Solendの共同創業者Rooterは語った。世界最大の暗号資産取引所であるバイナンスが、 Rooterからのメッセージをこのクジラに届けたのだ。

「この問題が、ソラナのコミュニティ、そしてソラナチームに懸念を生じさせたことは申し訳ない」と、問題のクジラは6月21日、Rooterにメールをした。「先日のガバナンスに関する提案については、嫌な感情を抱いてはいない」と。

連絡が取れた後、クジラはマンゴー・マーケッツ(Manto Markets)など、他のソラナ上のDeFiプロトコルへと資金の移動を開始。清算は1度も行われずに、極めて深刻な危機は終わりを告げた。SOL価格も、混乱を鎮めるのに十分なほど回復した。

混乱

Solendの清算騒動は、荒れ狂う暗号資産市場によって、あらゆるDeFiプロトコルが動揺し、分散型とされている管理組織が、プロトコルユーザーに長期的な影響をもたらすような厳しい決断を迫られる中で発生した。

厄介な事態である。「分散型金融」においては、銀行家に少数派グループへのローンを拒ませるような、人間的バイアスを排除したプログラムによるスマートコントラクトコードが、変更不可能な法律のような存在となるはずである

しかし、現実はもっと複雑だ。

Solendの危機が生じたのは、プロトコルで借り手の規模に制限を設けていなかったから。その結果、単独のクジラが、Solendで担保となっていたSOLと借り入れられたUSDCの大部分に責任を負う形になっていたのだ。SOL価格が下落し過ぎると、その担保は清算のリスクにさらされることになっていた。

Solendのスマートコントラクトは、ユーザーの担保が小さくなり過ぎた場合に、自動的に清算のための売り注文を分散型取引所(DEX)に送ることになっている。これは、純粋にプログラムされているものだ。その取引が市場、さらにはブロックチェーンを壊滅させるかどうかを、スマートコントラクトは総合的に確認したりはしないのだ。

最悪の事態

何十億ドル相当ものSOLが毎日取引されているが、取引の大半は、取引高のはるかに少ないDEXではなく、中央集権型取引所で実施される。一方、Solendでは取引をDEXへと流す。DEXは、クジラによる大量売却を吸収するのに十分な流動性を持たず、買い手が裁定取引で買い戻すまでは、SOLの価格はおそらく60〜80%暴落するはずだった。

それ自体も問題であり、「ボット(アルゴリズムに従って自動的に取引を実行するツール)が群がるような、信じられないような裁定取引と清算のチャンスとなるはずだった」と、Rooterは語った。そのような行為がかつて、ソラナブロックチェーン全体に壊滅的被害を与えたことがあるのだ。

Solendが痛みを受けるのは間違いなかった。不良債権に資金の枯渇、そしてユーザーの幻滅は避けられなかっただろう。「私たちにとってはほぼ終わり、ユーザーも多額の資金を失っていたはずだ」と、スマートコントラクトが設計された通りに反応していた場合のシナリオをRooterは説明した。

「本当に何か手を打たなければならなかった」と、クジラへの必死の呼びかけを思い出しながら、Rooterは語った。

必死の呼びかけ

伝統的金融の世界において銀行家は、顧客に対する「マージンコール」によって、同様の危機に対処できる。マージンコールとは、ポジションの状態を知らせ、ローンを維持するために資金の積み増しの必要性を説明するものだ。

銀行側は、カウンターパーティーの身元を把握しているため、電話やメールで連絡を取れば良いのだ。しかし、匿名性の確保されたDeFiではそうはいかない。ちなみに、ウォレット間でメッセージを送るソリューションに取り組むスタートアップもいくつかあるが、Solendはそのようなツールを使っていなかった。

メッセージを個人的に伝えることができなかったため、Rooterはクジラに連絡を取ろうとツイッターを利用した。これを見た他のユーザーたちは不安に駆られ、Solendから大規模に資産が引き出した。こうして、銀行の取り付け騒ぎのように、Solendの資産は空になりかけてしまった。Rooterも、ツイートが逆効果であったことを認めている。

「Rotter:
いくつかのオプション:
– 丁重に頼む
– ヘッジする
– 興味深い流動性マイニングのアイディア:DEXのセラム(Serum)で清算価格をほんの少し下回る価格で買ってくれるユーザーに報酬を与える

Solend:
3oSE…uRbE(クジラ)へのオンチェーンメッセージ

『ユーザーの資産を守ることは、Solendの最優先事項です。24時間以内に、あなたの清算基準額が18.50ドルになるようにポジションを縮小してください。そうでなければ、他のオプションを検討しなければならなくなります。security@solend.fiに連絡をください』」

「私たちの抱えた問題をある意味悪化させることになった。何かが起こるかもしれないリスクだけでなく、人々の資産が凍結されるという、差し迫った問題にも対処することになったからだ」と、Rooterは語った。

Solendが頼った解決策は、クジラの担保に対して「緊急権限」をSolend Labsに付与するという、物議を醸す提案だった。管理権を握ったら、Solend Labsがオフチェーンの相対取引(OTC)デスクを通じてクジラのポジションを適切に清算し、最悪の事態を防ぐというものだ。USDCをクジラに戻し、危機を解決して、市場を立て直す計画だった。

しかしそうなると、管理権限を持つはずのスマートコントラクトを覆すことになってしまう。

そこに、人々は不安を感じたのだ。

ガバナンス

多くのDeFiプロトコルは、コードの変更をコミュニティに委ねている。新規上場や相場の引き上げ、パートナーシップなどについて、トークン保有者が投票することができる仕組みである。保有するトークンが多いほど、その意見の重みも増す。分散型とされるシステムを管理する、人気だが不完全な方法である。

Solendはこれまで、ガバナンス投票を実施したことはなかった。しかし、Rooterは、このような際どい解決策をコミュニティに提案する必要があったと語る。

こうして6月19日、「緊急権限」に関するSLND1提案が行われた。その6時間後、1%の定数を満たすのにぎりぎり足りる投票数が確保され、97.5%の賛成で提案は可決された。

SLND1の圧勝の裏では実は、あまり好ましくない事態が展開していた。投票に参加したトークン全体の1.01%を保有していた単独のウォレット(票クジラとでも呼べるだろう)が、結果を分けたのだ。このウォレットの参加抜きには、SLND1は定数を満たさず、失敗に終わっていたはずなのだ。可決されたのは、このウォレットが賛成票を投じたからに過ぎない。

Rooterによれば、SolendチームはSLND1に対する投票率の低さに思い悩んだ後、この票クジラに投票するよう求めた。この票クジラに賛成あるいは反対票を投じるように依頼したのではなく、ただ投票するよう頼んだのだ。その求めに、票クジラは答えた。

「Solendユーザーは全体的に、非常に協力的だった。批判する人たちは、利害関係を持たなかったり、預け入れをしていないツイッターユーザーであることが多い」とRooterは指摘した。

SLND1を批判する声はあまりに大きく、メディアによる取り扱いも厳しかったため、Rooterをはじめとするチームは、SLND1を無効にするSLND2を新しく提案した。こちらも、票クジラが参加して、可決された。

「票クジラが、結果全体を左右したのだ」と、Rooterは振り返る。

Rooterによれば、「暗号資産ツイッター界にいる経験を持たない専門家気取りの人たち」を満足させるためだけに、あるいは技術的問題を鎮めるためだけに投票したくはなかった票クジラは、迷いに迷った挙句、残り時間14秒のところで賛成票を投じた。

6月21日に最終的に投票の行われたSLND3では、コミュニティは事実上新しい借り入れ上限を5000万ドルに決定。クジラによるリスクを抑えるためのものだ。(こちらも、票クジラの賛成票によって可決した)

この頃までには、Rooterによるクジラと接触を図る取り組みが功を奏していた。バイナンスがクジラをつかまえ、メールで連絡を取り合えていたのだ。そこから数日かけて、事態はゆっくりと解決へと向かった。

バイナンスは、一連のSolend騒動についてのコメントを控えた。

しかし、バイナンスの広報担当者は、プロジェクトチームとアカウント保有者の間で仲介役を過去に果たしたことは認め、ユーザーの同意なしに情報を共有することは決してないと語った。

回復

評判という点では、大きくなるダメージが生じた。ソラナのベンチャーキャピタルコミュニティの関係者は、Solendが一連のガバナンス投票によって、克服できない打撃を受けたのではないかと恐れている。

「惰性と、ひどくお粗末なガバナンス上の判断の間の戦いになるだろう」と、あるリサーチャーは語った。どちらの勢力が勝つか、彼は確信が持てずにいた。

Solendの預け入れ資産(TVL)はここ1週間で10%、1カ月では60%近く減少。LarixやHubble、Oxygenなど、Solana上の他のDeFiレンディングプロトコルの方が、はるかに好成績を残している。ちなみに、クジラによる資産の再分配の最も大きな部分を受け入れたのは、マンゴー・マーケッツだ。

Rooterは24日、CoinDeskの取材に、希望に満ちたトーンで応えてくれた。その頃にはSolendは壊滅的な清算に苦しまずに、危機を切り抜けていたのだ。

「Solendに対する見方は、改善してきていると思う。評判に対するマイナスの影響も、今の時点ではもう収まっている。SolendはTVLを大きく減らした。しかし、今では再び、Solendを使うことができるようになっている」とRooterは語った。

Solendは今でも、ソラナ上で2番目に大きなDeFiプロジェクトの地位を維持したままである。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Solana’s Biggest DeFi Lender Almost Got Rekt. Then Binance Stepped In