
現実を直視しよう。AIこそが世界を真に変える。投機的なトークンをリテール(個人投資家)向け商品と考えるアイデアに固執できるが、暗号資産は「AIを支える優れた技術」と位置づけ、その役割を受け入れるべきだとスティーブン・ウォーターハウス(Steven Waterhouse)氏は語る。
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主役はAI、暗号資産はサポート役
長年、暗号資産(仮想通貨)は次の大きな技術革命と位置づけられてきた。しかし、AIの爆発的な台頭を目の当たりにする今、暗号資産は真実に向き合うときが来た──私たちの時代の真の技術革命はAIであり、暗号資産は主役ではなく、サポート的な役割を果たす。
業界の重要性やこれまでの実績を軽視するわけではない。私は機関投資家としてビットコインに投資し、ブロックチェーン技術を活用する数多くの企業で経営や投資に携わってきた。一方でAIの博士号も持っている。シンプルな真実として、現実世界の問題を解決するAIシステムを構築することが重要であり、そこにブロックチェーンが含まれるかどうかは重要ではない。
純粋な意味で、暗号資産に関して残されている唯一のセグメントはDeFi(分散型金融)だ。伝統的金融(TradFi)の進化系としてのDeFiは、エンジニアリング、プログラマビリティ、コンポーザビリティにおいて優れている。「インターネット資本市場」と呼ばれることもある。
なかでも、ステーブルコインとRWA(現実資産)のトークン化は、プロダクト・マーケット・フィット(PMF)において卓越した成果を示しており、現在までに暗号資産が示した唯一の現実的な価値の証明といえる。
伝統的機関投資家が参入しているのは当然だ。世界最大の資産運用会社Blackrock(ブラックロック)、人気取引アプリのRobinhood(ロビンフッド)、さらにはCoinbase(コインベース)のような暗号資産ネイティブの企業も、規制の明確化を期待して暗号資産製品やトークン化RWAの開発を進めている。即時グローバル決済や複雑な金融商品をオンチェーンで実現することは当然の選択だ。
生産性を向上させているAI、ユースケースに苦戦する暗号資産
その一方で、AIの台頭は言うまでもない。大規模ラボやモデル開発企業、LLM(大規模言語モデル)プロバイダーといった「伝統的AI(TradAI)」があり、DeepSeekやMistralのようなオープンウェイト型AI、NousのようなオープンソースAIもある。CursorやLovableといったAIアプリケーション、Manusのようなエージェント、ロボティクス、さらには分散型AIや「Crypto×AI」といった領域も存在する。要するに、AIプロダクトやサービスに対する需要は、純粋な暗号資産アプリケーションへの需要をすでに、これまで以上に上回っている。
この状況を表す言葉がある。「暗号資産業界にいるなら、AIにシフトしよう」だ。
これは驚くべきことではない。暗号資産は投機やギャンブル以外のメインストリームのユースケースを見出すことに苦戦してきたが、AIはすでに生産性を向上させ、世界中のあらゆる産業の変革に浸透しつつある。
さらに、暗号資産にとって厳しい現実が浮かび上がっている。ミームコインの盛り上がりや「クライム(犯罪)シーズン」と呼ばれる状況によって、トークンの価値と実際の技術的有用性の乖離がさらに顕著になっている。分散型テクノロジー自体は革命的だが、トークンが表す価値は歴史的に、真の技術的価値創造よりもミーム的な魅力に牽引されてきた。これは必ずしも批判ではないが、暗号資産が産業として持つ根本的な弱点を浮き彫りにしている。
AIを支える「縁の下」の存在に
もちろん、暗号資産が破綻したという意味でもない。実際、ブロックチェーンと暗号資産プロトコルは、未来のAI技術の不可欠な要素となる可能性がある。だが、それらはAIを第一に考えた製品やサービスの基盤/インフラとして機能するものであり、単独の製品として存在するものではない。
例えば、「Make AI Cheap Again(AIを再び安価にする方法)」を考えよう。
トレーニングと推論のための分散型計算能力、検証可能な計算とデータの出所、計算リソースへのアクセスのトークン化、トレーニングデータの分散型ストレージ、貢献に対する透明な報酬メカニズムなどだ。分散型計算とDePIN(分散型物理インフラ)アーキテクチャ、透明な検証システムは、その有用性を証明している。
重要な点は、現実の問題を解決するAI製品/サービスのために機能することであり、ユーザーは基盤となる技術インフラ(=暗号資産/ブロックチェーン)については知識も関心もないことだ。ブロックチェーンを使って構築された製品やサービスが、ライセンス料や使用料をステーブルコインなどで受け取るモデルが想像できる。現状の「トークンが製品そのもの」であるモデルとは対照的だ。
暗号資産ネイティブなアプリケーションに焦点を当てている起業家やチームにとって、これは挑戦であり、チャンスでもある。課題は、心地よいが限定的な暗号資産エコシステムを超えて拡大することだ。チャンスは、AIがもたらす真の技術革命に参加することにある。
現実世界の問題からスタート
実際には何が必要になるだろうか?
まず、より大きな視野で考える必要がある。AIがターゲット市場をどのように変革するかを自問し、その後、ブロックチェーン技術がその変革を実現する方法を検討する必要がある。つまり、暗号資産プロダクトの構築とマーケティング・アプローチは根本から変わる。
トークン化、トークノミクス、またはブロックチェーン全般からスタートするのではなく、AIが解決できる現実世界の問題からスタートしなければならない。そのあとで分散型システムがAIを強化できる領域を特定し、真に価値をプラスできるところにブロックチェーンを実装すべきだ。
暗号資産技術を活用すべきは、特にコスト削減や効率向上に有用なケースだ。ただし、焦点は常に、AIを通じて価値を提供することに置かれるべき。
例えば、企業はAIをより使いやすく、コスト効果の高いものにするために、暗号資産/ブロックチェーンを活用して重要なプロセス向けの分散型マーケットプレイスを構築できる。
AIエージェントは、オンライン上で安全かつ確実に私たちの代理として行動するために、ブロックチェーンベースの検証やプライバシーシステムを活用して、ログイン情報、身分証明書、クレジットカード、あるいはチェーン上のプライベートキーやウォレットを使うことができる。
いずれの場合も、ブロックチェーン/暗号資産技術は、AIをより効果的で信頼性の高いものにするという大きな目標に貢献している。
根本的な再調整の時期
こうしたダイナミクスを理解している企業こそが、AIが生み出す新たな環境下で発展できる。そうした企業は、ブロックチェーン/暗号資産技術を真の価値を加える部分に組み込んだAIファーストの製品を開発するか、AIベースの製品やサービスを改善するためにブロックチェーン/暗号資産サービスを提供する。ブロックチェーン/暗号資産をハンマーのように振り回す企業は、市場から支持されない。
つまりは、ブロックチェーン/暗号資産とAIの関係を適切に理解することが重要だ。未来は、AIを主要フレームワークとして位置付けつつ、適切な場所にブロックチェーンを組み込むところにある。
暗号資産業界の大部分にとって、これは真実であり、今は根本的な再調整の時期だ。私たちは、暗号資産を単独の革命として捉え、投機的なトークンをリテール(個人投資家)向け商品と考えるアイデアに固執するか、または暗号資産を「AIを支える優れた技術」として受け入れるか、どちらかを選択しなければならない。
後者は華やかなものではないだろう(投資ポートフォリオへの価値も低いかもしれない)。だが、最終的には真に持続可能な価値と影響を生み出す可能性が高い。
この現実を早く受け入れるほど、すでに進行中の技術変革に意味ある貢献ができる。暗号資産業界は、自分たちを超えて考えるときが来た。
さあ、暗号資産業界にいるなら、AIにシフトしよう。
|翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部
|画像:Shutterstock
|原文:If You’re in Crypto, Pivot to AI Now