ブロードウェイを目指す暗号資産ミュージカル

暗号資産(仮想通貨)は金融街のウォール・ストリートで足場を固めているが、マンハッタンで最も有名な通りではどうだろう?

アマンダ・カサット(Amanda Cassatt)氏がその夢を実現できれば、『Crypto: The Musical』が、ブロードウェイで開幕する次なるショーになれるかもしれない。

まだ製作の極めて初期段階にあるこのミュージカルは、普通の会社での仕事を辞め、暗号資産スタートアップに転職する女性ゾーイ(Zoe)の物語だ。その過程で彼女が体験する「多くの不条理、悲嘆、そして勝利」が語られる。

DAOを活用

主人公と同じように製作陣も、ブロードウェイを目指す過程で、悲嘆や不条理に直面するだろう。ミュージカルの製作は安くはない。Web3マーケティング会社セロトニン(Serotonin)のCEOであるカサット氏は、資金調達のために暗号資産コミュニティに助けを求めた。

カサット氏は、プロジェクトへの資金提供の見返りに、チケットの先行販売などの特典が受けられる自律分散型組織(DAO)「MusicalDAO」を立ち上げた。特典には、キャラクターの名付け親になる権利や、ミュージカルへの出演なども含まれる。

MusicalDAO参加に必要な寄付の最低金額は、1000ドル(約13万5000円)。ステーブルコインのテザー(USDT)あるいはUSDコイン(USDC)で支払う。DAOのメンバーが1500人に達すると新規加入は締め切られ、プロジェクトチームはブロードウェイの投資家たちの元へ行き、デビューに必要なキャッシュを集めることになる。

カサット氏はDAOへの参加者が何人に達したかを明かしてはくれなかったが、先月CoinDesk主催のイベント「コンセンサス2022(Consensus 2022)」でお披露目されたプロジェクトに対する反応はこれまでのところ「とても良い」と語った。

しかし、オンチェーンデータは異なる実情を伝えている。イーサリアムの情報を検索できる「Etherscan」によれば、当記事執筆時点で、プロジェクトの寄付専用アドレス「cryptothemusical.eth」が受け取った寄付は、1000ドルの寄付1件のみだ。

プロジェクトの広報担当者は、このアドレスは正しいものだと認めたが、資金調達に関しては焦っていないとコメントした。

「プロジェクトは始まったばかり。ブロードウェイミュージカルを完成させるには、通常何年もかかる」と、この広報担当者は述べた。「コミュニティが集まり始めている。Web3は実験、コミュニティ形成、これまでのやり方を一新するための新しいモデル作りがすべて」

「奇妙な取り合わせ」

このプロジェクトに対するオンライン暗号資産コミュニティからの気のない反応は、驚きではない。カサット氏も、暗号資産をテーマにしたミュージカルという「奇妙な取り合わせ」を認めているが、「だからこそ面白いのだ」と語る。

しかし、このミュージカルは、暗号資産がブロードウェイの世界に進出する初めての試みではない。ミュージカル『ディア・エヴァン・ハンセン』は今年、オンラインゲーミング・プラットフォームのロブロックス(Roblox)と連携して、子供の心の健康に取り組むチャリティに協力するNFTコレクションをリリースした。

このプロジェクトのローンチが、暗号資産の冬の到来と重なってしまったことも足を引っ張っている。暗号資産業界の大手企業が破産申告したり、買収されたり、業界全体での人員削減も加速している。

カサット氏は、このミュージカルが弱気相場でもうまくいくと希望を持っている。

「このような状況では、何百万ドルもの値段をつけることは必ずしも正しい戦略ではないが、草の根レベルで人々に訴えかけることは(中略)大いに理に適っていると思う」と、カサット氏は話す。

「興味深く愉快で、他の人とは違ったことをやること。こんな時にこそ、コミュニティが必要として、欲しているのは、そんな陽気さだと思う」と、カサット氏は考えているのだ。

ウェブ3版『スクールハウス・ロック』?

このプロジェクトのエグゼクティブプロデューサーである、作曲家のダニエル・メルツラフト(Daniel Mertzlufft)氏とメイシー・シュミット(Macy Shmidt)氏は、映画『レミーのおいしいレストラン』をモチーフにしたミュージカル『Ratatouille: The TikTok Musical』の立役者。

カサット氏率いるセロトニンは、2人のトニー賞受賞歴のあるプロデューサーとともに『Crypto: The Musical』をプロデュースすることになる。

暗号資産が証券に該当するかを判断するのにSECが利用する「ハウィー(Howey)テスト」をテーマにした歌や、NFTについての歌など、数々の暗号資産関連の歌がショーを盛り立てる。

さらに、表面的には暗号資産とは関係なく見える歌にさえも、暗号資産関連の言葉が盛り込まれている。例えば、主人公の歌うラブソングには、「安定した(ステーブルな)男性に縛られて(テザーされて)いる」といった歌詞が登場するのだ。

メルツラフト氏は、歌を通じてチームが知識豊富であることを示したいが、「Web3版『スクールハウス・ロック』」になってしまうことを心配している、とも語った。

『スクールハウス・ロック』:アメリカで1970年代から放映されていた、音楽を盛り込んだ子供向け教養番組。

「知っていればわかるし、知らなければただの歌に聞こえるというような細かな点がたくさんある」とメルツラフト氏は語り、「ゾーイは最初はWeb3に詳しくないので、Web3のことをあまり知らない観客も、彼女と一緒に学んでいくことができる。無理矢理学ばされたと感じさせないようにするのが、目標だ」と続けた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:コンセンサス2022でお披露目された『Crypto: The Musical』(CoinDesk)
|原文:‘Crypto: The Musical’ Aims for Broadway