暗号資産の弱点はその複雑性だ【コラム】

多くの金融市場と同様、ビットコイン(BTC)やその他の暗号資産(仮想通貨)の価格は年初から下落を続けている。テラなどいくつかのプロジェクトの崩壊も、私たちは目の当たりにした。

このような一連の出来事によって、多くの一般投資家たちは、わずか1年前にはあれほど強気であったこの資産クラスに将来性があるのかを疑問に思うようになっている。

新型コロナウイルスのパンデミックによって、新規の暗号資産投資家たちが数多く誕生したが、その多くがこの夏、多額の損失を出した。彼らのほとんどが考えの甘さからリスクを理解していなかったが、暗号資産エコシステムがますます複雑になっていることも、理解を一段と困難にする一因であった。

1つ以上の市場サイクルを経験した人たちにとっては、警告のサインは存在していた。各プロジェクトはそれぞれ固有のもので、待ち受ける無数の脅威に耐え忍ぶようにすべてが作られてはいないというのが現実だ。

センチメントが回復するにはしばらく時間がかかるだろうが、ビットコインなどの暗号資産を現時点で酷評することは時期尚早だ。まだ、潜在性が見つかるかもしれない。それでも今のところ、プロジェクトを精査する際に注意を払うべき危険な兆候がいくつかある。

実験、絵空事、詐欺

ビットコインは2009年に登場した時、特別な存在だった。それ以来、時価総額が一時は1兆ドルを超える価値の保管手段、検閲耐性を持つネットワークとして台頭してきたのだ。

最近の暴落を考えても、私はビットコインの潜在力はこれまで以上に輝いていると考えている。しかし、ビットコインに続いて出てきたすべての暗号資産プロジェクトについて、同じことが言える訳ではない。

現在、金融の未来になると約束する暗号資産、デジタル資産、トークン、プロジェクトの数は2万を超える。そのそれぞれが、ブロックチェーン、分散化、エコノミクス、マイニング、暗号化技術など、ビットコインのデザインの何らかの要素を採用して、何らかのユースケースを満たすためにそれを改変して使っている。技術者として、暗号資産の世界で起こる実験の価値を私は認めている。一時的な盛り上がりには、それほど興味がないのだ。

新しいプロジェクトは、プロジェクトチームが善意の人たちであったとしても、常にリスクの高いものだ。Deadcoins.comでは、失敗に終わったプロジェクトをトラッキングしているが、現在そこには、1700以上のプロジェクトがリストされている。

「スタートアップビジネスの半分が5年以内に失敗に終わる」、ということを覚えておこう。この最先端テクノロジーセクターにおいては、失敗率がさらに高いのも、驚きではない。多くのプロジェクトは、非現実的なほどに楽観的なものとなるだろうが、アイディアが上手くいくかどうか試す唯一の方法は、実際に開発してみて、何が起こるかを見てみることなのだ。

サティス・グループ(Satis Group)の2018年のレポートによれば、2017年にローンチされたICO(新規コイン公開)プロジェクトの80%が完全なる詐欺で、7%は失敗に終わった。長期的に可能性を秘めていると判断されたのは、わずか約10%にとどまった。

人々が暗号資産に興味を持つ時、すでにボートに乗り遅れてしまったために、「次なるビットコイン」を見つけなければならないと感じることが多いようだ。起業家たちはすばやくその事実に気づき、貧弱なホワイトペーパーだけでアルトコインやトークンを発行し始めた。こうして、業界の多くの人たちの努力を反映しないような、パンプ・アンド・ダンプ(吊り上げと売り叩き)詐欺の悪循環が生まれた。

そのような詐欺の被害にあったことがある場合には、今回の弱気相場を使って、基盤となっているテクノロジーとそのメリットについて学ぶことをおすすめする。その取っ掛かりとなるのがビットコインだ。

ビットコインはすでに実績を上げているが、暗号資産イノベーションに対する多くの試みから、何らかの新しい価値が生まれる可能性を除外することはできない。

科学的には、存在しないことを証明することはできないのだ。さらに、暗号化技術によって安全を確保された他のプロトコルの成功と失敗を通じて構築されるその他の価値あるユースケースに、市場も焦点を合わせ続けていくだろう。

中央集権化の誘惑

エンジニアリングの大部分は、利便性、スピード、セキュリティの必要性など、トレードオフをうまく扱うことだ。ビットコインは、約10分ごとに取引ブロックを処理する分散型ネットワークとしてデザインされた。

これまでに多くの人たちが、このデザインを様々な形で改善しようと取り組んできた。各ブロックに含まれる取引の数を増やそうとした人もいる。取引の速度を速めようとした人もいる。数多くのプロジェクトが、実世界からのデータをブロックチェーンへと取り込み、デリバティブのような高度な市場を生み出してきた。

これらの取り組みは多くの場合、何らかの形態で中央集権化をもたらすために、価値の保管手段としてビットコインを追い越すのに苦戦している。中央集権化は極めて効率的だが、金融を民主化し、個人に力を与えることが目標だとしたら、その取り組みを弱めてしまうのだ。

中央集権化がプロジェクトにダメージを与えるのは、コミュニティに対するインセンティブを腐敗させてしまう傾向があるからだ。例えば、アルトコインプロジェクトが、一般ユーザーがノードを実行しネットワークに参加するのを困難にしたり、取引の門番として、内輪のバリデーターの一団を生み出してしまうかもしれない。

バリデーターがブロックチェーンに取り込むデータをまとめているのだとしたら、賄賂、談合、攻撃などを通じた単一障害点ともなり得る。

ビットコインの成功は、その分散化の上に成り立っている。ユーザーは互いを信頼することなく、ネットワークに参加できる。ネットワークのプロトコルルールを信頼するするだけでよく、それは自分で選んだどんなソフトウェアでも、検証が可能なのだ。この分散化こそが、ビットコインが通貨の形態として成長してきた理由だ。

完成させるには複雑過ぎる

複雑性はセキュリティの敵だ。より多くの動くパーツをシステムに加えるほど、障害点となる可能性のある場所も増える。悪用やサービス妨害などを防げなければ、魔法のようなスマートコントラクト・プラットフォームを作ったとしてもあまり良いことはない。時に、素晴らしいホワイトペーパーが効果的なプロジェクトにならないこともある。完璧さは、良さの敵となり得るのだ。

ブロックチェーンセキュリティ企業スローミスト(SlowMist)によれば、詐欺に次いで最も一般的な損失を生む原因は、フラッシュローン(1つの取引内で借入と返済をするのであれば、無担保・無利子で借り入れができるというローン)、混雑攻撃(多数の取引を実行してネットワークを麻痺させる攻撃)、コントラクトの脆弱性だ。

これらすべては、複雑性のために脆弱性を生み出したシステムの結果なのだ。開発者にとっては、ユーザーが実行できるコードとのやり取りの合計数が飛躍的に増えると、堅固なコードを記述することは一段と困難になる。

テクノロジーの世界において、自制心は過小評価されている。ビットコインほど上手く機能するシステムを作ることは困難だ。ビットコインは1つのこと、たった1つのことだけを上手くやるように作られている。それは、安定した通貨であることだ。

壮大なビジョンには、壮大な実装が必要であるが、それを分散型で提供するのは困難だ。オープンで非許可型のネットワークを開発することは、飛行機を操縦しながら組み立てるようなもので、開発者たちは、間違った方向に金銭的インセンティブを傾けてしまわないように気をつけなければならない。開発の各ステップで、安定性と、内的・外的脅威からの安全性をチェックする必要があるのだ。

さらに複雑性は、ユーザーにとってのリスクも高める。ユーザーの過ちによって、たくさんの秘密鍵が失われてきた。ビットコインセキュリティを手がけるカサ(Casa)の共同創業者兼最高技術責任者として私は、あらゆるユーザーに対応する方法を見つけようと努めている。それには、シンプルさが一番だ。

ビットコインは、個人に力を与えるツールとして、世界を変えている。暗号資産に関しては、新しいプロジェクトごとに、未知数が増えていく。個人があらゆるプロジェクトの技術的詳細を精査することができないほどに、この分野は成長しており、健全なレベルの懐疑心を持ちながら、好奇心を維持するのが妥当だ。

暗号資産の世界へと進んでいく時には、楽観主義と現実主義のバランスを取るように努めれば、数の強さを見つけることができるだろう。

ジェームソン・ロップ(Jameson Lopp)氏は、ビットコインセキュリティを提供するカサ(Casa)の共同創業者兼最高技術責任者。かつてはビットゴー(BitGo)のソフトウェアエンジニアを務めていた。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:What Is Crypto’s Downfall? Its Complexity