暗号資産、回復に必要なのは新たなストーリー【コラム】

暗号資産、回復に必要なのは新たなストーリー【コラム】

今のような厳しい時期には、歴史を振り返ることが役に立つ。マウントゴックス(Mt. Gox)について考えてみよう。

東京にあったビットコイン取引所マウントゴックスが2014年2月に破綻した後、その大半が個人ユーザーだった債権者たちは、わずかな保証しか受けられないで終わるだろうというのが大方の見方だった。

約75万人の顧客のビットコインが盗まれたが、これは当時、約4億7300万ドル相当。ビットコイン市場の下落に伴って、その価値は減少を続けた。

時は流れて2021年。債権者たちは失ったビットコインの90%を取り戻した。その価値は90億ドル。20倍に膨れ上がっていた。

歴史は繰り返す?

今、新たな「暗号資産の冬」の真っ只中で、スリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)やセルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、ボイジャー・デジタル(Voyager Digital)などの失敗により損失を被った債権者たちが同じような幸運な結末を期待できるかどうかは、どうにも気になる疑問だ。

暗号資産市場は、深刻な低迷から回復すると、その数年後に驚異的な史上最高値を記録するという歴史を繰り返してきた。マウントゴックス破綻後にも、2011年の初の暗号資産の冬の後にも、2018年の3度目の暗号資産の冬の後にもそうなってきた。

今回異なっているのは、大量のお金を暗号資産投機へと注ぎ込ませた低金利と資産インフレというマクロ経済トレンドが存在しないこと。歴史が繰り返す保証はない。

とはいえ、それはどうしようもない。冬から春に行くためには、少なくともある程度の価格回復が必要だ。経済は常々、そうやって債務危機を切り抜けてきた。

こうした歴史は、ある種の投資家を生み出した。ハゲタカファンドだ。彼らは、価格がいずれ回復すると考えて、資金繰りに行き詰まった投資家の資産を底値で購入する。

価格回復を支えることは、2008年の大規模な住宅ローン危機の後、中央銀行の政策決定の暗黙だが中核的な目的だった。FRB(米連邦準備理事会)、欧州中央銀行、イングランド銀行、日本銀行は、金利を引き下げ、市場が回復できるように何兆ドルもの金融資産を購入し、その価格を押し上げた。

問題はこの「量的緩和」政策が、新たな金融バブル、そしていずれはインフレを引き起こし、今では各中央銀行が政策を逆転させていることだ。金利上昇を受けて、投資家たちは撤退し、それによって暗号資産市場も低迷。暗号資産価格の回復は予測が一段と難しくなっている。

それでも、量的緩和がいかに2008年以降の10年におよぶ回復を支えたかをさらに詳しく見てみると、暗号資産業界が中央銀行のサポートなしに事態を好転できるかもしれない方法のヒントが見えてくる。

量的緩和をストーリーに

量的緩和政策への遂行は、「バーナンキ・プット」と呼ばれるようになった。これは、当時のFRB議長バーナンキ氏の名前と、将来的な損失を制限するために、保有者に事前に決定された最低価格で資産を売却する権利を与えるプットオプションを組み合わせたものだ。FRBの資産購入が投資家をダウンサイドリスクから保護していたため、徹底的に賭けに出てしまう方が良いという考え方を表した。

これほど露骨に市場を歪めることが、優れた政策となることはほとんどない。しかししばらくの間は、望み通りの効果が出ていた。重要なのはそのメカニズムだ。

FRBは声明(我々は債権購入を約束する)を出し、それを行動で支え(実際に債券を購入)、ストーリー(FRBがプットオプションを提供してくれたので、投資家は失うものはない)を生み出した。

暗号資産も今、価格回復を支える説得力のあるストーリーを必要としている。最後の頼み綱となろうとして努力を続けている暗号資産取引所FTXのサム・バンクマンCEOには失礼ながら、ストーリーを生み出すお金を出してくれる中央銀行は存在しないため、実際の目に見える行為と結果に裏づけられたストーリーが必要だ。

そして、バーナンキ・プットよりも優れたストーリーでなければならない。バーナンキ・プットは最終的に、間違っていたことが証明されているから。FRBは投資家の損失を永遠に支えることはできなかった。結局のところ、持続可能なものではなく、インフレになった。

さらに、過去の回復期とは異なり、しばしば明確な根本的論理も伴わずに提示される、暗号資産が持つとされる止められない上昇の勢いにもとづいた「値上がりするばかり」といった純粋に投機的なストーリーでもダメだ。中央銀行による利上げによって、冷や水を浴びせられるだろう。

実世界での実用性に関連したストーリーでなければならない。人類にとって価値あるユースケースを提示する時だ。先月伝えた通り、エネルギーはその1つだが、独裁の下に暮らす人たちに力を与える能力でも良い。そしてそのようなユースケースを、行為、開発によって支えていこう。

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冬から抜け出す道は常に、市場価格の上昇を通じてだった。今回は市場の動きが、実世界に地に足をつけたものとなる必要があるだけのことだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Price for Crypto’s Recovery: A New Narrative

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