ザッカーバーグ氏のメタバース、見通しは暗く【オピニオン】

人生で至福の時は?

他人の失敗を言い当てること。その人の仲間が彼を見捨てるのを目撃すること。彼の株主の嘆きを聞くこと。

そうだとしたら、私は世界で一番幸せなひねくれ者だ。フェイスブックからリブランディングした「メタ」の完全かつ壊滅的な失敗を予測してから、1年も経たないが、ここまで速く屈辱的にすべてが崩れ落ちていくとは本当に思っていなかった。

メタが計画するメタバース「Horizon Worlds」は昨年12月にリリースされたが、そこからはずっと下り坂だ。ありがたいことに、マーク・ザッカーバーグCEOがこのどん詰まりの転身の「顔」になろうとする試みから、無料のエンターテイメントをたっぷり提供してもらっている。

特にここ数週間は本当に見どころ満載で、先日ジョー・ローガン氏の人気ポッドキャストに出演したのが、クライマックスとなった。ザッカーバーグ氏と彼のマーケティングチームはいまだに、シリコンバレーの寵児としてのかつての栄光に囚われているようで、彼の人間としての魅力の圧倒的な欠如に気がつかないようだ。

その結果は、私のように彼を嫌う人間には最高に面白いものだ。信じられないほど恥ずかしいPRの失敗という形で私たちを楽しませてくれた後には、実質的な困難もやって来る。メタに軸足を移す戦略は脅威的なスピードで、事業計画としても崩壊しているのだ。

非独創的で受け身、無意味

クリエイティビティの欠如は、目に余るほどだ。没入型のバーチャルリアリティ(VR)環境で可能な描写の忠実性と、アバタートラッキング(自らの動きをアバターに再現させる技術)には技術的な限界があるのは確かだ。しかし、Horizon Worldsは、その制約の中でも、もっと良い仕事ができたはずだ。

そのひどく味気ない企業的な雰囲気と、目を見張るほどカラフルなザ・サンドボックス(The Sandbox)とを比べてみて欲しい。

結局のところ、ビジネスモデルの問題だ。サンドボックスやディセントラランド(Decentraland)などのブロックチェーン基盤のメタバースプロジェクトが気持ち良いほど奇抜で突飛な一因は、多くの利害関係者を抱えたかなり混沌とした集まりだからだ。

一方のザッカーバーグ氏は、実質的にメタを完全に支配しており、彼の空っぽな内面が、彼が生み出すメタバースのあらゆるところに表れている。

ザッカーバーグ氏はさらに、現実味のない見せかけで念押ししてきた。人気ポッドキャスト『Joe Rogan Experience』に出演し、武道を好むローガン氏のファン層の一員であるかのようなフリをしたのだ。ザッカーバーグ氏は、テレビを見るという「ベータ」な受け身的態度とは対照的に、バーチャルリアリティによって、タフでアルファな男になれると主張した。

少なくとも3つの理由から、これは爆笑ものだ。まず、室内で座ってスクリーンを見つめているだけで、活力が湧いて来ることは決してない。次に、ザッカーバーグ氏自身がすでに、Facebookとインスタグラムを通じて、ホルモンを低下させる受け身的態度をおそらく世界の誰よりも拡散させてきた。そして3つ目に、より充実した人間的暮らしにつながる近道を宣伝させるのに、無情で惨めなザッカーバーグ氏ほど説得力のない人物を思い付くのは難しい。

真のビジネス?

これらはすべて、どんなに空虚だったとしても、うわべの話だ。本当の問題は、メタのVR/AR部門リアリティ・ラボ(Reality Labs)が、ビジネスとしてどうなのか、という点だ。答えは、驚くことに思っているより良いかもしれない。しかしそこも、表面を剥げば、やはりかなり腐っているのだ。

実はメタは、2021年のホリデーシーズン、相当の数のOculus Quest 2のヘッドセットを売り上げた。アプリのインストール数のデータによれば、2週間の間に、新しく約200万台がアクティベートされたのだ。一方、過去2年間で販売されたプレイステーション5のコンソールは2000万台弱。Xbox Series Xは1500万台だ。

しかし、ザッカーバーグ氏の真の目標にとっては、そのような比較自体が問題だ。Oculus Questやその後継機がビデオゲームコンソールとして成功しても、それでは失敗なのだ。

このヘッドセットはほぼ間違いなく、かなりの赤字で販売されている。そのことが、Horizon Worldsの長期的ビジネスモデルは、フェイスブックやインスタグラムの基盤となっているデータの収集と収益化と同じものだと言うことを、多かれ少なかれ裏付けている。

つまりザッカーバーグ氏はユーザーに、ヘッドセットを使ってビデオゲーム「Superhot VR」をプレイして欲しくはないのだ。Horizon Worldsに来て欲しいのである。ユーザーの嗜好、習慣、ネットワークを探るために使えるデータ豊富な交流をしてもらって、広告をクリックするよう促したいのである。

問題は、Horizon Worldsのグラフィックスが冴えないだけではない。機能的にもぎこちなく、はっきり言って無意味なのだ。最も重要なのは、実際に成功を収めたフェイスブックやインスタグラムのように、人々が戻ってきたがる絶え間ない投稿やアップデートに相当するものが欠如している点だ。

株式市場からも、元COOからもノー

はっきり言っておくと、心理的虐待と紙一重の、商業化されたマインドコントロールに匹敵するような、倫理的に忌まわしい策略がHorizon Worldsに隠されているからこそ、ザッカーバーグ氏の悪あがきを見るのが楽しいのだ。

彼は社会に害を及ぼした人間なのだから、あまりゆっくりでもない彼の凋落を祝うことは、罪悪感から完全に自由になれる快楽なのだ。

しかし、真面目なビジネス専門家も、ザッカーバーグ氏が今回の策略で完全に失敗すると考えているようなのが、さらに痛快だ。

株式市場も、フェイスブックがメタバースに軸足を移したこと、それについてザッカーバーグ氏の口から語られるあらゆる言葉を完全に嫌っている。

ここ半年で、つまり2月に1日で26%値下がりした後でも、メタの株はネットフリックス以外の主要テック株と、株式市場全体を下回るパフォーマンスを見せた。メタはその期間に21%の下落を記録。対するアップルは4%値下がりし、アマゾンは15%ダウン。ダウ・ジョーンズ工業株価平均は10%下落し、ナスダックは14%下落した。

その理由は数えきれないほどあるが、その中でも1つは注目に値する。ゲームに特化したニュースサイトKotakuのレビュワーが指摘した通り、Horizon Worldsには現在、何が起こっているかに目を光らせる監視員のような「コミュニティガイド」が大勢いる。

ビジネス的視点で見れば、これは何よりも恐ろしいサインなのかもしれない。Horizon Worldsは、フェイスブックにすでに存在する攻撃的で、危険なコンテンツよりも管理が難しくなるかもしれないリスクが浮き彫りになっているのだ。フェイスブックが抱える1万5000人のコンテンツモデレーターのように、「コミュニティガイド」もずっと必要になるとしたら、Horizon Woldsそのものが、経済的に根本的に採算性のないものとなるかもしれない。

そして、迫り来る破滅の究極のサインもある。メタのCOOシェリル・サンドバーグ氏が6月、退任したのだ。サンドバーグ氏はフェイスブック/メタにおいて、常に「責任ある大人らしい人間」で、収益性のあるビジネスを支えてきた。(ザッカーバーグ氏が今や40歳であることを考えれば、これは恥ずべきことだ。)

サンドバーグ氏の退任は、メタで何が起こっているかを最もよくわかっている人物が、深い不安を抱えていることを示唆している。

これは見せかけではないのだ。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:メタのマーク・ザッカーバーグCEO(Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com)
|原文:The Continued Unraveling of Mark Zuckerberg’s Malicious Metaverse