戦々恐々とするロシアの暗号資産マイニング業界

ロシアの暗号資産(仮想通貨)マイナーたちはこれまでのところ、ウクライナ戦争から痛手を負ってはいない。しかし、経済制裁がまもなく、間接的に彼らの事業を圧迫する可能性はある。

ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス・センター(CCAF:Cambridge Centre for Alternative Finance)の、ビットコイン電力消費インデックスによると、ロシアは昨年8月、アメリカ、カザフスタンに次いで、世界で3番目に大きなビットコイン(BTC)マイニング国家だった。

マイニング施設はおおむね、キエフから約6000kmほど離れたシベリアに位置しており、事業に深刻な影響は出ていない。対照的に、こちらも旧ソ連のカザフスタンでは今年、社会不安によってインターネットが停止し、暗号資産のマイニング事業も数日間にわたって影響を受けた。

戦争にも関わらず、マイニングはロシアにおいて「継続可能な事業」のままであると、ロシアでマイニングホスティングを手がけるビットクラスター(BitCluster)のセルゲイ・アレストフ(Sergay Arestov)氏は語った。同氏は比較的安価なエネルギーと建設資材の供給、ルーブル安をその理由に挙げている。

ルーブルの価値低下に伴い、ビットコインは対ルーブルではより多くの価値を持つことになる。「マイニングはさらに収益性が高まった」と、アレストフ氏は語る。

さらに、ルーブル安によって、世界的な基準に比べると地元でのエネルギー料金が安くなると、ベルリンにあるクリプトカレンシー・マイニング・グループ(Cryptocurrency Mining Group:CMG)の共同創業者で、スイスにあるマイナー、マーベリック・グループ(Maveric Group)のデニス・ルシノヴィッチ(Denis Rusinovich)氏は指摘する。ロシアでの電力料金は、戦争開始から数日後には、アメリカドル建てで25〜30%下がったと、同氏は述べる。

世界的なビットコインのハッシュレート(ネットワーク上の演算能力を表す指標)は、プーチン大統領が「特別軍事作戦」と呼ぶ戦争開始以来、3週間変わっていない。

しかし、軍事衝突に加えてロシアは、国際送金・決済システムSWIFTからの排除や、輸出入の禁止、ロシアでもとりわけ裕福でパワフルなオリガルヒ(新興財閥)の資産凍結など、世界で最も制裁を受ける国となった。

「ロシア外の人間が、ロシアでビットコインマイニング向けの新しい施設やホスティングに投資することはないだろう」と、ルシノヴィッチ氏は話す。それによって、演算能力の地理的多様化の範囲がますます狭まり、ネットワークが中央集権化することに対する懸念を再び高めたと、同氏は説明した。

経済制裁で退散

CoinDeskが取材したヨーロッパを拠点とするマイナーの少なくとも2社が、ロシアでの事業拡大計画を放棄している。ルシノヴィッチ氏は、現状を鑑み、ロシアでのプロジェクトを諦めたと語った。

「ロシアで新しい施設を探すことは計画していないが、この先6〜8カ月で300メガワット以上成長させていく」と、ドイツにあるマイニングホスティング企業BWC UGのローマン・ザブガ(Roman Zabuga)氏は語った。BWC UGは自社マイニング施設を完成させたら、カザフスタンにある中国のマイナーをホスティングする可能性が高いと、ザブガ氏は説明した。

他社のマイニング機器のホスティングも手がけるビットクラスターは、投資家や顧客を探す時に、西欧や北米から東側へとシフトしていくだろうと、アレストフ氏は述べる。中東、中央アジア、インド、アフリカが巨大マーケットだと、同氏は指摘した。

一部の欧米マイナーがロシアから軸足を移す決断を行ったことは、暗号資産のマイニング業界を深刻に混乱させることはないだろうと、ブロックチェーン分析企業エリプティック(Elliptic)のデビッド・カーライル(David Carlisle)氏は語った。

ロシアで事業を行う最大規模のマイニング関連企業の1つでスイスに拠点を置くビットリバー(BitRiver)は、当記事に関するコメントを拒否した。

ロシアに留まる企業は、経済制裁のために「部品の不足や物流面での困難に直面するかもしれない」と、アレストフ氏。

しかし、ASICと呼ばれる暗号資産マイニングのための特別なチップは、中国から購入することができると、カーライル氏は言う。ASICの主要生産国は中国のままであり、中国はロシアに制裁を発動してはいない。

ロシアが欧州航空機のロシア領空での飛行を禁止したために、ハードウェア空輸の料金が上昇すると、ルシノヴィッチ氏は予測している。

規制上の不透明感

戦争前にロシアは、暗号資産取引やマイニングにおいて過去最大の規制上のステップとなる可能性を持つ戦略を検討していた。

戦争開始の1週間ほど前、ロシアの財務省は、暗号資産取引とマイニングを規制する法案を、議会に提出した。法案のプレスリリースには、マイニングがどのように規制されるかについての情報はほとんどなく、専門の政府機関が暗号資産業界を担当すると書かれているだけだった。

新しい法律がマイニングにどのような対応をするのか、ロシアの資本統制が暗号資産に対してどのように適応されるのかをめぐり不透明感がある。

ロシアの中央銀行は、国境を超えて交わされた契約のもとで銀行口座に預け入れられている外貨預金の80%を、ルーブルに交換するよう輸出業者に命じている。ビットコインは交換可能なデジタル通貨であるため、同じような理論をビットコインにも適応できると、ルシノヴィッチ氏は指摘した。

ロシアのあるマイナーは、国家予算の急激な減少と資本の逃避に素早く対処するために、規制が導入されることを期待すると話した。

規制とは、暗号資産関連の活動禁止や、中国が実施したような、マイナーに対する電気料金の値上げとなるかもしれないと、そのマイナーはコメントした。

対照的に、英エリプティックのカーライル氏は、ロシア政府が突如、マイニングを切望されるキャッシュフローの源と考えるようになるかもしれないと考えている。

「大切なのは、ロシア政府が経済制裁に直面する中で収入を生み出す方法として、マイニングに頼るのか?そうだとしたら、それは直接マイニングに関与することによってか、ライセンス制として課税することによってか、という点だ」(カーライル氏)

経済制裁は現在、ロシアの石油や天然ガス業界を明確に標的としていることを考えると、「ロシアがマイニングに頼る可能性はますます高まっている」のだ。国営の天然ガス会社であるガスプロムネフチも、マイニングに関与している企業に名を連ねている。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Russian Crypto Miners Brace for Sanctions Fallout Amid Ukraine Conflict