懐疑派の私が、暗号資産業界の存続を確信する理由──デューク大「Digital Assets at Duke」に向けて【オピニオン】

暗号資産(仮想通貨)懐疑派として知られる私が、1月20日、21日にデューク大学で開催されるデジタル資産カンファレンスに尽力していることは奇妙に見えるだろう。私はかつて、ウォール・ストリート・ジャーナルに暗号資産の禁止を求めるコラムを寄稿したこともある。

私は依然として、ビットコイン(BTC)などの裏付け資産を持たない暗号資産は経済的有用性を持たず、メリットよりも社会に対するコストの方がはるかに大きいと考えている。だが、より広範なデジタル資産業界が消滅することはないことも理解している。

存続すると考える理由

なぜそう考えているのか? まず私はデューク大学で、6年以上も暗号資産やデジタル資産について教え、執筆活動を行ってきた。この間、業界は進化を続け、私の予測も含め、あらゆる予測を覆してきた。

こうした歴史が示していることは、現在進行中の「暗号資産の冬」は暗号資産の終わりのサインだと主張する人たちも、同様に間違っていたことが証明されるということだ。

また私はこれまで、幅広い専攻の数多くの学生たちと話をしてきた。そこには、画期的な金融テクノロジーエンジニアリング修士プログラムの学生もおり、そうした学生たちはデジタル資産やブロックチェーンテクノロジーに情熱を持ち、そこでキャリアを築きたいと考えている。

学生たちは早くお金を儲けたいとか、ランボルギーニを買いたいという動機に動かされているわけではない。暗号資産やブロックチェーンは知的好奇心を刺激するものだと考えており、素晴らしい可能性を秘めた、まだ新しい業界に初期から携わることにチャンスを見出している。

伝統的金融業界のリーダーたち

デジタル資産が存続していくと私が考えるもう1つの理由は、伝統的金融システムのリーダー的人物や企業がそう考えているからだ。

ゴールドマン・サックスのデービッド・ソロモン(David Solomon)CEOは先月、ウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿で、ブロックチェーンはすでに企業の資金調達や投資家の取引方法に変化をもたらしている「期待できるテクノロジー」と考えていると語った。

その証拠として同氏は、顧客間の取引プラットフォームでゴールドマン・サックスがブロックチェーンを使用していることや、プライベートブロックチェーンを基盤にして、欧州投資銀行やその他2つの銀行向けに2年満期の1億ユーロ(約140億円)のデジタル債券の引き受け人となったことをあげた。

さらに、世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)のラリー・フィンク(Larry Fink)CEOも「市場の次世代、証券の次世代は証券のデジタル化にある」と先月、語っている。

すでにトークン化の実例は複数ある。JPモルガン・チェースのブロックチェーン基盤ネットワーク「Onyx Digital Assets」は2022年夏、ブラックロックのマネーマーケットファンドをトークン化。9月には、プライベートエクイティ大手のKKRがヘルスケアファンドをトークン化した。

未来を見据えたカンファレンス

このような動きは、ビットコインの生みの親サトシ・ナカモト氏が夢見た「電子キャッシュの純粋なピア・ツー・ピア版」からはほど遠いかもしれない。だが、意味がないわけではない。

消費者がプロダクトを使い始め、好みを表明することに伴って、そして政策決定者たちが新しいリスクを考慮して、規制の枠組みを調整することに伴って、テクノロジーと業界は進化する。

暗号資産は中央銀行や伝統的金融機関から自由な新しい通貨システムを象徴するものだという多くの人が執拗に抱く信念にもかかわらず、暗号資産はその基盤とするテクノロジーが時代遅れにしてしまうはずの組織に採用されながら、進化していく運命だ。

FTX崩壊の瓦礫が残る今こそ、暗号資産で現在進行中の進化を吟味し、未来を見越して、長期的な真の経済的実用性をもたらすデジタル資産のユースケースを見出さなければならない。だからこそ同僚と私は今月、デジタル資産に関するカンファレンス「Digital Assets at Duke」をデューク大学で開催する。

Digital Assets at Dukeは、普通の暗号資産カンファレンスとは異なる。外にスポーツカーが停められているわけでも、ナイトクラブでのアフターパーティーが楽しめるわけでも、無料のグッズを配る企業ブースがあるわけでもない。

その代わりに、デューク大学が誇る学際的なリサーチや業界とのコラボレーションのパワーを活用して、デジタル資産業界の主要なプレーヤー、規制の専門家、研究者を集めて、2日間にわたって真剣な議論を交わしてもらう。

規制

デジタル資産の未来にとって規制ほど重要なものはないだろう。暗号資産規制の議論の最前線にいる2つの米連邦機関からもカンファレンスに登壇者を送ってもらう予定だ。

SEC(証券取引委員会)のヘスター・ピアース(Hester Peirce)委員は常々、デジタル資産に対するSECの「執行による規制」のアプローチを批判しており、分散型ネットワークの開発者に対して、連邦証券取引法の登録条項から3年間の免除を与える画期的なセーフハーバー規定を提案している。

CFTC(商品先物取引委員会)のクリスティン・ジョンソン(Kristin Johnson)委員は、2022年にCFTCに加わる前は高名な証券・デリバティブ取引関連の法律学者だった。CFTC委員に就任してからジョンソン氏は繰り返し、「デジタル資産市場における効果的な消費者保護を確実にするための、政府全体、あるいは包括的な規制体制」を呼びかけている。

ステーブルコイン

ステーブルコインは、決済システムに現存する摩擦を緩和し、プログラム可能な通貨やマイクロペイメントといった新しい取引モデルを円滑にする可能性を持つデジタル資産のユースケースだ。

デューク大学でのカンファレンスでは、異なるビジネルモデル、規制モデルを採用する主要なステーブルコイン発行会社2社からも講演者を招いている。

USDコイン(USDC)を手がけるサークル(Circle)は、大半のアメリカの州で送金業者ライセンスを取得しており、経営陣は民間銀行になりたいという意向を語っている。サークルは先日、ブロックロックとのパートナーシップを発表。USDCの準備資産の80%をブラックロックが作った国債MMFに移す計画だが、銀行業界からは怒りを買っている。

ステーブルコインUSDFを発行予定のUSDFコンソーシアムは、異なるアプローチを採用しており、コンソーシアムのメンバーを連邦預金保険公社(FDIC)に加盟した銀行だけに限定し、ブロックチェーン企業のフィギュア(Figure)と共同で、プロベナンス(Provenance)ブロックチェーン上でトークン化された預金を発行する計画だ。

DeFiの可能性

FTXをはじめとする中央集権型暗号資産企業のこの1年の破綻によって、暗号資産支持者たちからは、暗号資産のルーツである分散化に回帰し、DeFi(分散型金融)を重視しようという声が新たに高まっている。

ニューヨーク連邦準備銀行のブログで指摘された通り、「DeFiプロトコルは2022年も意図されたとおりに機能し続け、閉鎖されたプロトコルはなかった」。デューク大学でのカンファレンスでは、この1年のDeFiのパフォーマンスを振り返り、DEX(分散型取引所)や取引所を超えたDeFiの用途についての討論で、DeFiのこの先の成長の可能性を議論していく。

Digital Assets at Dukeではさらに、トークン化、CBDC(中央銀行デジタル通貨)、セキュリティ、機関投資家への普及についての討論も実施する。つまりこのカンファレンスには、次世代のデジタル資産環境の開発、展開、規制に重点を置いた人、企業が一堂に会する。

リー・ライナーズ(Lee Reiners)氏:Duke Financial Economics Centerの政策担当ディレクターで、デューク・ロー・スクールのレクチャリングフェロー。暗号資産関連の法律と政策について教鞭を取り、暗号資産規制についてメディアにコメンテーターとして頻繁に登場している。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像: Shutterstock
|原文:Now I Know the Cryptocurrency Industry Is Here to Stay