世界中の“草の根プロジェクト”が暗号資産の回復をリードする【オピニオン】

FTXをめぐり先月開かれた米下院金融サービス委員会の公聴会で、民主党のへスース・ガルシア(Jesus Garcia)下院議員は暗号資産について、「業界全体が自らを法律を超えた存在と考えている」と指摘し、さらに不愉快な発言を続けた。

暗号資産企業は「誇大広告やいんちきで金儲けをしている」と、ガルシア議員は主張し、「いんちきがなくなると企業は破綻し、普通の投資家、特に黒人系やラテン系に偏った後発参入の低所得者層が損失を被る」と続けた。

有色人種層がこの数年で暗号資産を積極的に購入していること、セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)、FTX、ボイジャー・デジタル(Voyager Digital)などのせいで、そうした人たちの多くがお金を失ったことは事実だ。

しかし、ガルシア議員の発言の根底には、議員が意図したかどうかは別として、アメリカや世界中の特定のコミュニティを情報不足で脆弱なものと見下す態度が見え隠れしており、そうしたコミュニティの主体性を否定し、秘めているパワーにまつわる大きなストーリーを見過ごしている。

普及率トップ4は、ベトナム、フィリピン、ウクライナ、インド

アメリカの黒人系・ラテン系の人たちが主導する何百もの草の根暗号資産プロジェクトや、アフリカ、アジア、ラテンアメリカで誕生している多くの暗号資産ベースのビジネスモデルを見てみよう。そこには周縁に追いやられたり、虐げられた低所得コミュニティの中で、自分たちの暮らしを自分たちで引き受けようと新しい方法を模索する多くの人たちが存在する。

だからこそ、ブロックチェーン分析企業チェイナリシス(Chainalysis)がまとめた、暗号資産普及率レポートのトップ4は、ベトナム、フィリピン、ウクライナ、インド、そして6位から10位はパキスタン、ブラジル、タイ、ロシア、中国となっている。

また、クリプト・リサーチ&デザイン・ラボ(Crypto Research and Design Lab:CRADL)が発表予定の『Black Experiences in Web3(ウェブ3における黒人のエクスペリエンス)』というレポートによると、5位のアメリカがリスト上で唯一の欧米先進国であることにも理由がある。アメリカの黒人コミュニティで暗号資産の普及が進んでいることだ。

旧来の金融システムを回避

ガルシア議員にヒントをあげよう。前述のトップ10の国々の共通点は、サム・バンクマン-フリード氏ではない。FTXのスーパーボウル広告は、ベトナムのリキシャ(三輪自転車)の運転手やウクライナ難民、アメリカのホスピタリティ業界で働く黒人をターゲットにしたものではない。

世界中の何百万人もの人たちは、眠ったままのポテンシャルを活用を妨げてきた旧来の金融システムを迂回する方法だと考えて、暗号資産の世界に足を踏み入れている。

もちろん、こうした周縁にいる初期の暗号資産購入者は、コミュニティの中でも少数派。暗号資産はどこでも普遍的に受け入れられる状態からはほど遠い。そして、2022年の暴落や破綻が引き起こしたネガティブな心理が成長を鈍化させるだろう。

しかし、そうしたコミュニティやグループにおける世界的な普及傾向は続いており、長期的には、欧米の金融分野における既得権益をディスラプトするだろう。ディスラプトされる人たちの中には、中央集権型取引所を自らの資産を10倍にするカジノのように扱った特権的な人たちが含まれる。

かつては周縁に追いやられていた少数派の人たちがいまや、業界の回復を主導するポジションにある。

周縁からの変化

少数派の人たちが開発するソリューションは、Web3時代に暗号資産テクノロジーが約束する革命の真の源になると私は信じている。グーグルやアマゾン、フェイスブックなどが、既存システム内にいた欧米人を新しいプラットフォームベースのビジネスモデルにシフトさせ、過去のコマースインフラをディスラプトしたWeb2インターネット「革命」とは違うものになるはずだ。

パラダイムの変化は、システムの外側──発展途上国や、先進国内部の周縁化されたコミュニティから起こる。

CeFi(中央集権型金融)トレーディングやレンディングのバブルが崩壊した後、暗号資産の目的を再定義し、FTXが象徴した中身のない投機の盛り上がりと差別化するチャンスを持っているのは、ローカルかつ実世界にフォーカスしたユースケースをコミュニティにもたらす人たちだ。

黒人コミュニティにおける暗号資産の普及に関するCRADLのレポートには、カンザスシティ連邦準備銀行による驚くような調査結果が引用されている。

アメリカの黒人消費者の18%が暗号資産を保有しているのに対し、株式はわずか7%、投資信託は2%。一方、白人消費者で暗号資産を保有するのは12%、株式は19%、投資信託は12%となっている。

世代を超えたトラウマ

レポートはこの違いの根本原因を探り、アメリカの黒人コミュニティに根深く広がっている株式市場や金融業界の白人系支配者集団に対する不信感を理由にあげた。不信感は「世代を超えて引き継がれる経済面でのトラウマ」から生まれ、セルフエンパワーメントという暗号資産にまつわるストーリーへの評価にもつながっている。

「世代を超えたトラウマ」とは、特定の人種に対する歴史的な不正義は世代を超えて引き継がれるという考え方をいう。

奴隷制はその典型例であり、構造的な人種差別と根深い不信感によって、何世紀にもわたってアメリカの黒人層に負担を課している長期的なトラウマの源となっている。

そうした考え方を否定し、過去のことは水に流して欲しいと考えている人のためにハイチの例を示そう。

1804年の革命でかつての支配者を失脚させたハイチ政府は、かつての支配者であるフランスに対して多額の債務を抱えた。フランス人の奴隷所有者たちの「財産」の損失に対する賠償金とされた。

債務は最終的に、シティバンクの前身であるNational City Bank of New Yorkの手にわたり、最終的には1947年に完済されたが、貧困に苦しむハイチに1世紀にわたる負担を強いた。

ハイチの人たちがウォール街に対して変わらない不信感を持ち続け、ハイチでデジタル通貨決済プロダクトを手がけるジンバリ・ネットワークス(Zimbali Networks)に心を開くことも無理はない。

超草の根のWeb3イノベーション

現地コミュニティが自らのために開発した暗号資産プロジェクトには他にも、CRADLとCoinDeskが共同で開催したハッカソン「Web3athon」に参加したプロジェクトなどがある。

例えば「Evolve」は、黒人、先住民、有色人種の女性向けにポリゴン(Plygon)を基盤に金融リテラシープログラムを開発。「IndigiDAO」は、先住民コミュニティ向けの自律分散型組織(DAO)。「Carbon Coffee Collective」は、環境再生型農業への転換資金をコーヒー農園に提供するプロジェクトだ。

フィリピン発のWeb3ゲーミングギルド「Yield Guild Games」や、そのインド版「IndiGG DAO」といった、Play-to-Earn(P2E)ゲームの共同組合もある。

暗号資産に特化したコンサルティング企業Emfarsis Consultingのディレクターを務め、CoinDeskのコラムニストでもあるリア・キャロン-バトラー(Leah Callon-Butler)氏は、このようなコミュニティを「超草の根でコミュニティ志向のWeb3イノベーションの優れた例」と呼んでいる。キャロン-バトラー氏によると、世界にはすでにそうしたWeb3ギルドが1万7500も存在している。

キャロン-バトラー氏はさらに、金融包摂や社会的影響をもたらすプロジェクトを開発するコミュニティのために作られたプロトコル「Impact Market」は、発展途上国において草の根のエンパワーメントプロジェクトを推進するツールと指摘した。

テクノロジーや金融イノベーションを超えて

これらのツールやアイディアは、あらゆる場所で現地のニーズに合わせたイノベーションを巻き起こしている。

ナイジェリアでは、分散型金融(DeFi)のイノベーションが爆発的に生まれ、インフレと腐敗した圧政的政府にうんざりした現地の開発者が公式の金融システムを迂回する方法を開発している。

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NFTも、黒人アーティストをはじめ、歴史的に過小評価されてきたアーティストに、白人がコントロールするギャラリーの世界にいる気取り屋のアート専門家たちの排他的なやり方を避け、コレクターに直接作品を販売するチャンスを提供している。

こうしたプロジェクトについて印象的なことは、テクノロジーや金融イノベーションを超えた存在であること。社会的イノベーションであり、コミュニティが新しいガバナンスモデルやトークノミクスを使って、共通の、そして個々の利害を通じて結束する方法を模索している。

そうしたプロジェクトが増えるにつれて、欧米の中央集権型システムへのチャレンジャーになっていくだろう。

一夜ですべてが変わることはないが、ゆっくりと静かな革命になるはずだ。その影響によっていずれは、FTX破綻など、ささいなことに思えるときが訪れるだろう。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Worldwide Grassroots Projects Can Lead Crypto Recovery