FTX破綻と失態で、規制当局はどう動く?

暗号資産取引所FTXに鉄槌が下されようとしている。問題は、どれほど重いものになるかという点だ。

FTXの破綻を受けて、FTXと元CEOサム・バンクマン-フリード氏などの幹部に対する刑事・民事訴訟がいくつも起こされるだろう。さらに、政治家や政府機関を通じて、規制における変化が押し進められる可能性も高い。

FTXは11月11日、破産を申請した。FTXの姉妹会社アラメダ・リサーチ(Alameda Research)が、FTXが発行するFTTトークンを驚くほど大量に保有していることをCoinDeskが伝えてから約1週間後、FTXが顧客資産の引き出しを停止してからわずか数日後のことであった。

バンクマン-フリード氏は、FTXの支払い能力について聞かれると「問題はない」と答えていたが、一連の出来事によって、そうではなかったことが明らかとなっていった。

これを受けて、アメリカの司法省と証券取引委員会(SEC)、バハマの証券取引委員会と金融犯罪捜査局など、複数の州と連邦レベルの組織が、FTXに対する捜査を開始、あるいはすでに行われていた捜査を強化した。

セルシウス・ネットワーク(Celsius Network)やスリー・アローズ・キャピタル(Three Arrows Capital)、テラ(Terra)、FTXなど、今年破綻した主要プロジェクトの一部に関して、規制当局が監視していなかったことが「まさしく問題」だと、政策決定者たちと密接な関係にある業界関係者は語った。

それでもその関係者は、今年中に何らかの大きな立法上の動きが起こることを期待してはいないと話した。バンクマン-フリード氏も支持していたデジタル商品消費者保護法(Digital Commodities Consumer Protection Act)などの法案に関しては、議会は来年に入ってから検討する可能性が高い。

捜査

匿名での取材を希望した弁護士によれば、SECはその権限のおかげで、捜査を開始するのがとりわけ簡単かもしれない。

「SECは正当な理由があると考えれば、裁判所に訴えて(資産の)凍結をしてもらえる可能性がはるかに高い。さらに、証言を命じたり、書類の凍結を命じるプロセスもそれほど面倒ではない」と、その弁護士は説明した。

司法省の捜査官がSECの捜査に同席するなど、SECと司法省が協力する可能性も高い。

FTXがバハマで登記されており、本社がバハマにあるという事実が、アメリカ当局による捜査に影響を与える可能性は低いと、前述の弁護士は指摘する。FTXは様々な形でアメリカとつながっており、SECや司法省は捜査の正当性を主張するのに、そのつながりを指摘すれば良いのだ。

FTXはどうやら、捜査に備えているようだ。FTX USではすでに、全社員に書類の保管が命じられている。

取材に応じたある元連邦検事はCoinDeskに対し、破産裁判所も事態の解明に役立つ可能性があり、政府による捜査をサポートするかもしれないと語った。

「破産裁判所はFTXを監視し、破産前には司法省がそれほど簡単に手にすることのできなかった情報を獲得することができる。さらに、新しい管財人や調査官に連絡を取って、リアルタイムで何が起こっているのかを知ることもできるだろう」と、元検事は語った。

バンクマン-フリード氏をはじめとする幹部たちは、捜査に協力するか、それとも自らを有罪にしないように憲法修正第5条の権利を行使するかを選ぶ「厳しい立場に置かれている」かもしれないと、元検事は付け加えた。

証拠のツイート

バンクマン-フリード氏が、破綻に向かうプロセスでツイートを繰り返していたことが、少なくともFTXにとっては、事態を複雑にするかもしれない。

CoinDeskがアラメダ・リサーチのバランスシートについての報道を最初に行った数日後の11月7日、かつては暗号資産界の寵児であったバンクマン-フリード氏は「FTXは全顧客の資産をカバーするのに十分な資産を保有している」とツイート。FTXの支払い能力に関する憶測は、競合のバイナンスが引き起こした噂であるとまで主張し、「資産は大丈夫」だと語った。

同じ週には、FTX USに問題はなく、完全に流動性を保っているともツイート。しかし、そのわずか数時間後、FTX USはユーザーに引き出しを一時停止するかもしれないと警告した。

それから1日もたたないうちにバンクマン-フリード氏は、競合のバイナンスによる買収/救済に合意。しかし、バイナンスはそれから24時間も経たずに、買収の方針を撤回し、FTX USを含めた破産申請を引き起こすこととなった。これらのツイートは、現在は削除されている。

「まったくの悪夢だ」と、元連邦検事で現在は弁護士のケン・ホワイト(Ken White)氏。「SEC、連邦取引委員会(FTC)、そしておそらく司法省など、あらゆる組織が関わってくる状況だ。検事、民事であらゆる訴訟が想定される。民事訴訟は間違いない。バンクマン-フリード氏は自らの考えをツイートしてしまっている。どんな弁護士にとっても、依頼人がすることとしては悪夢のようなものだ」と続けた。

ジョン・スパラチーノ(John Sparacino)弁護士も、その考えに同意する。バンクマン-フリード氏は自らのツイートを弁護士に相談してから投稿していなかったと、スパラチーノ弁護士はみている。

FTX元CEOの行動は、「徹底的に捜査される」と、スパラチーノ弁護士。裁判の過程で、バンクマン-フリード氏は自らのツイートに苦しめられる可能性が高い。

スパラチーノ弁護士は、ツイートに規制や犯罪に関わる側面があるかは分からないと語ったが、それでも訴訟の過程で取り上げられると見込んでいる。

バンクマン-フリード氏が、崩壊の様々な段階の前に、何も問題はないとユーザーを安心させるために繰り返しツイッターを利用したという事実は、彼を訴追するのを簡単にするかもしれないとホワイト弁護士は指摘し、一連のツイートを「信じられないほどバカげている」と述べた。

「これらのツイートだけで、彼に対する刑事、民事の告発の新しい根拠を作ることができる」とホワイト弁護士。「『すべて問題はない、保有する資産はすべて本物の資産だ』と言っておきながら、それが真実ではなかったのだとしたら、それは証券取引法違反、有線通信不正行為、その他あらゆる違法行為にあたるどころか、民事の訴因ともなる。(中略)とにかく壊滅的に軽率な行為だ」と続けた。

バンクマン-フリード氏のツイートが個人投資家にとって何を意味するのか、さらにFTXの説明がどんなものであったのかを、捜査官たちは検討するかもしれない。

バンクマン-フリード氏が、予期せぬ出来事によって自らの間違いが証明されるまでは、自らの取引所は本当に安全で安定していると信じていた可能性も十分にあるのだが、不正確な情報をツイートしていた可能性もある。

FTXとアラメダの関係も、捜査官の目を引くことになるだろう。バンクマン-フリード氏がユーザーの資産をアラメダへと移動させ、投資で損失を出していたとしたら、訴訟においてはマイナスとなるだろう。

ホワイト弁護士に、バンクマン-フリード氏へのアドバイスを聞くと、「黙らなければ、担当弁護士に辞められてしまうぞ」との答えが返ってきた。

「報酬が良かったとしても、時に弁護を担当したくない人もいるのだ。自らを有罪に追い込むような人と、関連づけられたくはないのだから」と、ホワイト弁護士は説明した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:FTX’s Failure Is Sparking a Massive Regulatory Response