ICOは再考に値する【オピニオン】

FTX破綻の余波が広がるなか、米上院銀行委員会のシェロッド・ブラウン(Sherrod Brown)委員長は先日、暗号資産詐欺から個人投資家を保護することを目的とした法律を検討中と発表した。

だが、政治家や規制当局は慎重にことを進めるべきだ。事情に詳しくない人たちは暗号資産のイノベーションに懐疑的かもしれないが、最も明らかなイノベーションは、ICO(新規コイン公開)だ。

ICOは起業家による資金調達を可能にし、20年近く前に投資家保護のために作られたサーベンス・オクスリー法(SOX法)を回避できる。経済成長について真剣に考える議員は、ICOを推奨し、米証券取引委員会(SEC)による過剰な規制を抑制すべきだ。

資金調達を妨げるSOX法、JOBS法の限界

ICOは、SOX法の可決後に硬直化した現在の資金調達システムをディスラプトする技術的イノベーション。SOX法は反面教師となるべきものだ。エンロンとアーサー・アンダーセンによる会計スキャンダルを受けて可決されたSOX法の目的は、投資家の信頼を高め、個人投資家を保護することだった。

しかし実際には、オープンな資本市場への起業家のアクセスを一段と困難にする結果となった。資本市場の資金へのアクセスがあまりに困難なため、スタートアップ企業は今、未公開の期間が長くなっている。

米議会は2013年、クラウドファンディングを促進する新規事業活性化法(Jumpstart Our Business Startups Act:JOBS法)によって、正しい方向へと歩み出した。JOBS法は、多くの投資家がスタートアップの成長に参加できるようにし、スタートアップの創業者たちにとっては、幅広い人たちから資金を調達できるようにすることが狙いだった。

クラウドファンディングの推奨によって、議会は正しい方向に舵を切ったが、ICO市場の成長を予測することはできなかった。

SECの過度な規制

スタートアップなどに関する情報を提供するCBインサイツ(CB Insights)のデータによると、2013年以降、ICOを通じて調達された資金は190億ドル(約2兆4700億円)、一方、クラウドファンディングは9億6900万ドルにとどまっている。

キックスターター(Kickstarter)やエンジェルリスト(AngelList)などのクラウドファンディングプラットフォームが、当時は革新的で株式クラウドファンディングへの道を切り開いたことは確か。だが、中央集権型プラットフォームであり、その規模には限りがあった。議会の狙いは、小規模投資家からの資金調達を簡単にすることであり、それこそICOが得意とすることだ。

ICOの評判を落とした最大の責任はSECにある。SECは規制当局としての権限を拡大し過ぎてしまっている。

SECは暗号資産規制について最終決定権を持たない。それは議会の仕事だ。JOBS法は確かに資金調達を容易にしたが、SECはSOX法の最悪の部分を繰り返すような過剰に規制された制度を作ろうとしている。

「ICO」を避ける起業家

SECの思い通りになれば、初期段階のスタートアップの成長に参加できる個人投資家は少なくなり、スタートアップの創業者は、限られた人たちからしか資金調達ができなくなる。SECの規制による萎縮効果は、暗号資産起業家たちがSECの取り締まりを恐れて、「ICO」という言葉を使うことを避けていることからもわかる。

起業家は「新規分散型公開(initial decentralized offering:IDO)」や「トークン生成イベント(token generation event:TGE)」といった難しい言葉をシンプルな資金調達を表現するために使っている。議会はJOBS法の規定を使って、ICOを行う起業家に、SECの取り締まりからの法的な保護をもたらす「安全な避難先」を提供するべきだ。

さらに、ICOに対するSECの規制は、ゴールドマン・サックスの元パートナーであるゲンスラー委員長が率いるSECが、投資銀行、監査組織、企業弁護士、規制当局など、ICOによるディスラプションがもたらすリスクが最も大きいIPO(新規株式公開)エコシステムを守ろうとする保護主義と見なされるべきだ。

詐欺か失敗か?

しばしば引用される統計によると、ICOを行ったベンチャー企業の大半は4カ月以内に破綻する。議員や規制当局は、詐欺と失敗を説得力のある形で区別する必要がある。事業の失敗は犯罪ではなく、経済成長を促そうとする政治家によって推奨されるべきだ。

個人投資家を守ることを目的としたルールは、事業を成長させるために必要な資本を求めながらも、さらに多くのルールと戦わなければならない起業家に多大な犠牲を強いることになるため、規制はしばしば、ゼロサムゲームとなる。

上院銀行委員会のブラウン委員長やゲンスラーSEC委員長は、経済成長やテック起業をサポートしたいと誠実に願っているのかもしれないが、未来のイノベーションのための最も明確な資金源を抑圧するリスクを冒している。

個人投資家の大半は、暗号資産はおおむね避けるべき詐欺であるという情報をすでに耳にしており、規制によるメリットはおそらく、最小限となるだろう。一方、新たな規制のデメリットは、起業家が事業を成長させるために必要な資金の調達を一段と困難にすることだ。

さらなる規制が可決されれば、イノベーティブな未来のスタートアップがシリコンバレーからはるかに離れた海外で生まれることになることが容易に予想できる。

ドン・ファン(Don Phan)氏:アマゾン・ウェブ・サービス(Amazon Web Services:AWS)の暗号資産事業担当。議会職員を務めた経歴を持つ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Initial Coin Offerings Deserve a Rethink