テザー社、驚愕の四半期利益──ビットコインを買い漁るのではなく、キャッシュを保有すべき

今、暗号資産(仮想通貨)業界で最も信じられないことの1つが、テザー(Tether)社の四半期利益だ。市場を牽引するステーブルコインのUSDTと同じくらい、さまざまな論争を引き起こすことで知られる同社は、約60人の従業員を抱え、四半期利益は10億ドル(約1426億円)を超えている。

正直言って、この数字は私にはすぐには信じられない。しかし同社がときおり、一部だけの真実や真っ赤な嘘を並べてきた過去にもかかわらず、この数字を信じるべきではない確固たる理由はない。ただ、おかしく見えるだけだ。

驚愕の報告書

テザー社は8月31日、いくつかの興味深い指標を含む、新しい四半期保証報告書を発表した。

まず、テザー社は米国債を数多く保有し、それに比べると保有する民間の債権ははるかに少ない。特筆すべきは、558億ドル(約7兆8100億円)の米国財務省短期証券(満期90日以内の国債)、89億ドル(約1兆2500億円)のオーバーナイトのリバースレポ取引(金融機関が融資要件を満たすために行う融資)、81億ドル(約1兆1300億円)のマネー・マーケット・ファンド(事実上のキャッシュ)を保有していることだ。もしテザー社が国なら、保有する米国債の量だけで、メキシコとタイの間に位置する世界で24番目に米国財務省証券を保有する国となる。それだけでも、極めて注目に値する。

次に、テザー社が保証報告書で提示している資産額は860億ドル(約12兆400億円)を超えており、これはUSDTの現在の時価総額よりも数十億ドル多い。そのうちの24億ドルが文字通り何でもありの「その他の投資」であることは、言及する価値があるだろう。いずれにせよ、テザー社の資産は負債を上回っており、これは自己資本が黒字であることを意味する。

これら2つのことがまったく信じられないというわけではないことは認めるが、同社の以下のブログの一文はまったく信じられない。

「営業利益は2023年4月から2023年6月までの期間で10億ドルを超え、これは前四半期比30%の大幅な増加に相当する」

驚愕だ!

1人当たりの観点から見ると、テザー社は正直に言って1人あたりの米国債保有額と1人あたりの営業利益で世界をリードしているかもしれない。10億ドルという金額は間違いなく、これだけ従業員の少ない会社にとっては大金だ。同社が桁外れの利益を上げている理由は何だろうか?

テザー社の収益性は、同社が保有する国債の量を考えれば納得がいく。ここ1年で金利は大幅に上昇し、テザー社のビジネスは明らかにその恩恵を受けている。1カ月国債の利回りは現在5.378%で、USDTの利回りはゼロ、テザー社はその差額を手にしている。数十億ドル相当の国債を保有しているなら、お金の成る木を手にしているも同然だ。

手にできるなら、悪い仕事ではない。

米国債やビットコインよりもキャッシュを

顧客のUSDTの担保として保有する資産をどのように再投資すべきかについて何年も議論されてきたため、テザー社がこの新たな収益性で何をしているのか、あるいは何ができるのかについて、大きな騒ぎとなっている。テザー社はすでに17億ドル相当のビットコイン(BTC)を保有しており、ウルグアイでの持続可能なビットコイン・マイニングやジョージア州を拠点とする決済処理業者など、他の関連事業にも投資している。テザー社はもっとビットコインを買うか、もっと多くの企業に投資できるかもしれない。

私としては、それらに代わるアイデアを提案したい。テザー社はバランスシート上にキャッシュを保有すれば良いのではないか。米国債、リバースレポ、マネー・マーケット・ファンドは流動性があるが、キャッシュとは言えない。

実は、テザー社のキャッシュ残高はわずか9080万ドルまで減少している。2023年3月の4億8100万ドル、2022年12月の53億ドルから減少しているのだ。

減少しているのは、おそらくテザー社が現金を国債に注ぎ込んでいるからだろう。その理由は、国債の利回りが5.378%だからだが、この動きは希望が持てるものではない。インフレが過熱し、米国債が事実上、現金と同等であることはわかっているが、現金不足こそがまさに、シリコンバレー銀行を破綻に追い込んだ。USDTに対して取り付け騒ぎが起こった時、キャッシュが多い方がテザー社には好都合だ。

全体として、テザー社とUSDTをめぐる憶測は、特に同社が使い道がわからないほど多くの利益を上げている今となっては収まることはないだろう。同社は長年、アメリカでの規制の問題に悩まされており、こちらの問題も収まることはないだろう。

しかし、非常に大きく重要な注意書きがある。保証や認証は監査ではない。監査とは似て非なるものであり、同等に扱うべきではない。テザー社がすでに被った規制当局からの非難と訴訟費用を考えると、同社が嘘をついている可能性は低い。しかし、保証報告書では間違いなく、虚偽が可能だ。監査は、監査前には知られていなかったかもしれない問題を発見するために行われ、保証は単に、記載された目的に対して、データや情報がどの程度真実であるかを審査するものだ。

つまり、保証報告書は企業が伝えてきた数字にしっかりとしたゴム印を押すようなもので、本物の監査にはかなわない。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Tether Is Going on a Bitcoin Buying Spree, but It Should Be Holding Cash