「暗号資産の冬」は終わった

ビットコイン(BTC)はここ1カ月で28%上昇した。ビットコインETF(上場投資信託)は近いうちに登場する。暗号資産(仮想通貨)投資ファンドは先週、2022年半ば以降で最大の資金流入を記録した。ミームコインも復活しつつある。そして、サム・バンクマン-フリード氏を懲らしめるための裁判はほぼ終わり、暗号資産は新たなスタートを切ろうとしている。

北米では季節は冬に向かっているが、「暗号資産の冬」は終わりを告げようとしているのだろうか? 確かにそのように思える。

冬の終わりと新しいストーリー

「暗号資産の冬」は、専門用語とは言い難い。定着した定義もない。しかし、暗号資産に携わっている人なら誰でも、それが何であり、どんな感じなのかを知っている。冬の間、暗号資産価格は下落し、暗号資産に批判的な人はけんか腰。VCマネーは枯渇し、誰もが新しいストーリーを探している。

そして最近、新しいストーリーが帰ってきた。

ウォール街は大々的にビットコインに参入し、ETFを通じて数十億ドルの新しい資金を投入しようとしている。ビットコインを投資家にとってより安全なものにし、規制をより明確にすることで、メインストリームの金融機関が暗号資産業界を救おうとしている──これが現在のストーリーだ。

FTXやその他の大スキャンダルの後、成熟した責任ある人たちが戻ってきたと言われており、実際に機能するものに今以上に焦点を当てることを約束している。

ウォール街の現在の課題は、持続可能な商品を見つけること。すなわちETF、トークン化証券、ステーブルコインなどだ。新型コロナウイルスのパンデミック中に見られたような、ミームコインや法外な価格に上昇したNFTのような軽薄で無意味なものではない。

暗号資産の目的や原点(メインストリームの金融に代わる選択肢を提供すること)から逸脱していると考え、新しいストーリーを歓迎しない人もいるだろう。しかし、人々が再び暗号資産に熱狂している理由は間違いなくそこにある。

クオリティへの逃避

その一因は、中東の不安定さやインフレの新たな脅威といったマクロ経済要因にある。世界最大の資産運用会社ブラックロック(BlackRock)のラリー・フィンク(Larry Fink)CEOは、最近のビットコインの上昇は「クオリティへの逃避」が後押ししていると表現。つまり、不確実な時代に投資家が安全を求めて避難していると指摘した。

「考え方に応じて、国債であれ、金(ゴールド)であれ、暗号資産であれ、クオリティへの逃避に走る人が増えていると思う。そして、暗号資産はクオリティへの逃避先としての役割を果たすと思う」とフィンクCEOは10月中旬、米ニュースチャンネルFox Businessに出演して語った。

フィンクCEOは、以前は暗号資産に懐疑的だと公言しており、ビットコインのセイフヘーブン(安全な避難先)資産としての可能性よりも、その環境負荷を懸念していた人物だった。

今、ウォール街を代表するフィンクCEOは、全国ネットのテレビ番組でビットコインを大々的にアピールしている。実は、我々がもっと注意を払っていたならば、「暗号資産の冬」は先週よりも前に終わっていたことに気づいたかもしれない。

「春の兆し」はずっと前から

米CoinDeskとジェネシス・トレーディング(Genesis Trading)の元リサーチ責任者で、現在はニュースレター「Crypto Is Macro Now」を執筆しているノエル・アチェソン(Noelle Acheson)氏によると、1月にはすでに暖かい季節が到来していたという。

「1月以来、アメリカ国外では規制が大きく進展し、伝統的な大手銀行が暗号資産チームを整備し、多額の資本を持つ新しいファンドが登場し、トークン化の実験が広がり、金融大手とテクノロジー大手がブロックチェーン関連サービスに深く関与するようになっている」とアチェソン氏は指摘した。

「たしかに一部では関心の高まりが暫定的なものにとどまっており、アメリカの規制環境は暖かく晴れやかには見えない。しかし、暗号資産エコシステム全体としては、春の『若芽』は数カ月前から明らかだった」

さらに「1月以降、新しいレイヤー1ブロックチェーンが出現し、レイヤー2の価値は2倍以上になり、グーグル、マスターカード、フィデリティのような大手企業が暗号資産サービスに一段と深く参入し、巨大資産運用会社が商品をトークン化し、米国最大級の資産運用会社が暗号資産連動商品を作ろうとしている。これはまったくもって、冬らしくない」と続けた。

含み損を抱えた投資家や市場関係者にとっては「暗号資産の冬」が終わったようにはまったく思えないかもしれない。しかし、目を凝らせば、市場環境が改善しつつあることがわかるだろう。この先、浮き沈みがあることは確かだが、業界の軌跡は今、横ばいや下降ではなく、上昇に転じているようだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto Winter Is Over