速い安い「巧い」ステーブルコインでJPモルガンと競合か協働か ― 送金にブロックチェーン活用の米大手ウェルズ・ファーゴ

米金融大手のウェルズ・ファーゴ(Wells Fargo)は、内部で使用する国際送金用の同社ブロックチェーンが、1万1千を超える金融機関の利用する国際通信システムであるスウィフト(SWIFT)より高速かつ効率的であると述べた。

2019年9月17日(現地時間)に公表された「ウェルズ・ファーゴ・デジタル・キャッシュ(Wells Fargo Digital Cash)」は、R3の「コルダ・エンタープライズ(Corda Enterprise)」ソフトウェアを用いて、同じ銀行内で支払元口座から支払先口座へと資金が移動する際の、社内口座振替を取り扱っている。

「国際送金したり通貨を両替する必要がある場合には、スウィフトやその他銀行など第三者を介す必要があります」と、ウェルズ・ファーゴのイノベーショングループ責任者、リサ・フレーザー(Lisa Frazer)氏は述べ、次のように続けた。「それは長い手続きとなり、外部との接続があるたびに、時間、エネルギー、労力がかかります」

デジタルキャッシュを利用することで、同社は資金を1日に移動させることができる時間を20時間へと伸ばすことが可能になる。電信送金やスウィフトのようなシステムに依存する場合、わずか週5日で1日6〜9時間だ、と同氏は述べた。

そして、同氏はCoinDeskに対して次のように語った。

「スウィフトより速く、安く、そして間違いなく更に効率的です」

現在同社は、異なる国に位置する支店間での社内口座振込についてはスウィフトを利用する必要がある。しかし、国内での支店間口座振替はその限りではない。

このブロックチェーンプロジェクトは、概念実証がうまくいけば 2020年に試験段階へと移行するが「国際拠点間でデジタルキャッシュを交換することを可能にします」と、フレーザー氏は意気込む。

競合のメガバンクJPモルガン(JP Morgan)のJPMコイン(JPM Coin)と同様、ウェルズ・ファーゴのデジタルキャッシュも従来の通貨と1対1で連動することになる。「我々は法定通貨を保有するので、ステーブルコインになります。そして、デジタルキャッシュトークンを発行します。これらのトークンはデジタルウォレットに保管され、取引することが可能です」と、同氏は述べた。

ウェルズ・ファーゴが見つけた分散型台帳技術の用途

同氏によれば、ウェルズ・ファーゴは2016年以降、熱心にブロックチェーンの試用に参加してきた、と述べた。そして同氏はこれらを「外部の」ものと説明したが、つまり他の銀行や金融機関が関与していたということだ。しかし、同時にウェルズ・ファーゴは分散型台帳技術(DLT)の社内用途の模索にも忙しかったという。

「驚くべきは、社内で口座振替用にDLTが実に役立つことを見つけたのです。これにより、口座振替プロセスを効率化し、業者を使って決済の遅れが生じることを減らすことができています。そのため、国境を跨いだ外為電信送金の清算の業務時間を広げているのです」

今回のステーブルコインプロジェクトはまた、有料版のR3のDLTを利用して構築するウェルズ・ファーゴにとって初のプロジェクトとなる。このプラットフォーム上には更なる追加がなされていくことになる、と同行は語った。

スウィフトはコメントを拒否したが、「台帳外の」支払い決済を可能にするためにスウィフトのGPI(Global Payments Innovation:国際決済イノベーション)とR3のコルダをつなげる概念実証など、スウィフトも多くのプロジェクトでR3と連携をしている。この概念実証の結果は、世界的金融イベント「サイボス 2019(Sibos 2019)」で発表される予定だ。コルダ・ネットワーク(Corda Network)のオープンソース決済エンジン、コルダ・セトラー(Corda Settler)も、仮想通貨リップル(XRP)を用いた試験が行われた。

しかしウェルズ・ファーゴは、自らのデジタルコインを、社内支払いシステム外のものと接続する可能性を一切否定している。

「我々が初めて手掛ける企業向けDLTネットワーク用のプラットフォームとしては、R3のコルダ・セトラーではなく、コルダ・エンタープライズが選ばれたのです」と、ウェルズ・ファーゴの広報担当者は述べ、次のように続けた。「ウェルズ・ファーゴ・デジタル・キャッシュは、今日の金融サービス市場で台頭している他のデジタルキャッシュソリューションと関連したり、繋がることのない、社内用の決済サービスです」

ウェルズ・ファーゴでトレーダーや金融アナリストを務めた元幹部のアレックス・リプトン(Alex Lipton)氏は、ウェルズ・ファーゴのコインは「同社の煩雑な社内プロセス」を簡略化するのに非常に有用な可能性を秘めているが、同社および数少ない緊密なパートナー以外にとっては、あまり用途がないと述べた。

「大手銀行はとても遅れていて、他の人たちと同じようにスウィフトを使わなければなりません。ですから実質的には、銀行の中と外を区別しないのですよ。そこで、コインが役に立ちます。しかしそれは切羽詰まっていることのサインです」と、現在はフィンテック企業シラ(Sila)の共同創業者であり、最高技術責任者を務めるリプトン氏は述べた。

JPMコインの二番煎じ?

ウェルズ・ファーゴのデジタルキャッシュは一見すると、JPモルガンによって鳴り物入りで開発されたJPMコインの二番煎じのように見えるかもしれない。尚、JPMコインはプライバシー性を高めたイーサリアムであるクォーラム(Quorum)を用いて作られた。

JPMコインは、当初は顧客間の支払いに用いる想定だったが、最終的に、ブロックチェーン上の債券発行など企業向けのブロックチェーンプロジェクトにデジタルな手段で資金を提供する際に利用されることになる、とJPモルガンの幹部は述べた。

JPモルガンはまた、自らの銀行間情報ネットワーク(IIN)に344のメンバー銀行を擁している。このネットワークでは、クォーラムを活用して海外のコルレス銀行で情報が流れる際に起きるペインポイントを解消している。

フレーザー氏は、JPMコインとウェルズ・ファーゴ・デジタル・キャッシュの類似性を否定し、「非常に異なるものだと思います」と述べた。

ウェルズ・ファーゴはIINのメンバーではないが、フレーザー氏は相互運用に向けた長期的な計画をほのめかす。

同氏は次の通りに締めくくった。

「将来的には、相互運用可能なネットワークが出てくるでしょう。こうした新興技術は、いったん黎明期を脱すれば、あらゆることが起こり得るのです」

翻訳:山口晶子
編集:T. Minamoto
写真:Wells Fargo image via Shutterstock
原文:Wells Fargo’s Stablecoin ‘Faster, Cheaper’ Than SWIFT, Says Exec