三菱商事、不動産STで3000億円目指す──国内外の個人マネーが日本の不動産に向かう【インタビュー】

三菱商事グループで不動産ファンドを運用するダイヤモンド・リアルティ・マネジメント(DREAM)が、リテール(個人投資家)市場に参入した。ブロックチェーンを活用して不動産のファンドを小口化し、急増する個人の投資ニーズに応える。

年金基金や金融機関などの機関投資家を対象に不動産資産の運用を行うDREAMは、2004年の設立以来初となる個人投資家向けファンドを、デジタル証券(セキュリティ・トークン:ST)を用いて組成した。投資対象となる不動産は、東京と大阪の、大手事業者が賃料保証するマスターリース型の学生用賃貸レジデンスだ。

現在、約9700億円の不動産資産を運用するDREAMは、個人向け不動産STの運用規模を将来的に現在の私募ファンドの運用規模と同程度の3000億円まで増やす意向だ。DREAMでファンド事業本部長を務める小林範康(こばやし のりやす)氏がインタビューで明らかにした。

海外の個人投資家マネーが国内不動産を買う

(ダイヤモンド・リアルティ・マネジメントでファンド事業本部長を務める小林範康氏)

DREAMが個人投資家向けファンドサービスの検討を開始したのは、世界の金融市場に変化の兆しが見え始めた2021年の終わり頃。

ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月から時を待たずして、米国の政策金利は上昇を始めた。株式や債券などの伝統的資産に加えて、機関投資家は不動産などのオルタナティブ(代替)資産をそれぞれの投資ポートフォリオのなかで積み増す動きを強めた。

金融緩和と円安・ドル高が続く日本では、海外の富裕層を中心とした個人投資家の資金で、国内の不動産が買われるケースが増えている。

この流れが続き、「日本の機関投資家の資金だけで運用していると、貴重な投資機会を逃すことも出てくる」と、小林氏は個人投資家向けファンドサービスの開発の経緯を話す。

「日本の個人投資家の資金を扱い始めることで、運用する国内不動産の資金調達機会の拡大につながる」(小林氏)

DREAMが運用する資産残高(AUM)の内訳は2023年12月時点、私募ファンドが約3000億円で、私募REIT(不動産投資信託)が約4000億円。その他が2000億円強。資産クラス別に見ると、物流施設が全体の40%で最も大きく、次いで賃貸住宅の21%。商業施設とオフィスビルが17%と9%で、データセンターとホテルがそれぞれ7%。エリア別では、首都圏が70%で近畿地方が12%。北米を中心とする海外が13%となっている。

国内では一口10万円で購入できる不動産STが登場してきたが、DREAMが協業したデジタル証券は一口100万円。DREAMは当面の間、投資リテラシーが比較的高い富裕層を中心に大手証券会社経由で販売していく計画だ。

「証券会社と話しながら、個人投資家のニーズを探り、我々の本来の強みである物流施設や、三菱商事グループの強みを生かしたアセットなどを扱ったオリジナリティのあるデジタル証券を作っていきたい」(小林氏)

過去6カ月で急変した機関投資家の心理

(DREAMのファンド企画部長、飯嶋達也氏)

「これまでは、安定した賃貸収益を期待できる不動産が国内の機関投資家に好まれてきたが、ここ半年で急激な変化が起きている」と話すのは、DREAMのファンド企画部長、飯嶋達也氏。

「金利が上昇する局面では、賃料固定はリスクヘッジができない。国内の機関投資家も賃料の安定性だけではなく、収益の成長性を重視するように変わってきた。機関投資家と同様に、個人投資家も金利のある世界を意識するようになってきており、その結果、不動産のようなオルタナティブ資産に対する投資ニーズが増加してきている」(飯嶋氏)

日本は1980年代に不動産投資が加熱し、土地の価格が高騰。実体経済とかけ離れた「バブル経済」が起こった。そのバブルが1991年頃に崩壊して以降、「失われた30年」と呼ばれる低成長期が続く。

バブル崩壊後に根づいた不動産投資に対する負のイメージは払拭され、今では資産クラスとして認知されるようになり、個人が不動産市場に参入するハードルは確実に低くなっていると、飯嶋氏は話す。

「金利のある世界に戻ろうしている中、直近では(機関投資家向けには)賃料が変動する商品も増えてきている。個人向けデジタル証券でも、その流れになっていくだろうと思う」(飯嶋氏)

販売額1000億円を超えたデジタル証券

不動産や企業が発行する社債などを裏付け資産とするセキュリティ・トークン(デジタル証券)を巡っては、SBI証券や野村證券、大和証券、三菱UFJ信託銀行などが過去5年間で、発行・流通基盤や商品の研究開発を進めてきた。

セキュリティ・トークンは、2020年5月に施行された改正金融商品取引法で「電子記録移転有価証券表示権利等」と定められ、法的な位置づけが明確化されたことで大手証券会社での取り扱いが始まった。

不動産STの販売額は2022年の400億円弱から2倍以上に増え、翌年には1000億円を突破。大和証券と野村証券が販売額の約7割を占めているが、三井物産が過半数株式を保有する三井物産デジタル・アセットマネジメントも販売規模を伸ばした。

小林氏は「個人と機関投資家では、投資に期待するものが異なる面もある。機関投資家は投資のカテゴリーやリターンの最低ラインが決まっているケースがほとんどであるのに対して、個人投資家の中には、リターンはもちろんだが、特定の物件に対する愛着を大切にする人や、地元の物件であれば買いたいという人が一定数いる」と述べる。「三菱商事は長く子会社を通じて北米の不動産開発事業をやってきた。ゆくゆくは北米の物件をデジタル証券の裏付け資産として検討する価値はある」と話した。

|インタビュー・文:佐藤 茂
|編集:CoinDesk JAPAN編集部
|トップ写真:ダイヤモンド・リアルティ・マネジメント ファンド事業本部長 小林範康氏(右)、同ファンド企画部長 飯嶋達也(左)(撮影:小此木愛里)