SECがイーサリアムを「証券」と分類したらどうなるのか

3月20日、米証券取引委員会(SEC)がイーサリアム(ETH)を証券として再び分類しようとしている可能性が高いことが明らかになった。誰もがこのような報道を信じているわけではなく、SECはこれまでのところ、イーサリアム財団への調査が進行中かどうかについて明確な回答を先延ばしにしている。イーサリアムが証券かどうかについて、明確な判断を先延ばしにしてきたことと同じように。

多くの弁護士が、イーサリアム財団がGithubリポジトリで認めた「任意の調査」は警戒すべきものではないと述べている。暗号資産(仮想通貨)企業に対する召喚は、この業界では日常茶飯事。そして、イーサリアム財団のカナリア(政府からの調査を受けていないことを示す「令状のカナリア」)も最終的に削除された。

Byrne &Storm,P.C.のマネージングパートナーであるプレストン・バーン(Preston Byrne)氏は、「これまで公表されてきた内容から、イーサリアム財団に送られた政府の調査の内容や、財団がその調査対象であるかどうかを知ることは非常に困難だ」と述べた。

バーン氏は、イーサリアム財団が「調査対象である可能性は低い」と続けた。とはいえ、調査が進行中であることを前提にすると、いくつか疑問が残る。例えば、SECはなぜ、イーサリアムの創設者をスタートから10年近くが経過し、ネットワークに数千億ドルもの資金が投入された後に訴えようとするのか、その理由はまだ明らかではない。

調査はイーサリアムのICOとトークン配布、あるいはステーキングモデルへの切り替えに関係しているのだろうか? アメリカの証券規制当局がスイスのツークを拠点とする組織を管轄するのはなぜか? 急成長しているイーサリアム先物市場を監督する商品先物取引委員会(CFTC)は反発してくるだろうか?

暗号資産企業がイーサリアム財団との取引について質問される理由について、バーン氏は2つのもっともらしい理由を提示した。

1つは、イーサリアムを証券と分類することでアメリカの暗号資産取引所にイーサリアムの上場廃止を迫るため。もう1つは、要望の高いイーサリアムETFを否定したい自らの主張を支えるためだ。

どちらの動機にしても、「必ずしもSECが財団に対して執行措置を起こす必要はない」とバーン氏は付け加えた。

しかし、訴訟があるとしよう。(ノーという正当な理由があるにもかかわらず)イーサリアムが証券だと仮定する。一体何が起こるのだろうか?

イーサリアムは時価総額が2番目に大きなブロックチェーン(現在の価格で約4140億ドル)であり、暗号資産業界で最も使用されているツールの基盤だ。証券に分類されれば、混乱が起こる可能性が高い。最終的にどうなるかはまったく予測できない。

脱マージ…

より可能性の低い反応の1つは、ネットワークの安全を確保するためにトークンをロックアップしたユーザーにトークンを報酬として与えるプルーフ・オブ・ステーク(PoS)アルゴリズムに移行したイーサリアムが、ビットコインが先駆けとなったプルーフ・オブ・ワーク(PoW)に戻るというものだ。この可能性は低い。イーサリアム財団内外の開発者たちは、PoS移行に何年も費やしてきた。

ヴィタリック・ブテリン氏がイーサリアムのアイデアを思いついたのは2013年。当時から彼は、イーサリアムブロックチェーンは当時まだ生まれたばかりのコンセンサスモデルだったステーキングモデルに切り替える必要がありそうだと考えていた。

イーサリアムのステーキングに向けた最初の具体的な一歩が踏み出されたのは、ネットワークが実際にローンチしてから5年後の2020年、ビーコン(Beacon)チェーンのローンチによってだった。

開発者らは、ステーキングへの切り替えを実験するために数年にわたって数多くのテストネットを展開してきた。仮に「脱マージ(Merge)」、つまり再びPoWに戻るとしたら、同じくらいの時間がかかるだろう。

スケーリングやステーキングのコスト面での利点以外に、重要なことは、マイニングが意図的にエネルギーを大量に消費するプロセスであり、開発者が別れを告げるのを喜んでいたことだ。「マージ」後、イーサリアムのエネルギー消費量は99%減少したと理論化されており、暗号資産の環境への影響に対する批判を封じ込めた。

「マージのような結果をもたらすものを私は他に想像できない」とEY(アーンスト・アンド・ヤング)のブロックチェーン責任者、ポール・ブローディ(Paul Brody)氏は語っている。

EthereumPoWがパワーアップ

イーサリアムはイーサリアムであり、イーサリアムクラシックはイーサリアムクラシックだ。イーサリアムクラシック(ETC)が実際にはブロックチェーンの「オリジナルの、変更されていない」歴史を維持しているとしても。

しかし、イーサリアムからフォークして生まれたイーサリアムクラシックが主要チェーンになるとしたらどうだろうか? ネットワークがすでに稼働していることを考えれば、これは確かに「脱マージ」よりも簡単な解決策だろう。

確かに、イーサリアムクラシックはユーザーの熱意を打ち砕くような再編成を何度も経験しているが、イーサリアムの愛すべき兄弟を再び主流とすることで、ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長のステーキングに対する明らかな懸念に応えることができるだろう。

イーサリアムの代替ネットワークであるEthereumPoW(ETHW)も、プルーフ・オブ・ワークを維持するためにマージ中に開始されたフォークであり、同じことが言える。

イーサリアム(ETH)もETHWも、SECの調査の可能性のニュースを受けてあまり上昇しておらず、急速な普及は望めないことを示している。しかし、不可能ではない。結局のところ、ブテリン氏はイーサリアムクラシックを「まったく問題のないチェーン」だと認めている。

このアプローチの数多いデメリットの1つは、イーサリアムの創設者たちが、2つのフォーク時のイーサリアム保有状況を反映して、イーサリアムクラシックやETHWも大量に保有している可能性が高いことだ。

SECが、創設者チームとイーサリアム財団に価値あるトークンを配布したイーサリアムのトークン発行を懸念しているかどうかは明らかではない。しかし、SECは過去に、このような配分は投資契約に似ていると述べている。

XRPの勝利?

XRPアーミーはこのような瞬間を何年も待っていた。イーサリアム対ソラナ(Solana)やビットコイン対その他すべてのような明確な対立ではないが、多くのXRPファン=XRPアーミーはイーサリアムを絶対的に軽蔑している。

この歴史は、SECの企業金融部門の元トップであるビル・ヒンマン(Bill Hinman)氏が、ETHは「十分に分散化されている」ため証券ではないと述べたことに起因しているようだ。XRPアーミーは、この介入を暗号資産市場における不当な勝者選びとみなし、あるプロジェクトを特別扱いする一方で、よく似たプロジェクトを貶めるものだと批判した。

何年もの間、リップルラボ(Ripple Labs)CEOのブラッド・ガーリングハウス(Brad Garlinghouse)氏を含むXRPの支持者たちは、イーサリアムは「中国にコントロールされている」、ヴィタリック・ブテリン氏は中国共産党に取り込まれている可能性がある、そしてネットワーク自体が米当局によって勝利するように「選り好み」されていると主張してきた。

もちろん、ブテリン氏もXRPを「sh*tcoin(シットコイン)」と呼び、好意を集めることはなかった。

XRPが有利な点の1つは、ほとんどの暗号資産とは異なり、リップルラボがSECに対して法廷で反撃し、判事からいくつかの譲歩を勝ち取った後、XRPを取り巻く法的な明確さが実際に少しあることだ。

XRP自体は証券ではなく、それを使った取引所での取引は証券取引には当たらず、適格な買い手に対するリップル社のプログラム販売は投資契約だと判事は裁定した。

「どの暗号資産であるかということではなく、販売または販売オファーの特徴によって投資契約となる。イーサリアムは、広告なしで公開の取引所で販売されている。SECはステーキングの報酬だけをターゲットにしているようだが、中心的なプロモーターがいることを示す必要があるだろう」とクリーブランド州立大学のクリスタ・レーザー(Christa Laser)法学教授は語った。

ゲンスラー委員長の評判に再び傷

実際、SECがイーサリアムを追及することで起こりうる結果の1つは、法廷でSECが再び大きな損失を被ることだ。元CFTCコミッショナーのブライアン・クインテンツ(Brian Quintenz)氏が述べたように、SECはアメリカでのイーサリアム先物やイーサリアム先物ETFのローンチを許可し、すでに暗黙のうちに「イーサリアムはコモディティ」と述べている。

さらに、数え切れないほどのアメリカの投資家、企業、個人がイーサリアムは証券ではないというSECの長年にわたるシグナルに基づいて行動してきた。

これに加え、ゲンスラー委員長率いるSECは暗号資産業界との法廷闘争において不公平だったという認識が広がっている。分散型プロトコルと伝統的なビジネスのやり方の違いを実際に考慮した包括的な規制を考案するのではなく、ゲンスラー委員長はアメリカ経済の価値を下げるのではなく、むしろ付加価値を生み出す企業に対して、次々と訴訟を起こしている。

この「法廷闘争」はゲンスラー委員長にとって必ずしもうまくいっているわけではない。つい先日、米連邦判事は暗号資産企業DEBT BOXとの争いで「意図的に虚偽を流布」したとして、SECの「権力の著しい乱用」を指摘した。

これは、ビットコインETFの承認を長年にわたって拒否してきたSECを「恣意的かつ専断的」と指摘した控訴委員会の3人の判事による前例のない糾弾に加えてのことだ。

まとめると、SECが原資産を追及することで、イーサリアムETFを否定する根拠を固めようとしているのなら、十分な大義名分を用意しておかないと痛い目を見るということだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長(Jesse Hamilton/CoinDesk)
|原文:What Happens if the SEC Classifies ETH a Security? (Wrong Answers Only)