ビットコインキャッシュが上昇、ソラナは2位を不動のものに【マネックスクリプトバンク 格付けレポート 4月】

ビットコインの現物ETFへの資金流入が一段落し、価格が大きく下落する局面もあった2024年3月。その後のFOMCのハト派寄りの結果を受けて再び7万ドル台まで戻したが、米国での暗号資産関連業界への取り締まりを当局が強める動きを見せたことから、再び価格は低迷した。4月に入ってからも米国の経済指標や規制環境の影響を受け上値の重い相場が続いている。多くの銘柄が勢いを失う中で、次に来るのはどの銘柄になるのか。早速、4月の格付けを見ていこう。

概観

まず、上位銘柄の動向を確認する。ビットコイン(BTC)は値動きが一旦落ち着き、また取引量のレンジも継続して高まったことから流動性と投機性の両方の評価を上げ、総合得点も+9点の866点となった。2位のポジションを不動のものにしたソラナ(SOL)は、集中リスクの評価が上がり、総合では+8点と得点を積み増した。

一方のイーサリアム(ETH)は投機リスクで評価が上がったものの集中リスクでさらに評価を落とし、総合では+1点のみの上昇に留まった。イーサリアムに関してはステーキングを行うユーザーが増えたことによって特定アドレスへのトークンの集中が続いている。この状況を集中リスクとしてどのように評価するか、今後検討していく必要があると考えている。

上位10銘柄のうち、大きく得点を下げたのがレンダートークン(RNDR)だ。AI関連銘柄として、先月は2月のNVIDIA決算が好感されたことで大きく評価が伸びたものの、一時的なブームとして終わってしまい、投機リスクの評価が著しく下がった。この結果、前回4位から一気に順位を落として17位となってしまった。

一方、その他の前回上位銘柄は順調に順位を上げている。中でもビットコインキャッシュ(BCH)は前回11位から、8位へと三つもランクを上げた。半減期への期待で流動性が大きく上がり、また投機リスクでも評価が高まったことが理由だ。

今回、最も得点を挙げたのはトンコイン(TON)の+150点だ。後ほど詳しく解説するが、先月トンコインを設計したテレグラムの共同創業者パベル・ドゥロフ氏がテレグラムのIPOを検討していると報道があり、その後も立て続けにTONに関連する大きなイベントが起こった。これを受けてTONは緩やかに上昇トレンドに入り、4月2週目に手のひら認証プロジェクトでAI企業との提携が報道されると一気に出来高が増加。それに伴い価格も過去最高値となる7.62ドルをつけた。

先月比で得点を上げた銘柄が30、変化なしが8、得点を下げた銘柄が11、という結果であった。先月投機的な動きを見せた銘柄は総合得点を下げたものの、多くの銘柄は安定的に以前より高い流動性を維持することができているために、全体の得点レンジが上がるという結果になった。大きなニュースがある1カ月ではなかったが、相場が底堅いものとなってきたことを示す良い傾向のように思われる。

(2024年4月10日付マーケットパフォーマンス格付け:マネックスクリプトバンク作成)

流動性リスク

次に項目別に注目すべきポイントを見ていこう。まずは流動性リスクからである。流動性は先月の相場の盛り上がり以降、安定的に推移しており全体的に得点をあげる銘柄が多かった。中でもNEARプロトコル(NEAR)やぺぺコイン(PEPE)は大きく得点が伸びた。NEARはNEARのアカウントさえあれば、ビットコインやイーサリアムなど主要なブロックチェーンでトランザクションに署名を書くことができる「Chain Signature」を先月ローンチし、話題となった。しかし、出来高は少しずつではあるが低下傾向にあり、価格も安定しない。またPEPEに関しても、ミームコインブームが一服してきた中で、PEPEが今後も現状のような流動性を維持できるのかには不安が残る。

一方、数少ない流動性の評価を下げた銘柄にはカルダノ(ADA)が挙げられる。価格は4月に入ってから単調に下落しており、出来高も1カ月前と比べると落ち込んでいる。詐欺プロジェクトの横行への懸念もあって出来高、コア開発者、TVLの三つが全て減少し、4月10日には3%も価格が下落した。過剰評価されすぎていたと市場が判断し、調整局面に入ったようだ。

今月はビットコインの半減期という一大イベントが控えており、この前後でも相場全体の出来高や価格が一定程度動く可能性がある。この動きが来月の格付けを大きく左右するだろう。どの銘柄まで半減期の影響が及ぶのかは、よく注意しておきたいところである。

投機リスク

投機リスクの観点でも多くの銘柄がプラスとなった。特に先述のTONは+330点という驚異的な上昇を見せた。一方、同じく先ほど登場したRNDRは270点マイナスとなり、これが総合評価を大きく下げる主因となった。

そんな中で見ておきたいのはBCHである。3月から4月2週目にかけてじわじわと価格を上げていった。3月末からの出来高急増で多くの買いが入ったことも一因だろう。これはBCHがBTCに先駆けて半減期を迎えたことによるものだ。2021年以来の最高値をつけたBCHだが、半減期後は建玉が減少し、価格も下げている。BTCとBCHのどちらを支持するかは熱狂的なユーザーにとっては非常に重要な問題であり、今回のBCHの半減期ラリーがBTCの半減期での相場に影響を及ぼすのではないかという意見も散見されている。実際、BCHのハッシュレートが下がっており、マイナーがビットコインのマイニングに移っている可能性が指摘されている。BTCの半減期を迎えるにあたって、ハードフォークした歴史を踏まえれば、BCHの状況も把握しておきたいものだ。

集中リスク

集中リスクは今回もほとんどの銘柄で得点に変化はなかった。その中でも大きく得点を下げたのがOKコイン(OKB)とアスター(ASTR)である。OKXでは異常な清算が発生したことで、OKBの価格がクラッシュし、その結果価格が突如50%も下落することとなった。OKX側はこのインシデントで被害を受けたユーザーに補償を行うと発表しているが、この件が集中度合いに一定影響を与えた可能性がある。

また、ASTRにおいてもAstar zkEVMでネットワークの巻き戻しが発生し、一部の資金がロックされるインシデントがあった。これはアスター側の問題ではなく、Astar zkEVMが利用するPolygon CDKのエラーによるものだとされているが、この件でASTRも20%以上価格が下がった。

注目ポイント:Telegramの上場とToncoinの再興

(出所:Messari)

あまりメディアに登場しないテレグラムの共同創業者パベル・ドゥロフ氏が約7年ぶりに応じたインタビューでテレグラムのIPOの検討について語ったのは3月中旬のことであった。それ以降、価格は上昇トレンドに移り、今や7ドル前後と過去最高値をキープしている。特に4月に入ってからの出来高の増加は顕著だ。

これにはTONエコシステムのハブコミュニテイ「TONソサエティ」がAI新興企業のHumanCOdeと提携し、手のひらをスキャンする個人認証プロジェクトに取り組みはじめたことが大きいだろう。このプロジェクトでは5年以内に5億人のテレグラムユーザーにデジタルアイデンティティを提供することを目指している。これは人間の目の虹彩をスキャンするワールドコインの取り組みと非常に類似しており、今後ライバル関係が生まれる可能性も示唆されている。Telegramのアクティブユーザー数は推計9億人であり、5億人という目標はこのうちの50%以上のユーザーが手のひらの情報をテレグラムに預けることを意味する。暗号資産界隈ではよく使われるTelegramだが、ワールドコインと同様にプライバシー保護の問題もあり、果たしてこの高い目標を達成できるのかは未知数だ。

当初はテレグラムが自らICOを行おうとしたが、SECに別の暗号資産で行ったICOが証券法違反であると提訴されてしまい、TONの開発を中止せざるを得なくなった過去がある。そこで勢いを失ったかのように見えたが、TONはここにきて再び盛り上がりを見せている。先月にはスイスを拠点とする資産運用会社でアークインベストメントとともにビットコインの現物ETFも提供している21 SharesがTONで運用するETP(上場取引型金融商品)の提供を開始した。この商品はスイスの証券取引所で上場された時にはすでに4000万ドル相当のTONが運用されていたと報道されており、今後ますます流動性が高まることが期待されている。

OpenAIの隆盛と内紛でともに価格を上下させたワールドコイン同様に、TONも今後、テレグラムの盛り上がりに応じて値段が増して行く可能性がある。周辺プロジェクトもその追い風となるだろう。

総括

レンジを70,000ドル台まで引き上げ安定するかのように見られたBTCだが、このところは買いの勢いを失いつつある。しかし、かつてのような投機感とは少し様相が異なり、米国経済の動向に関連してあくまでオルタナティブアセットとして資金の流出入が生まれている。そんな安定的な発展が見られる暗号資産相場にも、ビットコインの半減期というビッグイベントが近づき、身構える投資家も増えているだろう。短期的なトレンドに流されずに、今後の社会情勢やクリプト業界の動向も追いながら、継続的な暗号資産市場の成長を期待したいと思わせられる今回の格付け結果であった。来月は半減期を終えて相場がどのような状態になっているのか、今から楽しみである。