バイデン政権、暗号資産に対する態度を軟化か

暗号資産(仮想通貨)に対するバイデン政権のスタンスが軟化しているように見える。暗号資産業界に対する数年にわたる「政府一丸」となった猛攻撃にもかかわらず、ここ数週間でいくつかの重要な進展があったため、安心してこう言うことができる。

イーサ現物ETFをめぐる前向きな展開

まず、そしておそらく最も重要なことは、米証券取引委員会(SEC)がイーサ(ETH)現物ETFを実現するための重要な申請を承認したことだ。

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これは、特にSECが最近、大手イーサリアム関連組織を調査していることを考慮すると、当初は成功の見込みはないと考えられていた資産クラスにとっては、大きな運命の逆転だ。

ブルームバーグ・インテリジェンス(Bloomberg Intelligence)は5月21日、イーサ現物ETFがSECに承認される確率を25%とした。ビットコインがETFから恩恵を受けたのと同じように、イーサに機関投資家の資金を呼び込む可能性が高いETFが今年発売される可能性は、今では75%となっている。

議会での動き

第二に、超党派の法案「2023年米国ブロックチェーン展開法(Deploying American Blockchains Act of 2023)」が先週、下院で334対79の大差で可決された。この法案は範囲は小さいが、ジーナ・レモンド商務長官がブロックチェーン業界において「米国の競争力を促進するために必要かつ適切な行動をとる」ことを可能にするものだ。

これは、実際に法律になる可能性が最も高い、暗号資産に特化した最も重要な法案と考えられている「21世紀のための金融イノベーションとテクノロジー法(Financial Innovation and Technology for the 21st Century Act:FIT21)」に対する上院の投票を前にして行われた。CoinDeskのニキレシュ・デ(Nikhilesh De)記者は次のように鋭く指摘している。

「金融委員会と農業委員会の下院民主党指導者たちは、FIT21法案に反対するものの、積極的に反対票を投じることはないと議員たちに伝えた。言い換えれば、彼らは実質的に、自分たちが適切と思うことに投票するよう党員に指示した」

これは最近、下院と上院で物議を醸したSECの「職員会計公報(Staff Accounting Bulletin 121:SAB121)」を撤回する投票と同様だ。SAB121は、暗号資産カストディアンに厳しい自己資本規制を課し、銀行がこの分野に参入する可能性をほぼ封じ込めるもので、暗号資産コミュニティとTradFi(伝統的金融)コミュニティの双方から強く反対されていた。

バイデン大統領がSAB121の撤回に拒否権を発動すると宣言したことで、チャック・シューマー上院院内総務(民主党)やロン・ワイデン財務委員長(民主党)といった著名な民主党議員を含む議会メンバーが、自らの良心に従って投票する道が開けたという説がある。

ここで重要なことは、暗号資産懐疑論者のエリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)のような人物がいるにもかかわらず、まともな超党派の暗号資産規制の制定が可能ということだ。

アンチ暗号資産議員の影響力低下?

そういえば、ウォーレン議員はバイデン政権で影響力を失いつつあるのかもしれない。連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corp:FDIC)のマーティン・グルーエンバーグ委員長は21日、上院銀行委員会のシェロッド・ブラウン委員長が辞任を求めたため、退任すると発表した。

この動きは暗号資産には直接関係しないが、グルーエンバーグ氏はウォーレン議員の腹心として知られており、暗号資産に対する見解がほぼ同じであることは特筆に値する。例えば、グルーエンバーグ氏のリーダーシップのもと、FDICは2023年に3つの中堅銀行を崩壊させた金融危機の際、暗号資産に対して強硬路線をとった。

FDICは、リスク管理の不備と無能な経営陣を主な理由としているが、シグネチャーバンクの「暗号資産業界との関連と暗号資産業界からの預金への依存」も破綻の主な原因と報告書で述べている。

FDICは同年、米国の銀行が直面するリスクに関する年次報告書に暗号資産を正式に追加し、管理下の企業と「強固な監督上の議論」を開始した。

さらに、キャッスル・アイランド・ベンチャーズ(Castle Island Ventures)の共同創業者、ニック・カーター(Nic Carter)氏は、同氏が「オペレーション・チョーク・ポイント2.0」と呼ぶ、暗号資産業界を体系的に機能不全に陥れるための米政府による一連の作戦(この名称は、不愉快な業界から銀行サービスを取り上げようとするオバマ時代の取り組みに倣っている)の主要な「立案者」の一人としてグルーエンバーグ氏を考えている。実際、FTXの破綻後、ホワイトハウスは暗号資産に関連する初のファクトシートを発表し、実質的に取り締まりを要求した。

だが、ここで考慮すべきいくつかの大きな注意点がある。まず第一に、グルーエンバーグ氏は、FDICではセクハラが蔓延しているとのウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によって政治的圧力を受けて辞任した。

グルーエンバーグ氏自身は、ハラスメントで告発されたわけではないが、有害な職場風土を放置していたことは確かで、ブラウン上院議員が彼の更迭を求めたのはそのためだ(ウォーレン議員はこれを「政治的動機」と呼んだ)。

つまり、暗号資産は更迭要求の動機ではなかった。しかし、一部の政治評論家は、グルーエンバーグ氏を取り巻く状況をウォーレン派の影響力衰退の兆しと見ている。

例えば、今年11月の上院議員選挙でウォーレン上院議員に挑戦するジョン・ディートン氏は、ウォーレン議員が「不名誉な操り人形の1人をそのままにしておくために守りを固めた」ことは「恥ずべきこと」だと述べた。

議会はホワイトハウスではないし、ホワイトハウスはSECでもないことを認識するのは重要だ。つまり、バイデン政権が突然ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長や議員たちに、暗号資産に対して手加減するよう指示したと考える根拠はない。だが、これらはすべて個別の出来事とはいえ、暗号資産にとってはポジティブな展開だ。

イーサ現物ETFが承認される可能性については、SECが発行予定者と生産的な会議を行っていなかったため、難色を示していたというのが一般的な見方だ。そして、CoinDeskの政策専門家ジェシー・ハミルトン(Jesse Hamilton )記者が言う通り、「最近、そうした会議がより生産的になったという事実は、必ずしも方針の転換があったことを意味しない」。

しかし、もしこれらの動きの背後に本当に推進力があったとしたらどうだろう? 広範な大転換を説明できるものは何だろうか? そして、なぜ民主党政権は今になって突然、親暗号資産的になったのだろうか?

トランプ前大統領という存在

「この背景には、共和党のリーダーであるドナルド・トランプ前大統領が、自身の戦略の一環として暗号資産派有権者へのアピールを明確に行っている選挙戦の存在がある」とデ記者は指摘。

実際、トランプ前大統領は暗号資産支持層が裕福な政治勢力であることを直感し、取り入っているようだ。トランプ前大統領は、主に自身の資産(いくつかのNFTシリーズを発行し、かなりの量のイーサや他のトークンを保有している)に動機づけられていると主張する少数の皮肉屋もいるが、それは不必要に狭い見方に思える。

トランプ氏と暗号資産支持者たちの団結は完全に理にかなっている。暗号資産は人々の注目を集める。トランプ氏は注目を集めるのが好きだ。暗号資産はまた、ある種の人々を怒らせる。そしてそれは偶然にも、トランプ氏が怒らせることが好きな人々と一致している。

暗号資産擁護者はまた、暗号資産について好意的に語ってくれる強力な人物が好きだ。そして、トランプは称賛するのが好きだ。

メッサーリ(Messari)の創業者ライアン・セルキス(Ryan Selkis)氏のような熱心な暗号資産擁護者たちは、業界が首尾一貫した政治ブロックに組織化される必要があると何年も前から主張してきた。ここ数カ月で、それはより現実味を帯びてきた。

専門家によれば、暗号資産に特化した政治活動委員会(PAC)はワシントンD.C.でかつてないほどの影響力を持ち、選挙に影響を与えるために全米で数千万ドルを費やしているという。

そして、どちらの政党も「非政治的な」暗号資産のストーリーを主張することは考えられるが、「ウォール街を占拠せよ」時代のポピュリズムに根ざしていると同時に、「滑稽なほどにリッチな人たち」と最も頻繁に結びつけられているという業界のやや矛盾した状況は、紛れもなく“トランプ的”であるという考えには確かに一理ある。トランプ氏が暗号資産に賛同するまでにこれほど時間がかかったことに、私はある意味驚いている。

さて、本題に戻ろう。なぜ今なのか? トランプ氏が暗号資産を支持するようになったのは、それがライバルのバイデン大統領に対抗するための争点となるからであるのは明らかだ。

有権者の思い

一般大衆は暗号資産規制の細かな政治的背景には疎いだろうが、登録有権者の中には暗号資産を保有し、暗号資産に対して肯定的な感情を持っている人が驚くほど多い。特に、自称無党派層(重要な「浮動票投票者」)の25%近くが暗号資産を購入した経験があるという。この数字は、特にビットコインETFの発売を受けて、時間の経過とともに増加していくばかりだろう。

一方、バイデン大統領がこの問題を解決するための最も簡単な方法は、自らの暗号資産に対する態度を180度を変えるか、単に大した問題ではないようにしてしまうかのどちらかだ。

この状況は、大多数のアメリカ人がまだ暗号資産と関わりがなかったり、それほど関心がない一方で、規制当局による一連の不手際がこの業界に対する同情に近いものを集めているという事実によってさらに複雑になっている。

最大の不手際は、SECがビットコインETFを承認するかどうかを決断する際の対応であり、控訴裁判所から「恣意的かつ専断的」とまで言われている。

しかし、このような軽率で偏ったスタンスは、バイデン政権の暗号資産への取り組みすべてに通底しているとの見方が強まっている。アメリカ人は暗号資産が適切に規制され安全なものとなることを望み、消費者保護を望んでいる。彼らは、資産が証券であるかどうかについての難解な議論などは望んでいない。

さらに、2022年の業界の大失敗に対する強力な反応は政治的に有利だったが、価格が再び上昇している今、強硬なアプローチは政府資源の浪費であり、行き過ぎと見なされる。暗号資産業界を刺激することは、常に内部からの反発を招くという事実は言うまでもない。

繰り返しになるが、これらはすべて単なる憶測であり、バイデン大統領が方針を転換したという直接的な証拠はない。暗号資産の主要法案がここまで進み、イーサ現物ETFの実現可能性が再び浮上し、トランプ氏が暗号資産有権者の支持を獲得していることは重要だ。

これはバイブス(雰囲気)分析であり、決して証明することはできないが、このような前向きな前進がさらに生まれれば、より強力なものになる可能性がある見解だと考えてほしい。

結局のところ、政治は暗号資産と同様、バイブスがすべてだ。

|翻訳・編集:山口晶子、増田隆幸
|画像:Shutterstock
|原文:The Biden Administration Is Easing Up on Crypto (a Vibes Analysis)