仮想通貨デリバティブ:誤解を招く、その指標

データは役に立つ。複雑なコンセプトを単純化し、分かりやすい数字できる。特に、図形や色を使って、ストーリーを表すグラフに変換できる場合はなおさらだ。

例えば、仮想通貨デリバティブ市場の規模をスポット市場と比較すると次のようになる。

仮想通貨デリバティブがブームになっているというストーリーは、市場の高度化と流動性が進んでいることを示している。

しかし、ベストな意図を持ったデータでさえ、混乱と誤解を招く可能性がある。デリバティブの取引量はほとんどの場合、「想定の」用語で表される。上の表では、同様のものを比較していない。

想定の取引量は、デリバティブ契約がエクスポージャー(リスクに晒される度合い)をもたらす原資産の市場価値を表す。それは契約に対して前払いされた金額を示すものではない。デリバティブが理論上、どの程度の資産に相当するかを示している。

これは原資産と仮想通貨デリバティブ取引を比較した場合の主なアドバンテージの1つ。つまり、投資額よりもはるかに大きな額のエクスポージャーを得ることができる。

しかし、スポット市場の取引量は、原資産に対して実際に支払われた額を示している。

したがって、スポット取引量を想定のデリバティブ取引量と比較する場合は、理論上のエクスポージャーを実際のエクスポージャーと比較することになる。問題点が明確になってきただろうか?

未来の話と現在の話

何が重要なのだろうか? 理論上のエクスポージャーは実際のエクスポージャーを表していないのか?

そう、表していない。

第1に、現在の市場におけるほとんどの仮想通貨先物は現金決済。この取引では、約束された日に指定の価格を支払うが、取引には実際の仮想通貨資産は含まれていない。エクスポージャーは金融上のものであり「現実」のものではない。こうした手段を資産の実際の取引と比較することは誤解を招く。

第2に、現物引き渡し型の契約であっても、ほとんどのトレーダーは満期までそのポジションに固執することはない。オプション保有者にとって、契約を売却する、あるいは行使せずに失効させることは比較的容易。現物引き渡し型の先物保有者ですら、失効前にポジションを相殺して損益を確定させる可能性が高い。

第3に、想定の取引量は二重計上を多く含んでいる。先物トレーダーはポジションのクローズを決めると相殺契約を売買する。トレーダーのポジションはゼロになったが、想定の取引量にはトレーダーの2つ(売りと買い)の契約からの潜在的なエクスポージャーが含まれている。

第4に、デリバティブ取引量をスポット取引量と比較することは、未来を現在と比較することになる。デリバティブは未来に賭ける。一方、スポット市場の状態は現在の価値を表す。異なる時間枠を比較しても意味はない。もちろん、未来は現在よりもはるかに大きい。

そして第5に、想定の取引量は、全体的なリスク・エクスポージャーに対する信頼できる尺度にはならない。想定の取引量はさまざまな満期のデリバティブをひとまとめにした会計構造であり、短期のものはほぼ間違いなく、長期のものよりもリスクははるかに低い。

さらに、統計はしばしば、異なるエクスポージャー特性を持つ、さまざまな種類のデリバティブを含んでいる。先物取引は、将来の時点にビットコインを購入する義務を意味し、エクスポージャーは未来に存在する。一方、オプション取引は、所有者に購入する権利を与えるが義務は与えず、実際のエクスポージャーは前払いに存在する

皮肉な状況

では、解決策は何だろうか?

残念ながら、明確なものはまだない。

この「想定」に関する議論は、仮想通貨市場に特有の問題ではない。商品先物取引委員会(CFTC)の前委員長、クリストファー・ジャンカルロ(Chris Giancarlo)氏は、政策を作る際に想定の取引量に依存することの危険性についてしばしば発言しており、CFTCは他の計算方法を検討し始めている

だが、そのタスクは膨大。細分化された市場では、統一された基準で収集された情報を照合することは困難。これは、資産全体にわたるさまざまなマージンルールによって、さらに困難になる。取引所内ですら難しい。

レバレッジに加えて信用取引の利用が増えている(取引所はイニシャル・マージンのためにお金を貸してくれる)ことも合わせると、実際のエクスポージャーはさらに深く埋もれてしまう。

さらに、信用取引がスポット市場に浸透するにつれ、状況はさらに混乱していく。一部の取引所は投資家にローンでビットコインを購入する機会を提供している。これはビジネスリスクにもかかわらず、ユーザーにとって魅力的な機能であるため、成長する可能性が高い。

これが実際のエクスポージャーとしてカウントされるか、あるいはレバレッジ・エクスポージャーとしてカウントされるかは、取引所のルールに依存する。同時に負債とは実際、何なのかについてのユーザーの哲学的解釈に依存する。

このことは取引量には有益だが、市場の実際の状態をさらに一層、わかりにくくする。規制当局はリスクがどこに蓄積されているのかを理解することに苦労し、インサイトの欠如は誤った政策決定につながりかねない。

皮肉的なことだ。従来の資産よりも高い透明性を約束しているはずなのに。

予測可能な未来とは

この状況は、より詳細な情報共有とレポーティング基準の必要性を浮き彫りにしている。

より詳細で有益なデータが得られれば、規制当局は仮想通貨市場のリスクに安心できるだけでなく、戦略や製品の決定において市場インフラを担う企業を支援できる。市場心理のより有用なバロメーターを提供することさえ可能で、それにより投資戦略を知らせ、より効率的な市場を実現していくことも可能となる。

しかし、より重要なことは、この混乱は我々に、使っているデータに疑問を持ち、それが何を伝えようとしているかを明らかにする必要があることを思い起こさせてくれる。

多くの場合、ストーリーは見た目以上に複雑、そして特に仮想通貨のような新しい市場では、ほとんどの場合、常により興味深い。

翻訳:新井朝子
編集:増田隆幸
写真:Abacus image via Shutterstock
原文:Crypto Derivatives: On Misleading Measurements