日銀「デジタル円の発行計画なし」「リブラと中銀デジタル通貨は異なるが、同じ問題起こし得る」──黒田総裁

日銀の黒田東彦総裁は11月19日、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行について、日本では今も現金流通高が増加しており、中銀デジタル通貨の発行を求められているとは思っていないと指摘、「今の時点で円のデジタル通貨を出すという計画はないが、いつでもそういう必要が出た時に対応できるように調査研究は進めている」などと述べ、あらためて日銀によるデジタル通貨発行に否定的な考えを示した。

参院財政金融委員会の半期報告に関する質疑で、長峯誠委員(自民)の質問に答えた。

巨大なステーブルコインは金融システムの安定に影響を及ぼす可能性

リブラについて問われた黒田総裁は、リブラなどのいわゆるステーブルコインには、コストや決済時間などの課題のあるグローバルなクロスボーダー決済を改善するという面、金融包摂を促進するという可能性もあると評価した。

一方で、「そうした便益は、マネロン、テロファイナンス、サイバーセキュリティ、市場の健全性、データ保護、消費者・投資家保護、税制上のコンプライアンスなど、さまざまな課題・リスクへの適切な対応がなされて初めて実現される」と述べた。

その上で、「スキームについての法的な明確性について議論があるし、その健全なガバナンス、厳格なリスク管理体制の確保が大前提であり、これらの対応が不十分なままステーブルコインを発行することは適切ではない」

「巨大な顧客基盤を持つステーブルコインの普及が仮にグローバルに進んだとすると、金融政策や金融システムの安定にも影響を及ぼす可能性もある」

「主権国家発行のデジタル通貨はリブラのような民間団体の発行の通貨と根本的に違っているので、同じような取り扱いはできないが、同じ問題を引き起こし得る」などとの懸念を示した。

民間のデジタルマネーの利用促進も決済機能の向上につながる

このほか、中国のデジタル人民元に関する日銀の対応や考え方について問われたが、黒田総裁は他国の通貨政策について言及するのは適当ではないといなし、スウェーデン中銀など海外の当局・中央銀行とよく情報交換し、影響を注視していると述べた。

またデジタル法定通貨には、どのような法的な論点があってどのような解釈がありえるかを検討した結果を9月に日本銀行金融研究所から報告書(PDF)として出したと報告した。

さらに、「フィンテック企業、銀行など民間部門が発行するデジタルマネーある。そうした民間マネーの利用を促進していくことで、中銀デジタル通貨がめざす決済機能の向上の実現を達成していくことが重要」と述べ、日銀自らがデジタル通貨を発行するのではなく、民間企業による各種デジタル通貨・マネーの発行・利用を促進していく考えを示した。

文・編集:濱田 優
写真:小西雄志(FIN/SUM会場にて黒田総裁)