「規制先進国」日本のジレンマ──DeFiの可能性とWeb3時代の法制度を議論:BCCC主催「第8回 Collaborative Day」

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)が主催した業界カンファレンス「第8回 BCCC Collaborative Day」が6月12日、都内で開催された。イベントでは、最新の業界動向や今後の展望をテーマに、講演やセッションが行われた。
第1部では、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)代表理事であり、ビットポイントジャパン代表取締役、SBIホールディングス常務執行役員も務める小田玄紀氏による講演のほか、国内のDeFi推進に関するセッションなどが実施された。
DeFi展開、スイスが最適
「Web3時代の金融イノベーション、DeFiで何が変わるか」と題したセッションには、金融機関向けにコンサルティングを提供するエックスウィン代表取締役の荒澤文寛氏と、円連動型ステーブルコイン「JPYC」を手がけるJPYC代表取締役の岡部典孝氏が登壇。両氏は、DeFiとステーブルコインは相互補完的な関係にあり、一方が欠けてもエコシステムは成立しづらいと語った。

また、セッションではBCCCが6月に新設した「DeFi(分散型金融)部会」についても紹介され、荒澤氏が部会長、岡部氏が副部会長にそれぞれ就任したことが発表された。
荒澤氏は日本の規制や文化的背景がイノベーションの阻害要因になっていると指摘。「協調圧力が強く、大胆な挑戦がしにくい。レギュレーションを思い切って刷新する必要がある」と述べた。
海外の動向にも言及し、韓国では李在明(イ・ジェミョン)政権のもとで暗号資産への前向きな動きが見られると紹介。一方、香港は一見すると規制緩和が進んでいるように見えるが、保守的で「中国との関係から投資をためらう声もある」と述べた。
そのうえで、金融に対する理解が深く、DeFiビジネスを展開するうえでの「最も進めやすい国」としてスイスを挙げた。
切っても切れないステーブルコインとDeFi
両氏は、DeFiの普及にはステーブルコインの存在が不可欠であるとの見解で一致。荒澤氏は「ステーブルコインがなければDeFiは成り立たない」とし、DeFiが拡大すればするほど、ステーブルコインの利用も自然と広がっていくと述べた。また、DeFiは「海外からのマネーを日本に呼び込む装置」として機能する可能性を秘めていると強調。「日本経済の活性化や国益にもつながる」と期待を寄せた。
岡部氏は、米国がステーブルコインを「戦略物資」として位置づけている背景について、「米国債を買わせるため」だと解説。米ドル建てのステーブルコインが世界中で流通すれば、発行するサークル社のような米企業が米国債を購入する構造が生まれ、米国の政策的影響力を維持しつつ、米国債の需要を下支えする構図を生み出せると説明した。
さらに、同様の仕組みは日本でも応用可能だとし、日本円建てのステーブルコインが普及すれば、「自動的に日本国債が買われる」構造が生まれ、国債需要の創出とインフレ抑制の両立が実現できると説明。「良いことづくめ」だと語った。
両氏は今後、AIによる資産運用やDeFiとの融合が進むことで、ステーブルコインがその基盤としてさらに重要性を増すとの見通しを示した。
進む法整備、疲弊するプレーヤー
第2部では「我々の業界を取り巻くレギュレーションの現在地」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた。CAICA DIGITAL代表取締役社長の鈴木伸氏、BCCC理事の丸山智浩氏、電通グループの鈴木淳一氏、CoinDesk JAPAN/N.Avenue代表取締役CEOの神本侑季が登壇。BCCC代表理事の平野洋一郎氏がモデレーターを務め、Web3を取り巻く法制度の進展と事業発展に向けた規制の在り方について意見が交わされた。
丸山氏は冒頭、暗号資産(仮想通貨)業界の法整備がこの10年で大きく進んだことを強調。特に資金決済法の改正やステーブルコイン規制の導入など、日本は世界に先駆けた制度整備を進めてきたと評価した。

一方で、かつて暗号資産の円建て取引が世界の半数以上を占めながら、現在は1%程度にまで落ち込んでいる現状を踏まえ、日本の存在感は大きく低下したと指摘。非金融領域のWeb3プロジェクトも期待された市場規模には届いておらず、事業化の難しさが際立っていると述べた。その背景には、「重税」や「金融領域での慎重すぎる対応」などの課題があるという。
CAICA DIGITALの鈴木氏は、自身の暗号資産交換業者の経営経験を踏まえ、厳格すぎる日本の規制がビジネスの進展を阻んでいると指摘。制度の信頼性が高まった一方で、新規参入のハードルやビジネス展開の柔軟性に対する制約は依然として大きいと指摘した。
さらに、制度や技術への理解が不足したまま規制が上乗せされていく現状に対し、プレーヤーが疲弊しているとの懸念を示した。
日本の潜在力と業界の役割
登壇者は現在の課題を認識しつつも、日本がWeb3や暗号資産分野で大きな潜在力を持っている点で意見が一致した。かつて世界取引の7割を誇った実績や消費者保護を重視した規制整備の先進性は日本の強みであり、今後活かしていくべきだとした。

そのうえで、今後は「海外と肩を並べる」だけでなく、それを上回る取り組みが求められるとし、業界が政策提言や制度設計に主体的に関与する重要性が強調された。
Web3の将来像としては、個人情報を持たずに認証を行える仕組みや、個人が学習履歴やデータを活用して収益化できる世界観が共有された。スマートコントラクトや分散型ID(DID)との連携により、中間業者を介さずに個人主体のエコシステムが構築される可能性にも期待が寄せられた。
|文・写真:橋本祐樹