なぜビットコイン・ノードを宇宙空間に置くのか?──時速2万8000キロで地球を周回中

2019年12月5日12:29(米東部標準時)ちょうど、スペースチェーン(SpaceChain)の開発者が作った仮想通貨ウォレットはファルコン9(Falcon 9)ロケットに搭載されて宇宙へと向かった。

ISSに到着したビットコイン・ウォレット

スペースX(SpaceX)による19回目の補給ミッション「CRS-19」のペイロード2600kgのほんの一部分である1kgのノードは、国際宇宙ステーション(ISS)に到着し、ISSで初のアクティブなビットコイン・ノードとなった。

スペースチェーンにとって、今回の打ち上げは強固な分散型ブロックチェーン・インフラを地球のはるか上空で構築するというミッションにおける1歩となった。このウォレットはどの国の管轄下にも置かれず、いかなる物理的なハードウエア・ハッキングも手が届かない場所にある。

スペースチェーンはこのノードを、仮想通貨トランザクションをより安全にするためのまったく新しい方法と考えている。創業3年の同社にとって、今回の打ち上げは3度目で、アメリカからは初の打ち上げとなった。他の2回は中国から打ち上げられた。

このウォレットは、長期的目標の中で小さいが、重要な役割を果たすと同社の共同創業者兼CEOジー・ジャン(Zee Zheng)氏は述べた。ISSに滞在する宇宙飛行士がインストールすれば、ノードはISSのデータフィードを通じて、マルチシグ・トランザクションの安全を確保しながら1年ほど稼働する。

打ち上げの費用と開発費は?

我々は、フロリダの有名なスペースコースト(Space Coast)を見下ろすメキシコ料理店でマルゲリータを飲みながら、ジャン氏を取材した。同社のスタッフの半数以上が打ち上げを見守るためにフロリダに集まった。ジャン氏は興奮していた。

今回の打ち上げは、総勢23人の同社にとって2019年の大半の時間を注ぎ込んだ事業であり、18カ月前に最初に提案して以来、目標としてきた節目だった。

「我々は会社のすべてのリソースを注ぎ込んだ」とジャン氏は語ったが、同社はロケットへの搭載と研究開発にかかった費用の公表は拒否した。同社は、同社顧問のジェフリー・マンバー(Jeffrey Manber)氏がCEOを務めるナノラックス(Nanoracks)を通じて契約を行った。

今回のノードは、スペースチェーンがこれまでに軌道に乗せた2つのノードとは根本的に異なっている。

宇宙でのブロックチェーン利用

「我々にとっては、厄介なことだった。宇宙でテストされた既存のハードウエアは存在しないため、独自のソフトウエアをインストールするためだけでさえ、大きな変更が必要となった」

つまり、スペース・ウォレットを作り上げることと、それをISSでの利用に適したものにすることは完全に別のことだった。スペースチェーンのオープンソース・プロトコルをNASAに検査してもらい、ISS独特のプラグ構造に合わせて改造しなければならなかったとジャン氏は述べた。

この点では、ジェフ・ガルジック(Jeff Garzik)氏がスペースチェーンの最高技術責任者(CTO)であったことは役に立ったとジャン氏は指摘した。

ガルジック氏は、初期のコアなビットコイン開発者の1人であり、ISSにまもなく組み込まれるソフトウエアを開発するスペースチェーンの取り組みを指揮した。同氏はまた、スペースチェーンの創業前から、宇宙でのブロックチェーンの可能性について考えていたとジャン氏は語った。

「ジェフは5年ほど前にビットコイントーク(Bitocointalk)フォーラムに宇宙でのビットコインについて文章を書いた。長い間、彼の夢だった」

過去2回の打ち上げとの違い

今回の打ち上げは、同社初のスペース・プロジェクトとはかなり違っている。最初のプロジェクトでは、クアンタム(Qtum)ノード搭載のラズベリーパイ(Raspberry Pi)を2018年2月に中国のゴビ砂漠から打ち上げた。

2度目の打ち上げも中国からで、少し発展していた。ハードウエアは、スペースチェーンOS上でブロックチェーン分散型アプリを実行し、地上と直接通信できた。

今回の新しいウォレットは、スペースチェーンが過去に打ち上げたものから独立して機能する。過去のノードと通信することはなく、すべてのやり取りは地上へのISSのフィードを通じて送られる。つまり、このデバイスの通信速度は遅く、1つのトランザクション完了には数分ではなく、数時間かかる。

「我々は実は、より遅くしたい」と、このゆっくりとしたペースをバグではなく、特徴とジャン氏は述べた。

「非常に多くの仮想通貨取引所がハッキングされている。わずか2分で、数億ドルもの資産が移動されてしまう。このチャンネルを使うことで、トランザクションを安全にするだけでなく」、不審な行為を途中で検知するチャンスが持てるとジャン氏は説明した。

あえて時間がかかる通信で

これは、さらなる安心のためなら数時間余分に時間がかかることをいとわない大口顧客、つまりカストディアル・サービス、取引所、機関投資家などへのアピール点となり得るとジャン氏は述べた。

今回のノードは、米ビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ(Anheuser Busch)による砂糖が宇宙でどのように溶けるかという研究や、遺伝子操作されたスーパーネズミに微小重力がもたらす影響をテストする実験など、ISSに送られた数多くの実験とともにISSに滞在する。

ノードはほんの数カ月前、欧州宇宙機関(European Space Agancy)から6万ユーロ(約720万円)の補助金を受けたばかりだった。NASAとスペースXによる露出は、ノードをより大きなミッションへと発展させるだろうジャン氏は述べた。

次はインドのロケットを利用

しかしジャン氏は、スペースチェーンはロケットにはこだわらないと強調した。タイミング次第で、いかなる国のいかなる機関とも契約を行うつもりだ。NASAとスペースXは、たまたま12月5日の打ち上げの理想的なパートナーだった、最初の2回の打ち上げには中国のパートナーがそうであったように。この先の打ち上げではそうとは限らない。

「実際、2020年3月には我々はインドのロケットを利用する」と、この先18カ月に予定している2件の打ち上げの1つに触れつつ、ジャン氏は述べた。

10年後には、おそらくスペースチェーンは「互いに交信」する専用の衛星ネットワークを展開し、単独のISSウォレットとは比べ物にならないほどのブロックチェーン・インフラを運用しているだろうとジャン氏は述べた。それまでは、同氏とスペースチェーンは目標に向けて進み続けていく。

「この革命に参加する人は誰でも歓迎する」とジャン氏は語った。

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:CoinDesk
原文:A Bitcoin Wallet Is Orbiting the Earth at 5 Miles Per Second