「10年もしないうちに、すべてのアセットはトークナイズされる」SBI北尾氏が着実、かつ大胆に進める取り組み──第2四半期決算説明会を読み解く

SBIホールディングスは10月31日、2026年3月期第2四半期決算説明会を開催した。第2四半期(上半期)と通期の決算説明会は毎回、代表取締役会長兼社長CEOの北尾吉孝氏が登壇する。今回も約1時間45分にわたって、SBIグループの幅広い事業の推移と今後の施策を語った。

上半期の収益(売上高)は9026億円(前年同期比33.5%増)、税引前利益は2121億円(168.9%増)と過去最高を更新。セグメント別業績でも、ほとんどの事業の収益もしくは税引前利益が過去最高を更新した。

〈プレゼンテーション資料より、以下同〉

SBIは5月に、創業30周年となる2029年3月期を目標とした中期ビジョンを発表、連結税引前利益の目標値として「5000億円」を掲げた。北尾氏は「これはもう達成するだろう。順調に事業を伸ばすことができると考えている」と述べた。

以下、暗号資産事業とWeb3関連の取り組みに焦点を当ててSBIの決算報告会を振り返る。

暗号資産事業

暗号資産事業も収益は330億円(8.9%増)と過去最高を更新した。だが、税引前利益はマイニング子会社「SBI Crypto」の不正流出で約25億円の損失を計上したため、マイナス1億4700万円となった。

SBI Cryptoについて北尾氏は「システムも古く、清算するつもりでいたが、十分に目が届いていなかった」と振り返り、「世界全体のマクロ状況を考えながら、事業のポートフォリオを機動的に修正していく」と続けた。

グループ傘下の暗号資産取引所SBI VC トレードとBITPOINTの合計口座数は179万口座、預り残高は約8800億円となった。

北尾氏は「ステーブルコインの大革命で、相当な顧客が動員できる」と述べた。

デジタルアセットと伝統的金融の融合

創業30年を目標とした中期ビジョンで掲げた目標達成に向けて、SBIは広範な施策を展開している。その基本的な考え方となっているのが、各事業分野の生態系(エコシステム)の融合と、外部とのアライアンスの強化だ。

Web3関連では「トークンエコノミー時代の到来を見据えデジタルアセット生態系と金融生態系の「融合」を推進」が掲げられ、さらに施策として以下の3つが紹介された。

 ① SBIグループは既存の生態系を活用しトークンエコノミーへ迅速に移行
 ② 世界各国でデジタルアセットに関する規制環境の整備が進展
 ③ デジタルエコノミーの到来に向けたSBIグループの戦略

ここでまず注目したいのは、①の項目だ。

SBIが推進する「金融サービス生態系」には、「暗号資産生態系」をはじめ、「資産運用生態系」「PE投資生態系」「地方創生生態系」など複数の生態系(エコシステム)がある中で、①では「SBIグループは〜」と主語が「SBIグループ」になっている。

つまり、暗号資産生態系に限られた話ではなく、資産運用生態系もPE投資生態系も地方創生生態系も含めて、同社が掲げる「金融サービス生態系」のすべて=SBIグループ全体が「トークンエコノミー」に移行する、とされていることだ。

「すべてのアセットはトークナイズドされる」

実際、北尾氏は決算報告会で「10年もしないうちに、すべてのアセットはトークナイズされると考えている」と断言。「“Webにおけるオンラインからブロックチェーンにおけるオンチェーンへ” というキャッチフレーズを掲げている」と述べた。

日本を代表する金融グループで、ここまで明確に「トークン化」を掲げているところは他にないだろう。

「我々はすでに既存の金融サービス事業における生態系を作っている。そこに新たな生態系としてデジタルスペースの生態系を着々と作ってきた。これを無駄にしてはいけない。いかにドッキングさせて、効率的に融合を進めるかがキーだ」

銀行事業では預金トークン、ステーブルコイン関連の事業を、資産運用事業では暗号資産ETF、暗号資産組み入れファンドなどを検討しているという。

「まだ法制度的な部分があるから“検討”になっているが、もう検討は十分できている。GOとなったら、パッといく」と北尾氏は述べた。

なお、暗号資産をめぐる規制については、課税、暗号資産ETF、レバレッジ倍率、海外発行ステーブルコインに対する規制などをあげ、「デジタルアセット分野における日本の国際競争力強化のためにも迅速な規制整備が不可欠」と指摘。一方で、高市首相がこうした問題に精通した片山さつき氏を財務大臣に起用したことへの期待を語った。

「円建て」ステーブルコインも推進

より具体的な戦略としては、③として、以下の4つがあげられた。

 (i) 規制環境を鑑みて、新生信託銀行を中核にクリプトアセット事業を推進
 (ii) SBIグループはドル建と円建の2種のステーブルコインで事業展開を目指す
 (iii) 暗号資産トレジャリー事業への関与を拡大
 (iv) 株式などRWAトークンの取引サービスの提供に向けた準備を加速

(i)と、(ii)に記された「円建てステーブルコイン」は密接に関連している。現在、日本で流通しているステーブルコインは、SBI VCトレードが取り扱うドル建ての「USDC」と、10月27日に発行が始まった円建ての「JPYC」の2つ。

だが、USDCは「海外発行」、JPYCは「資金移動業型」として100万円の移転上限がある。一方、「3メガバンクが共同発行を検討」と伝えられたステーブルコインは「信託型」で移転上限がない。

関連記事:3メガバンク、共同で円建てステーブルコイン発行へ──日経報じる

北尾氏は「100万円の制約を現実的に回避するには信託銀行による発行が不可欠」であり、新生信託銀行を「発行体+カストディアン」としてフルに使うことで、「暗号資産、ステーブルコイン、リアルワールドアセット(RWA)のトークン化をどんどん進めている」と語った。

さらに、SBI VCトレードがすでに取り扱っているUSDC、取り扱いを予定しているリップルのRLUSDという2つの「ドル建て」ステーブルコインに加えて、「円建て」ステーブルコインは三井住友銀行との基本合意に加えて、渡辺創太氏率いるStartale(スターテイル)との取り組みも進めると述べた。

先行するJPYC、3メガバンク共同のステーブルコイン、第4のメガバンクと呼ばれるSBIのステーブルコイン──3つの「円建て」ステーブルコインが国内でシェア争いをする日が来るのだろうか。

その他、米国の事例を追う形で日本でも次々と登場しているデジタル資産トレジャリー(DAT)関連やRWAトークン化関連の取り組みを紹介。RWAトークン化ではStartaleとの合弁会社設立や、USDCを発行する米Circle(サークル)が開発を進める新しいブロックチェーン「Arc」への参加が語られた。

Arcへの参加は「オンチェーンでの金融サービスのユースケースを創出すべく、株式などのアセットをトークン化し、ステーブルコインで取引できる仕組みの構築を目指す」とまとめられているが、SBIは先日、リリースが発表された「「トークン化株式」及び「トークン化法」の共同検討」にも参加している。

関連記事:株式を24時間、1円単位でオンチェーンで売買へ──「大旋風」の株式トークン化に向け、金融事業者が共同検討

今後、大きなトレンドとなるであろう「アセットのトークン化」「RWAトークン化」に対して、早くから可能な限りの手を打っておく──北尾氏とSBIグループの強い意思を感じる。

若年層へのアピール:音楽フェスや花火大会の運営会社を子会社化

暗号資産、Web3とのダイレクトな関わりが述べられたわけではないが、もう1点、印象的だったことがある。「若年層へのアピール」だ。

北尾氏は今年初め、フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスの取締役候補と伝えられ、注目を集めた。その後、3月に開催された「FIN/SUM」の講演で、メディアへの取り組みを明らかにした。

関連記事:「さて、メディアです」フジHD取締役候補と報じられたSBI北尾氏が語ったこと

ここでは詳細は触れないが、SBIは「ネオメディア生態系」の構築を急いでおり、そのカギとなるIP関連の企業との資本業務提携を推進している。アニメ・映画・音楽などを中心とするIPを「グループ顧客基盤1億件の達成に向けた推進剤に」しようとしている。

決算発表会では「地方創生」の文脈で紹介されたが、例えば、日本最大級の音楽フェスティバル「MUSIC CIRCUS」や関西最大級の花火大会「泉州夢花火」を運営するMUSIC CIRCUS社を子会社化。資料には「エンタメコンテンツを通じて自然な形で金融サービスを提供し、SBI経済圏への取り込みを強化」と記されている。

金融スーパーアプリ

また、外部とのアライアンス強化では、SMBC(三井住友銀行)、NTT、KDDIといった国内有力企業との提携をはじめ、「SBIグループの金融機能を一元的に集約し、提携先事業者(パートナー)に対して機能提供する」金融スーパーアプリの構想が明らかにされた。

パートナーが必要とする金融機能を一度に提供可能とする「FPaaS(Financial Platform as a Service)」という新たな金融の形の実現を志向」と資料では説明されている。

三井住友銀行は「Olive(オリーブ)」、三菱UFJ銀行は「エムット」と名付けた総合金融サービスを提供している。SBIは現状、金融スーパーアプリを「オープンアライアンス戦略」の中で、パートナー企業に対して「縁の下の力持ち」的なシステムとして提供するようだが、今後、独自の名前を前面に打ち出していくことはあるのだろうか。

静かに進むトークン化で先行

SBIグループの決算説明会は、毎回(正確には半期ごとに)、その幅広い事業展開と自らエネルギッシュに説明する北尾氏の姿に圧倒される。

この記事では、Web3関連に焦点を当てたが、発表資料は150ページを超える。発表会の模様は、YouTubeで公開されており、プレゼンテーション資料は同社ウェブサイトからダウンロードできる。

中期ビジョンで掲げた連結税引前利益5000億円の目標を今期、かなりの前倒しで達成しそうなほどの勢いを見せるSBIグループ。北尾氏が「10年もしないうちに、すべてのアセットはトークナイズされる」と語った「トークンエコノミー時代」への取り組みを幅広く、着実に、かつ大胆に進めているようだ。

トークン化は、日本では、ステーブルコインやセキュリティ・トークンという新しい金融プロダクトの裏側で、あるいはそれらを支える基盤として静かに広がっている。

2025年も終盤、国内初の円建てステーブルコインの登場で盛り上がりを見せたWeb3領域が2026年はどのような進展を見せるのか。その中心的な動きのひとつにSBIグループがあることは間違いないだろう。

|文:増田隆幸
|トップ画像:8月に開催された「WebX Fintech EXPO」で基調講演を行う北尾吉孝氏(CoinDesk JAPAN編集部)

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