世界経済フォーラム、ブロックチェーン活用ガイドを発表──コロナで露呈したサプライチェーン危機

新型コロナウイルスが世界的に流行し、経済活動が滞る中、多くのモノを流通させるサプライチェーンは、その構造的な問題を露呈させた。世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)は、その解決の一手としてブロックチェーンの活用を提案。5月5日に発表したブロックチェーン導入ツールキットでは、「再始動へのロードマップ」として、その内容を明らかにした。

244ページの導入ガイド

世界の消費者需要を落ち込ませ、既存のサプライチェーンの欠陥を露呈させた新型コロナウイルスによる経済的なストレス。この問題に対して、ダボス会議で知られる世界経済フォーラムは、分散型台帳技術を使った回復力のあるサプライチェーンを築くためのガイドブックとして、「Redesigning Trust: Blockchain Deployment Toolkit」を発表。

244ページに及ぶこのレポートには、税金問題、データプライバシー、コンソーシアムづくり、エコシステムとガバナンス、パブリックチェーンとプライベートチェーン、サイバーセキュリティ、相互運用性、デジタル・アイデンティティなどの懸念事項についてチェックリスト、解説、リスク評価が含まれている。

ツールキットは、ブロックチェーンがある特定のシナリオに適しているかどうかを決定するための指針というよりも、そのシナリオの中で分散型台帳技術を効果的に導入するためのガイドブックになっている。

例えばあるセクションでは、ゼロ知識証明、準同型暗号、ロールベースアクセス制御、オフチェーンハッシュ設定が欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)を回避する方法を提供する可能性について検討している。GDPRがもたらすデータ消去の権利は、ブロックチェーンの分散化された変更不可能な性質と対立しているように思える。

ツールキットは、ブロックチェーンを今回の公衆衛生の危機から生まれている企業や政府にとっての自然な技術的進化と位置づけている。

「新型コロナウイルスの感染拡大がより回復力のあるグローバルサプライチェーン、信頼性の高いデータ、取引のデジタル化を通じて可能となる経済回復の必要性を浮き彫りにするなか、ブロックチェーンの必要性はより強くなっている」とレポートの著者らは記した。

ブロックチェーンと新型コロナウイルス

ツールキット開発は、新型コロナウイルスによる危機の1年以上前から進められてきたが、発表はウイルスを考慮して前倒しされたとWEFのブロックチェーン・デジタル通貨責任者で、ツールキットの主要著者の1人、ナディア・ヒューイット(Nadia Hewett)氏は述べた。公衆衛生と経済に対する時代的ショックのなか、よりタイムリーなものになっているだろう。

最初に中国を封鎖させたウイルスは、世界中の広範囲で同じような事態を引き起こした。政府が誤った選択──企業活動を停止させるか、壊滅的な感染率というリスクを取るか──に直面し、最終的には公衆衛生に取り組んだことで経済は混乱に陥った。この選択はFRB(連邦準備制度理事会)の研究者さえも経済的に自明のことと呼んだ。

その結果、新型コロナウイルスはまだ国際貿易の形態を変え続けており、その長期的影響は数カ月、あるいはそれ以上先にならなければ完全にはわからない。

各国の経済の低迷によって凍結されてしまったサプライチェーンとともに、サプライチェーン全体の回復力の問題もあり、WEFはブロックチェーンによって修復できると主張している。

ブロックチェーンは「特効薬ではない」とヒューイット氏は述べた。

「すべてを解決するわけではない。だが伝染病の流行や感染拡大において典型的な問題の解決に役立つ特徴を間違いなく持っている」

ブロックチェーンは医療品の来歴に関する問題を解決することに役立つとヒューイット氏は述べた。詐欺師たちは病院さえ騙して緊急資金を価値のない偽マスクに使わせている。これはブロックチェーンのピアツーピアでの変更不可能性が解決できる問題と同氏は指摘した。

より大規模には、パンデミックはあらゆる規模の企業に技術的に依存しているネットワークを再検討させ、過去の危機の際に開発を始めたものの引き金となった事態が収束するにつれて立ち消えになった改善を「前進」させる可能性があるとヒューイット氏は述べた。

「今回、我々はこの動きを捉えて、我々のソリューションに日常的な要素のみならず、混乱時に役に立つものも織り込もうとする大きな気運を目の当たりにしている」とヒューイット氏は述べた。

「ポスト新型コロナウイルスの未来に向け、相互運用性、全体性、包括性を推進するやり方で取り組み、結果を形にして行こう」

官民連携

WEFは、このガイドが有用なアドバイスを確実に提供できるようにするために民間企業、政府組織の双方と連携した。

「エンドツーエンドの導入ガイダンスとして、あるいはあなたとあなたのチームにとって関心のある特定のトピックを選ぶこともできる」

ヒューイット氏はまた、この新しい技術への取り組みにおける一部の規制当局の遅れを指摘した。

「これらの技術は信じられないくらい早く進行している。伝統的な規制方法と待ちの姿勢は機能しない」

ガイドブックは、これまでにサプライチェーンのためのブロックチェーンの問題に直面した80の企業、40のユースケース、そして20の政府の体験をまとめることで、そうした規制当局の取り組みに「機敏さ」を注入しようとしている。

官民のコラボレーションが重要で、ツールキットは「技術者やビジネスリーダーにとって必ずしも明白ではないトピックスをカバー」しており、他の人たちの失敗から学んだガイダンスを提供しているとヒューイット氏は述べた。

同氏によると、ブロックチェーン導入が税務上の影響を引き起こすことをあるスタートアップ企業がかなり後の段階で気付いたことによって、今回のガイドに税務上の検討事項についてのセクションが含まれることになった。

「ツールキットは最低限、組織に対してこうした質問を問い、確実に検討させる」

ブロックチェーン導入経験はガイドにまとめられ、中小企業が宣伝用のストーリーに惑わされることなく、かつてはコストの高い提案だったブロックチェーン導入のハウツーを手に入れることに役立つとヒューイット氏は語った。

「我々はこのツールキットを、有利なポジションを交渉で勝ち取るための情報を持たない人たちに渡すことができる。我々はこのツールキットがそうした中小企業に力を取り戻させることを心から望んでいる」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸
写真:Rumir / Shutterstock
原文:World Economic Forum Shares Roadmap for Deploying Blockchains in Real World