デジタル広告の仕組みを変えるブロックチェーン──急ピッチで進める開発現場

デジタル広告にまつわるジョークを紹介しよう──ウェブサイトに広告を掲載するのに、いったい何社の企業が必要か?

ウェブサイト広告の掲載では、不透明なプロセスに参加する仲介業者は1つの取引で15社にのぼり、広告費の約3割を取っている。この非効率的で非合理的なシステムを修復するために、アドテク専門家たちはブロックチェーン技術に期待している。

8月20日に発表された「マッドネットワーク(MadNetwork)」は、イーサリアムブロックチェーン上で運用されるパーミッションド(許可型)レイヤーで、イーサリアムブロックチェーンを変更不可能な記録システムとして使用する。来月にはテストネットが運用される予定だ。

アドテクプロバイダーのマッドハイブ(MadHive)と広告業界のコンソーシアムのアドレジャー(AdLedger)は以前、イーサリアムブロックチェーンを使って、データ共有と会計を包括するシステムの開発に取り組んでいた。だがこの数年で規模拡大のためにはレイヤー2技術によるアプローチが必要と判断した。

レイヤー2技術:取引をオフチェーン(ブロックチェーンの外)で行うことで、高速化や容量拡大を目指す技術。取引の結果のみをブロックチェーン(レイヤー1)に戻して記録する。

ブロックチェーンは手作業や紙ベースのプロセスを自動化するために使われることが多いが、広告の場合、問題は自動化システムそのものだ。

急速に発展したプログラマティック広告の世界は、手数料と矛盾だらけのブラックボックスにつながっている。

プログラマティック広告:ウェブ広告の広告枠をリアルタイムで自動的に買い付け、配信するプロセスのこと。広告にふさわしくないメディアに掲載されることによるブランド毀損、広告表示の不正(アドフラウド)などが問題となっている。

「プログラムの掃き溜め」

特に伝統的なテレビ放送が接続されたデバイスの世界、つまりインターネットへと移行していくなかで、ブロックチェーンの透明性がプログラマティック広告の難題を解決する時が来ていると、マッドネットワークのプロジェクトリーダー、アダム・ヘルフゴット(Adam Helfgott)氏は述べた。

「NBCやFoxは、プログラムの掃き溜めのようなものを使って収益の30%を失う余裕はない。こうしたレガシーメディアは非常にクリーンな取引を行ってきており、中間に必ずしもこのようなブラックボックス的なものがあるわけではない」

マッドハイブが参加しているアドレジャー・ブロックチェーンコンソーシアムには、バイアコム(Viacom)、ピュブリシス・メディア(Publicis Media)、ハースト・テレビジョン(Hearst Television)、IPGメディアブランズ(IPG Mediabrands)、ハーシー(Hershey)、IBMといった大手企業が参加している。

2018年にはアドレジャーはIBMとパイロットプロジェクトを行い、IBMが推進するブロックチェーンであるハイパーレジャーファブリック(Hyperledger Fabric)を使ったシステムに広告予算の一部を投じた。

マッドネットワークは、ウェブ広告の仲介システムの機能を明確にするだけでなく、来るべきデータプライバシー規制の時代に、プログラマティック広告にかかわるサプライチェーンに情報を提供する機能も併せ持つと、マッドネットワークのビジネス戦略アドバイザーで、アドレジャーのエグゼクティブディレクター、クリスティーナ・カチアプオティ(Christiana Cacciapuoti)氏は述べた。

「どのデータが、どのプレイヤーに、どの消費者から送られているかについての情報、そして顧客から同意を得て、共有する方法についての需要が高まっている。ブロックチェーンベースの会計システムがお金のやり取りとビジネスの成果を追跡できることと同じように、データの移動を追跡し、プライバシー面に配慮することもできる」

真実とのタッチポイント

マッドネットワークはイーサリアムブロックチェーンを「真実とのタッチポイント」として使用するとヘルフゴット氏は述べ、マッドネットワークをコンセンシス(ConsenSys)のジョン・ウォルパート(John Wolpert)氏とEY(アーンスト・アンド・ヤング)のポール・ブロディ(Paul Brody)氏が構築したベースラインプロトコル(Baseline Protocol)になぞらえた。

ノードの展開はマッドハイブのパートナーで「ノード・サービス」プロバイダーのブロックデーモン(Blockdaemon)が担当すると、同氏は話す。

ロードマップについては「9月1日頃にテストネットを公開し、第4四半期にメインネットの立ち上げを考えている」とカチアプオティ氏は言う。

ヘルフゴット氏は、そう遠くない将来、ほとんどの人がIP配信された動画をテレビで見るようになることだろうと述べる。

「マッドハイブやマッドネットワークのような会社が参入しなければ、Googleがある意味所有している既存のモバイルメディア・インフラを使い続けることは避けられない。アドテクはグーグルが構築したインターネットにお金を払っていたが、今はブロックチェーンを大規模に構築するためにお金を払っているようなものだ」

翻訳:下和田 里咲
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:Max van den Oetelaar/Unsplash
原文:Ethereum-Based MadNetwork Aims to Clean Up Advertising’s ‘Programmatic Cesspool’