スイスのデジタル通貨開発──“クリプトバレー”の強みを生かしたスイスフランのDX

スイスのデジタル通貨開発──“クリプトバレー”の強みを生かしたスイスフランのDX

多くの国の政府や企業がデジタル通貨の調査・開発を進めるなか、金融大国の一つであるスイスはユニークな手法を用いて次世代のデジタル通貨を作り出そうしている。

その開発手法で注目すべきの一つは、コラボレーション(連携)を重要視しているところだろう。スイスフランに連動するデジタル通貨を研究においても、中立国スイスの相互連携が見られる。

スイスの金融市場監督局(FINMA)から銀行免許を取得して、デジタル資産に特化したB2B銀行のセバ(SEBA)銀行とシグナム(Sygnum)銀行は、スイスの暗号資産(仮想通貨)コングロマリットのビットコイン・スイス(Bitocoin Suisse)と同様に、ステーブルコインの研究に取り組んでいる。

クリプトバレーのエコシステム

スイスクリプトバレーを中心にコラボレーションが生まれている。皆が協力し、ほぼ同じような定義のもと、完全に相互運用することができるスイスフラン・ステーブルコインを開発しようとしている」とセバ銀行のマシュー・アレクサンダー氏は述べる。

スイスクリプトバレー:ブロックチェーンや暗号技術を活用する海外企業やスタートアップを誘致して、チューリッヒの南に位置するツーク市を中心に形成されたエコシステム。クリプトバレー協会(CVA=Crypto Valley Association)も設立されている。

「最終目標は、消費者、中央銀行、企業のすべてのプレイヤーが利用できるものを作り出すこと」(アレクサンダー氏)

テザー(USDT)やUSDコイン(USDC)などの米ドルに連動する複数のステーブルコインはそれぞれが競争環境にあるが、スイスはステーブルコイン間の競争を回避することにメリットも見出している。

スイスフランのステーブルコイン

シグナム銀行は、通信大手スイスコム(Swisscom)と提携し、銀行が発行するステーブルコイン「シグナム・デジタル・スイス・フラン(DCHF)」を使ったものとしては、世界初のeコマース取引を行ったと発表した。

「我々は、エコシステム内の他の関係者と全面的に協議を行っている」とシグナム銀行のマーティン・バーガー氏は話す。

「顧客にとって、これはブロックチェーンを通じて資産を移動させる新しい方法であり、ある程度のディスラプション(創造的破壊)が必要となる。そしてディスラプションは、ある局面では競争するだけではなく、連携した方がより簡単になる。おそらく、複数の目的に応じた、複数のステーブルコインが登場すると考えているが、スイスフランのステーブルコインが200も必要ないことには同意する」(バーガー氏)

ビットコイン・スイスは、国際的なアンチマネーロンダリング(AML)規格を調整する取り組みであるOpenVASPを運営した経験があり、暗号資産における相互運用性をよく理解している。子会社のスイス・クリプト・トークンズ(Swiss Crypto Tokens AG)は、スイスフラン連動型ステーブルコインのクリプトフラン(XCHF)を発表した3社のうちの1社だ。

「スイスの暗号資産業界では、パートナーや他のステーブルコイン発行者と頻繁に議論を行い、クリプトフラン(XCHF)にとって、どんな連携や新しいユースケースが合理的か、そして暗号資産全般の普及をどのように進めることができるかを探っている」とスイス・クリプト・トークンズのアーミン・シュミットCEOは言う。

3社はすべて、スイス国立銀行(SNB)の支持を得ている。スイスでのステーブルコインの成長についてコメントを求められたSNBの広報担当者は、トーマス・ジョーダン総裁の講演に触れた。

「我々は、暗号資産と暗号資産ベースのトークンは大幅に変動するため、決済手段、価値の保存手段、勘定単位としては限られた用途しかないと考えている。しかし、ステーブルコインに関しては状況は異なるかもしれない」とジョーダン総裁は昨年9月に発言した。

4文字のステーブルコインは使えない?

仕組みの面では、ステーブルコインの相互運用性には2つのレベルがあるとセバ銀行のアレクサンダー氏は述べた。1つは比較的わかりやすい技術設計であり、もう1つは法的・規制的な問題だ。

ステーブルコインは、通常はイーサリアムブロックチェーンのERC-20規格に基づいて開発され、PwCやグラント・ソーントン(Grant Thornton)といった企業によって規制・監査を受けることが多い。

「能力を証明したものが、ネットワークへの参加を許される。連携の欠如は規格の乱立と標準争いをもたらすことになり、効率的ではない」とセバ銀行のパトリック・サルム氏は述べた。

標準化された共通言語は重要だ。例えば、テザー(USDT)やUSDコイン(USDC)のようなステーブルコインを銀行システムの中核部分に導入しようとする試みは、単にそうしたシステムが4文字の通貨単位(USDTやUSDC)に対応していないという理由でうまくいかないだろうと、サルム氏は指摘した。通貨は、ISO(国際標準化機構)の定義によると、3文字で表されることになっている。

「4文字のステーブルコインを決済通貨として使うという話だけをしているわけではない。(中略)銀行業務の本当に根深い部分に関わる問題です」

デジタルユーロ

当然、相互運用性はユーロ版ステーブルコイン、いわゆるデジタルユーロについて考える際の中心的課題にもなると、セバ銀行のアレクサンダー氏は述べた。

「我々は真に相互運用可能なものの設計をサポートしようとしている。もしもヨーロッパの多くの国がユーロに対して独自の定義を行っていたら、国境に到達し、電子ウォレットの中の通貨を交換しなければならない時点で、EUというアイデアは破壊される。定義は一つ、運用手段も一つでなければならない。そうでなければ、ヨーロッパで統合された銀行システムを持つ意味はどこにあるのか?」

翻訳:山口晶子
編集:増田隆幸、佐藤茂
写真:スイスフラン(Claudio Schwarz | @purzlbaum/Unsplash)
原文:The Crypto Firms Collaborating on a Swiss Franc Stablecoin

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