平成の仮想通貨史㊥ビットコイン2.0競争を勝ち抜いたイーサリアム

平成21年(2009年)に生まれたビットコインは、平成22年(2010年)5月に、初めて商品購入に使用された。ピザ2枚の25ドルと10000ビットコインとが代理人を介して交換されたのだ。1BTCは0.25円ほどで取引されたことになる。平成が終わろうとしている今、1BTC価格はおよそ60万円にまで上がっている。およそ240万倍だ。ビットコインの値上がりの裏には、ハッキング事件を含めた認知度の拡大があった──。

平成の仮想通貨史㊤20年の試行錯誤経て産声あげたビットコイン

NHKが特集、メジャー化の階段を上る

初期のビットコインには、深刻なバグの歴史がある。平成22年(2010年)8月には、コードのバグを突いて1840億BTCが偽造された。平成25年(2013年)3月には、ビットコインの新バージョンにバグがあり、予期しない形でチェーンが分岐した。どちらも開発コミュニティーや大口マイナーの対応で、バグを修正しチェーンを再編成した。

とくに平成25年のバグでは、チェーンを再編成することによる不利益を、大口マイナー「エリュースリア」が容認したことが特筆される。短期的な自らの損失を考慮しても、「正しい」チェーンを掘りすすめることが、将来的な利益につながるという判断だった。

分散型で管理者のいないビットコインは、ソブリンリスク(国家の信用危機)に対して退避先のとしての性格も持った。第三者の許可をとる必要はなく、金塊と違ってかさばらない。国外への持ち出しがしやすい資産だ。初期の代表的な例は、平成25年(2013年)3月のキプロス危機である。銀行預金への課税や海外送金規制などが報道されると、ビットコインへの資本退避が起きた。

ビットコインの世界的な認知は、ますます広がった。平成23年(2011年)にはビットコインがTIME誌に特集され、NHKも平成25年(2013年)末に特集を組んでいる。認知とともにビットコイン価格は上がっていった。

CoinMarketCapから筆者作成

一方で、平成25年(2013年)の終わりから平成26年(2014年)の始まりにかけて、ビットコインは試練にさらされた。中国政府が金融機関によるビットコイン取引を禁止すると発表し、相場は急落した。平成26年には当時世界最大手の仮想通貨取引所であるMt.Gox(マウントゴックス)が、ビットコインの流出事件を引き起こした。相場は長期の低迷期に入った。しかし低迷期にこそ、イノベーションが生まれるものである。

汎用性もたらしたイーサリアム

ビットコインが生まれて6年、ブロックチェーン技術をさまざまな用途で使うために、ビットコイン2.0と呼ばれる仮想通貨が生まれてきた。そのほとんどは、値動きのなかで時価総額が落ちていったが、ある通貨は平成の最後でも時価総額2位を保っている。

ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)が創始したイーサリアムだ。「週に30時間以上をビットコイン関連のプロジェクトに費やしていることに気づいた」と述べる彼は、大学をやめて、ピーター・ティールのフェローシップとして世界のビットコイン・プロジェクトを見て回った。そのなかで彼は、平成25年(2013年)にイーサリアムのコンセプトを生みだし、次の年にICOを行い、平成27年(2015年)7月にメインネットを開始した。

イーサリアムは、スマートコントラクトと呼ばれる永続的なスクリプトを実行可能な、チューリング完全のVM(仮想マシン)を備えたプラットフォームである。Dapp(分散型アプリケーション)を作ったり、トークンを発行したりすることが容易な設計だ。デジタルID証明やDeFi(分散型金融)をはじめとする汎用的な用途が想定されている。

ブロックチェーン技術への関心

ビットコインの認知度が上がるとともに、基盤となるブロックチェーン技術が広く注目を浴びるようになった。平成27年(2015年)にリナックス財団(Linux Foundation)が創始したハイパーレッジャー(Hyperledger)には、オープンソースの商用ブロックチェーンとして、さまざまな企業が参加している。たとえばIBMは、Hyperledger fabricを主導している。

ビットコインやイーサリアムは、ノードを立てたり使用したりするのに許可を必要としないパブリックブロックチェーンだが、 企業向けとしては使いにくい。一方でハイパーレッジャーは、許可制のブロックチェーンであり、仮想通貨を必要としない設計だ。企業同士のコンソーシアムでの利用などが考えられ、管理コストの低下やデータ共有によるシナジー効果が期待されている。

ビットコインが生まれてから平成28年(2016年)ごろまでは、仮想通貨・ブロックチェーンへの関心が高まり、その応用が模索されてきた時代と言えるだろう。

<下>に続く

文:小西雄志
編集:浦上早苗
写真:Shutterstock