【イベントレポート】スイスはなぜ「クリプト国家」を目指すのか?──キーパーソンが語る「金融業を根本から変える方法」【btokyo ONLINE 2021】

約3,000人が参加した国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「btokyo ONLINE 2021」(主催:N.Avenue、メディアパートナー:coindesk JAPAN)が2021年3月1・2日の2日間で開催。

1日目の「スイスが目指す『クリプト国家』の全貌──『金融』から『物流・セキュリティ』まで産業全体に広がるブロックチェーン活用」に、スイス財務省 連邦財務省国際金融問題局のニノ・ランデラー氏、クリプトバレー協会 事業開発責任者のシェラズ・アハメド氏、スイス証券取引所(SIX)ゼネラルカウンシルのネイサン・カイザー氏、セバ銀行CEOのギド・ビューラ氏が登壇した。スタジオ解説は、在日スイス大使館スイス・ビジネス・ハブ投資促進部 部長の松田俊宏氏が務めた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第一弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

「分散型台帳技術は明らかに高い潜在性を秘めた技術」

最初に登壇したのは、スイス財務省 連邦財務省国際金融問題局のニノ・ランデラー氏だ。ニノ氏は、スイスにおける「分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)」関連の立法をテーマにプレゼンテーションを行った。

まずスイスにおける金融市場政策について「イノベーション」「相互連結性」「持続可能性」の3つが戦略上で重要であると指摘。「DLT・ブロックチェーン関連の法律は、好ましい枠組みを構築することでイノベーションを可能にする重要な例」と述べた。

またスイスでは分散型台帳技術に関する単一の法律はなく、既存の法的枠組みに対して調整がされており、その代表的な例として「証券法」「倒産法」などについて解説した。ニノ氏は「分散型台帳技術は明らかに高い潜在性を秘めた技術」と語り、「DLT領域の規制の動きは、いかにスイスがリスクや悪用を注意しながらも、新技術に好意的で新しいビジネスモデルを可能にするかの代表例だ」と話した。

スイスはブロックチェーン・スタートアップにとって最良な場所の一つ

次に登壇したのは、クリプトバレー協会 事業開発責任者のシェラズ・アハメド氏だ。クリプトバレー協会は、ブロックチェーンや暗号技術を活用する海外の企業やスタートアップを誘致してエコシステムを築く組織であり、クリプトバレーはチューリッヒの南に位置するツーク市を中心とする地域を指す。

シェラズ氏は、クリプトバレーにはブロックチェーン・暗号資産関連のスタートアップが439社あると調査結果を報告。続けて、2013年から始まった同協会の成り立ちを紹介し、現在では会員が7,100名、企業会員が150を超える規模になったと述べた。またスタートアップがスイスに集まる理由について、「安定した環境」「堅牢な法整備」「低税率」「企業に優しい規制」という4つを挙げた。

シェラズ氏は「クリプトバレーであるツークは、シリコンバレーのように益々成長している。資金調達や強力な事業関係を求める新規参入者を念頭に置けば依然伸びしろがあり、安全で進歩的で革新的な環境により、間違いなくブロックチェーン・スタートアップにとって最良な場所の一つ」「ビジネス拠点としてのスイスの利点を支えるインフラと優秀な人材は、税制に加え、透明性ある法制度のお陰だ」と語り、スイスの魅力をアピールした。

金融業を根本から変える方法

続けて登壇したのは、スイス証券取引所ゼネラルカウンシルのネイサン・カイザー氏だ。スイス証券取引所は同社子会社のSIXデジタル・イクスチェンジ(Six Digital Exchange=SDX)の設立で業界からの注目を集めており、デジタル化された証券を対象にした分散型台帳型・証券保管振替(CSD=Central Securities Depository)プラットフォームを開発する。

SDXでゼネラルカウンセル(法務責任者)を務めるネイサン氏は、最初に分散型台帳技術を金融業を根本から変える方法だと述べ、会社として金融業全体を前進させることの一助になりたいと決意を表明した。

また2021年2月1日にスイス連邦議会が一部のDLT法制の発効に動いたことについて、ネイサン氏は「このDLT法が、スイス内外で暗号資産を扱うに際し規制の下での大いなる可能性を指し示してくれた」「(DLT法に関連する)商品について大変に思考を巡らせており、(SDXは)商品や市場機会を模索する専門部隊を擁している」と語り、すでに新たな市場形成に向けて準備が進んでいることを明らかにした。

ブロックチェーンは流動性、市場規模、透明性を提供する

最後に登壇したのは、セバ銀行CEOのギド・ビューラ氏だ。セバ銀行は、暗号資産と既存の金融業である銀行が合わさった事業を展開しており、世界の金融機関から注目を集めている。ギド氏は、最初に同社の設立の経緯を説明し、「ブロックチェーンには金融を再定義できる特性があるという認識の元、SEBA銀行はそれを起点に動いている」と事業の方向性について述べた。

またセバ銀行が提供する「デジタルバンキング・サービス」「デジタルコーポレート・ファイナンス」「デジタルインベストメント・ソリューション」「トレーディング&クレジット・ソリューション」の4つの領域について解説。暗号資産においては、「まだまだ啓蒙の必要がある」としつつも、「機関投資家に対して規制に沿ったリサーチの部隊を抱えている」と同領域の本格化を見すえたビジネス展開を語った。

さらに後半では、セバ銀行が取り扱う資産を「現物及び金融商品」「支払い手段」「無形資産」に分類し、金融機関としてのそれぞれのビジネスの方向性について考えを明らかにし、「資産の世界において大部分は流動化されていなかった。そこで、ブロックチェーンの持つ力がこうした非流動的な市場に大いなる流動性、市場規模、透明性を提供する」と述べてプレゼンテーションを締めくくった。

「ブロックチェーン技術はスイス人の気質に合っている」

スタジオでは、在日スイス大使館スイス・ビジネス・ハブ投資促進部 部長の松田俊宏氏が登壇し、各プレゼンテーションについてコメントした。冒頭では、国家としてのスイスの概要を解説。

松田氏は「スイスは国の成り立ち自体がディセントラライズ(分散的)であり、ブロックチェーン技術はスイス人の気質に合っているのではないか」と背景について言及し、ブロックチェーン企業がスイスを選ぶ理由など自身の経験を交えて語った。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第一弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

|文・編集:久保田 大海
|画像:N.Avenue