【イベントレポート】デジタル通貨はビジネスをどう変えるのか?──慶大・安宅教授、ソラミツ代表らが議論【btokyo ONLINE 2021】

約3,000人が参加した国内最大級のブロックチェーンカンファレンス「btokyo ONLINE 2021」(主催:N.Avenue、メディアパートナー:coindesk JAPAN)が2021年3月1・2日の2日間で開催。

2日目の「何のためのデジタル通貨か?──『CBDC』から『プログラマブルマネー』まで」に、慶應義塾大学 環境情報学部教授でヤフー株式会社CSOの安宅和人氏、ソラミツ株式会社 代表取締役社長の宮沢和正氏、株式会社ARIGATOBANK代表取締役CEOの白石陽介氏が登壇。モデレーターはジャーナリスト・キャスターの堀潤氏がが務めた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第二弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

「暗号資産」の価値はどこにあるのか?

本セッションは、モデレーターの堀氏からが中心となり、リアルタイムにオーディエンスから寄せられる質問を各登壇者へ投げかけながら、デジタル通貨を中心にさまざまな話題について議論が広がった。

ジャーナリスト・キャスターの堀潤氏

堀氏が「子どもたちへお金の重さは通貨の価値、労働の大切さをどう伝えたらいいのか?」との視聴者からの質問を取り上げると、白石氏は「貨幣は何かを得るための代替物であって、そもそも貨幣自体に価値はない。昔のように金(ゴールド)であれば換算できるが、今は紙なので素材自体にも価値がない。それがデジタル化されたからどう、ということはない」「中央集権的なCBDC(中銀デジタル通貨)は既存の発行形態にすぎず、分散的な暗号資産と並列して議論すべきかはわからない」と答えた。

株式会社ARIGATOBANK代表取締役CEOの白石陽介氏

一方、宮沢氏は「暗号資産の価値はどこにあるのか。コピー・複製ができない、希少性に価値がある。これは中央銀行の信用力で価値が出る紙幣とはまったく異なる。今後は、現金と株のように、「決済」と「価値の保存」の場所が分かれてくるのではないか」と意見を述べた。

2人のコメントをふまえ、堀氏が「ここ5、6年で繰り返し議論されている内容ではないか」と投げかけると、安宅氏は「(暗号資産は)いつまで経っても投資の対象にならないところに、この問題の根深さがある。トマ・ピケティ(フランスの経済学者、『21世紀の資本』著者)の議論にあるように、この10年、20年、世界的にGDPの成長はしておらず、結局お金の大多数が資産が資産を生むものばかりになっている。暗号資産もその受け皿になっているにすぎない」と指摘した。

「デジタル通貨」でビジネスの何が変わるのか?

続けて、堀氏が「これまで発行されてきた地域通貨のデジタル版とは異なるものか?」という視聴者からの質問を取り上げると、宮沢氏は次のように答えた。

「機能的には3つの違いがある。まず1つ目は、支払った瞬間に中央銀行のファイナリティ(支払完了性)を持つ「即時性」だ。電子マネーなどキャッシュレス決済は、銀行が後から支払うためタイムラグがあり、資金繰りの問題が生じる。2つ目は、「転々流通」であり、決済だけではなく法人間や給与支払いなど経済活動全般がデジタル化することを意味する。3つ目は「相互運用性」だ。複数のブロックチェーンをつなぎやすい。瞬時に低コストでお金を動かすことができると、マイクロファイナンスやペイメントに応用できる。またプログラマブルになることでさまざまな決済が自動化する。さらに、それらがデータ化されることにより、トランザクションファイナンスが大きく動く」

ソラミツ株式会社 代表取締役社長の宮沢和正氏

宮沢氏の話を受けて、堀氏が「さまざまなデータが(ブロックチェーンの)オープンなシステムで記録される、そこに企業が加わっていくと、どのような変化が訪れるのか?」と疑問を投げかけると、安宅氏は次のように意見を述べた。

「もともと企業は開かれており、その点は大きく変わらない。しかしながら、完全に透明性な仕組みというのは考えにくい。企業にとって取引そのものが情報であり、(秘匿性がある)エンタープライズブロックチェーンを利用するのはわかるが、オープンな(パブリック)ブロックチェーンを利用するとは思えない」

デジタル通貨の議論は面白みに欠ける

セッションの中盤、安宅氏はこれまでの議論をふまえて「デジタル通貨の議論は、いまいち面白みに欠ける。通貨そのものの議論は終わったものだと思っている。ではブロックチェーンはどうか。インターネットは低コストで多くの人とやり取りできるようになるなど、明らかに一般人に利便性があった。ブロックチェーンの設計は、トランザクションの確かな記録に利点があることはわかったが、今のところパワー・トゥー・ザ・ピープルを具体的にどう起こすのかが見えない」とコメント。

慶應義塾大学 環境情報学部教授でヤフー株式会社CSOの安宅和人氏。途中、ホワイトボードを使い「デジタル通貨とは何か?」に関するショートレクチャーが行われた

それに対して堀氏が「国家に対して声を上げる市民がいて、そうした市民をつないで、1つの世界の希望のようなものをつくるのがデジタル通貨であるべきだったのかもしれない。私たちがFacebookのリブラにワクワクしたのは、そうした気持ちだったのではないか」と話すと、安宅氏は「運動論のなかの通貨はありえる」と答え、さらに白石氏は次のように述べた。

「リブラにワクワクしたのは既存の仕組みを大きく変える、国家の中央銀行が発行する通貨を超えるのではないかという期待だったと思う。CBDCの議論など、既存の仕組みの延長線上にあるものをいくら話し合っても面白くないのは当然だ。では、デジタル化された最適なお金、決済手段はどんなものか。おそらくブロックチェーンとインターネットにあるデータ、やり取りなどをかけ合わせることで、それこそ『決済』そのものを意識しないような世界をつくれるのではないか。そこまでいけば、みんながワクワクできる議論になるのではないか」

一方、宮沢氏は別の視点から、次のような意見を述べた。

「リブラの登場から時間が経ち、今はブロックチェーンが本当に生活に必要な技術かどうかを問われているのだと思う。たとえば、SSLというセキュリティの技術がかつてあったが、今はhttpsのようにセキュリティがあらかじめ組み込まれており、空気のように当たり前の存在となっている。ブロックチェーンもそのような存在になるのではないか」

本セッションは、オーディエンスからの質問や感想が数十件ほど届き、デジタル通貨への興味関心の高さがうかがえたのと同時に、登壇者による議論が白熱して予定時刻を延長してデジタル通貨やブロックチェーンに関するさまざまな意見が交わされた。また途中に、安宅氏がホワイトボードを使い、そもそも「デジタル通貨とは何か?」に関するショートレクチャーが行われるなど盛り上がりを見せた。

なお、本セッションを含む同カンファレンスのアーカイブ動画の第二弾が公開中。申し込み登録により視聴は無料となる。

|文・編集:久保田 大海
|画像:N.Avenue