中国国務院は5月21日、国内での暗号資産取引やマイニングの取り締まり強化を提唱する通告を発表。中国の暗号資産取引所やマイナー(マイニング事業者)は、その対応に追われている。新たな通告がもたらす影響を見ていこう。
1. マイニング
環境上の懸念から、暗号資産マイニングを取り締まる可能性があるとする国務院の警告を受け、中国のマイナーは、マイニング機器の操業場所を海外に求めて躍起になっている。
「金曜日(21日)以降、週末にかけてアメリカで敷地をシェアしようとする中国のマイナーたちと協議している」と、シアトルのマイニング企業、ルクソール(Luxor)のCOO、イーサン・ベラ(Ethan Vera)氏は語った。「私が知るすべての中国マイナーが連絡をしてきている。価格を尋ねたり、見積もりを求めている」
中国当局は、取り締まり実施のための具体的な計画を発表してはいないが、一部の主要暗号資産マイニング企業はすでに、通告への対策を講じている。
暗号資産取引所フォビは、中国本土でのマイナーホスティングサービスを停止した。暗号資産マイニングプールのBTC.TOPは、中国での操業を一時停止し、HashCowは新たな機器の購入を停止すると発表した。
「現時点では、実際に取り締まりが行われるのか見極めるにはあまりに不確定要素が多すぎるというのが、大方の見方だ」とベラ氏。「しかし、確かにリスクはある」
海外移転で供給は短期的にはひっ迫か
中国が取り締まりを実施した場合、マイニング機器のホスティング施設の海外への移転にはコストがかさみ、多くの時間がかかる可能性もある。
北米やカザフスタンなど、主要なマイニング拠点には、あまり余剰能力がないとベラ氏は指摘する。アメリカ全体での余剰は現在、30メガワットに満たないと、ベラ氏は推計している。ベラ氏によると、この数字は、中国全体で現在稼働中のすべてのマイニング機器を支えるのに必要なハッシュパワーの1%にも及ばないという。
中国のマイナーは、すぐに海外に移転し、マイニングを開始することはできない。マイニングファームが10〜20メガワット分を増築するには60〜90日かかり、そのようなホスティング施設の基本料金は非常に高くなるだろうと、ベラ氏は述べる。移転した後にも、すべてのハッシュレートをオンラインに復帰させるには、そこからさらに最長で半年かかる可能性もある。
長期的には、暗号資産マイニングは中国で存続するだろうが、産業規模のデータセンターから、自宅でマイニングを行う人や、中小規模のマイナーへとシフトするだろうと、BTC.TOPのCEO、ジュアー・ジャン(Zhuoer Jiang)氏はツイートした。
大規模マイニング事業に対する規制が厳しくなっており、ビットメインなどのマイニング機器メーカーは、機器の大半を海外で販売するようになるだろう(ジャン氏)。
2. 取引所の後退
中国人投資家に取引サービスを提供する主要暗号資産取引所のフォビは、国務院の通告を受けて提供するサービスを縮小した。
スポット取引はおおむね影響を受けていないが、先物契約、ETP(上場取引型金融商品)、その他一部のレバレッジ投資商品の提供を一時停止している。
「今回の動きは、体系的リスクが高く、よりボラティリティも高い市場へとさらに資本が流出するのを、中国当局が阻止しようとしていることを示唆している」と、暗号資産貸付企業、DeFinerのCEO、ジェイソン・ウー(Jason Wu)氏は語る。「フォビで一時停止されたサービスを細かく見てみると、最もリスクの高い取引であることが分かる」
ETPを含め、暗号資産取引所でのレバレッジ投資商品では、投資家が実際に持つ暗号資産の最大100倍までを利用できることで、利益が増大する。しかし、担保となっている暗号資産の価格が下がれば、投資家は担保をさらに積む必要がある。十分な担保を準備できない場合には、手持ちの資産が清算される。
レバレッジ投資商品と金融の安定性
中国の規制当局にとって、金融の安定は最優先事項の1つであり、より多くの人がそのようなボラティリティの高い市場に投資するのは望ましくないだろう。
2013年や2017年の取り締まりの時と比べると、暗号資産のデリバティブ商品や分散型金融(DeFi)のブームのために、暗号資産取引全般によりレバレッジが効いている。
中央集権型取引所やDeFiでの貸付プロトコルで、より高度に体系化された金融商品が台頭していることにより、レバレッジ取引を行うことがより簡単になったと、ウー氏。
中国の投資家が利用するもう1つの主要取引所オーケーエックスは、プラットフォームトークンのOKBと中国の人民元との取引を一時停止する計画だった。しかしその後、「顧客からの懸念」を理由に計画を中止。計画発表後、トークン価格は70%まで値下がりしていた。
OKBの取引高は多くないため、あまり目につくものではない。しかし、そのような取引も、取引所にとっては大きな法的リスクを伴うことになる。
「プラットフォームトークンは、不法な資金調達の形態と捉えることもできる」とウー氏は言う。「中央集権型取引プラットフォームが企業とすると、プラットフォームトークンは本質的に、その企業の株式のようなものだ」
一部の取引所では、取引手数料の割引やその他のプレミアムサービスを利用するために、ユーザーはプラットフォームトークンを保有する必要がある。
3. 中央政府と地方政府の事情
中国の証券にまつわる報道を行う国営新聞「経済参考報」は24日、中国政府が暗号資産マイニングと取引事業に対する取り締まりを強化している理由について、詳細に報じた。
暗号資産をめぐる大きなリスクには、中国の一般的投資家からの関心の増大、高いレバレッジに関連する金融リスク、暗号資産取引プラットフォームのセキュリティー上の懸念、マネーロンダリングや違法な資金調達に関わるコンプライアンスの問題などがあると、経済参考報は伝えた。
マイニングの取り締まりに関しては、環境をめぐる懸念が主な理由だと、同紙は説明。しかし、暗号資産マイニング施設として使われる「データセンター」という同紙の説明は、暗号資産マイニングに対する地方と中央政府の態度の差を浮き彫りにしている。
「マイナーが地元政府をだまし、自らのプロジェクトを支援してもらい、大量の電気を浪費することができるように、ビットコインマイニング事業はデータセンターを装って行われる傾向がある」と、経済参考報は指摘。しかし、多くの地方政府は大規模なマイニング事業を認識しており、ビットコインマイナーに対して優遇的政策を提案するところもあるほどだ。
主要なマイニング拠点となっている中国南部、四川省のいくつかの県は、水力発電電気消費地区を設置した。そこでは多くの大規模なビットコインマイニング企業が操業中だ。内モンゴル自治区や新疆ウイグル自治区でも、数年にわたってビットコインマイニング事業が行われている。
暗号資産マイニングに対し、地方政府の方がより寛容な姿勢を取る理由は、高い税収入を求めてのことかもしれない。一方の中央政府は、環境保護を優先している。
3つの金融業界団体が発した18日の取り締まり通告と比べると、より高いレベルの政府組織である国務院からの今回の通告の方が、暗号資産取引やマイニング事業に対する抑止効果は高くなるだろうと、経済参考報は分析している。
|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:3 Things You Need to Know About China’s Crypto Crackdown