ドイツ銀行が警告するアメリカのインフレ

アメリカは史上最悪のインフレ期に向かっているのかもしれない。ドイツ銀最大手のドイツ銀行は、政府支出の拡大と金融緩和が重なる現在の状況は、1940年代や1970年代のインフレと同じような事態を生み出す可能性があると、警告している。

さらに圧力を加えるのは、過去1年間、多くのビジネスが休業し、旅行をするのもほとんど不可能な中で、消費者たちが貯め込んだ2兆ドルほどの「貯金の余剰」だと、ドイツ銀は7日に発表したレポートの中で指摘した。

「経済活動が再開するに連れ、消費者たちは間違いなく、少なくとも貯金の一部を使うだろう」と、レポートを担当したドイツ銀行チーフエコノミストのデビッド・フォルケルツ-ランダウ(David Folkerts-Landau)氏、経済リサーチ担当グローバル責任者、ピーター・フーパー(Peter Hooper)氏、テーマリサーチ担当責任者、ジム・ライド(Jim Reid)氏は主張する。「これによって、消費者主導のインフレという懸念が非常に現実的なものとなる」

ビットコイン(BTC)をドルの価値低下に対するヘッジと捉えている暗号資産投資家たちは、インフレの可能性を注視している。

しかし、ビットコインは時に、株式のようなリスクの高い従来型資産と並んで値動きしたこともある。ドイツ銀の担当者たちは、インフレが発生した場合には、FRB(米連邦準備制度理事会)が力づくの対応を行い、「深刻な不況を生み、世界中に財政難の連鎖を引き起こす」可能性もあると警告した。

一方、米FRBのパウエル議長は、インフレ率が上がっているのは「一時的なもの」であり、新型コロナウイルスのパンデミックを原因とした不況から経済が回復するに連れ、徐々に落ち着いていくとコメントしてきた。

過去との対比

「インフレの再発に対する準備不足は、心配なものだ。現在ある程度のインフレが発生して、それが一時的なものだとしても、1970年代に起こったのと同じように、期待インフレ率を高める可能性もある」と、レポートは指摘。「わずか数カ月だけだとしても、大規模な経済刺激策を実施している中では、そのような期待を抑えるのは困難かもしれない」

注目すべき指標の1つは、需要と供給の不均衡を測り、潜在GDPと実質GDPの差で示される、GDPギャップだ。

ドイツ銀では、アメリカのGDPギャップが2%を超えると見込んでいる。これは、過去20年以上で最も高い水準であり、需要が供給を上回り、価格の高騰につながる。

2008年の金融危機後、「アメリカの経済刺激策の量はGDPギャップを縮めるのには不十分であり、経済回復は不必要にゆっくりとしていた」と、レポートは指摘した。 

1960年代の高いGDPギャップは、一連の石油価格ショックによって悪化した1970年代の高いインフレに先んじるものであった。


アメリカのGDPギャップ(とその予想値)
出典:ドイツ銀行

ドイツ銀では、アメリカの経済刺激策は合計でGDPの25%以上、5兆ドルを超えると推計している。米連邦政府の赤字は、2009年はGDPの約10%であったのに対し、2020年と2021年にはGDPの14〜15%となる可能性が高い。

ドイツ銀のレポートによれば、第二次世界大戦の頃には、アメリカの赤字は4年間にわたってGDPの15〜30%となっていた。

「パンデミックと第二次世界大戦とでは、多くの重要な違いがあるが、経済が正常化し、抑圧された需要が解放された後には、年率インフレは1964年には8.4%、1947年には14.6%、1948年には7.7%であったことを指摘しておく」と、レポートには記されている。

優先されないインフレ対策

現在の政治状況では、この先数年間、インフレを抑えることよりも雇用の創出の方が優先されるかもしれない。

レーガン大統領が「インフレを抑えるために経済を窮地に追い込む」FRBのボルカー議長をサポートした1980年代初頭とは異なり、現在は、失業率の問題、収入や財産の点でさらに平等を実現するという、より幅広い目標に比べて、インフレの問題ははるかに重要度が低いと捉えられている」とレポートは指摘した。

「新たな政策枠組みにおいて、先手的な措置から遠ざかっているFRBの動きは、結局は後手に回り、経済活動に大幅な混乱をきたさずにインフレの問題に効果的に対処するのに手遅れになるリスクを高める、最も重要な要素である」と、ドイツ銀の担当者たちは警告した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Deutsche Bank Issues Stark US Inflation Warning, Seeing Economic Parallels to 1940s, 1970s