ビットコインのアップグレード「タップルート」、実施確定

ビットコインプロトコルのアップグレードとしてはここ数年で最も重要なタップルートは、その実施を確定するのに必要なマイナーからの支持が集めた。

「スピーディー・トライアル」で設定された基準によると、難易度を調整する期間(約2週間)にマイニングされたブロックの9割がアップグレードを支持する「シグナル」を出せば、実行のプロセスを始めることができる。

より正確には、一定期間中にマイニングされた2016ブロックのうち、1815ブロックに、そのブロックをマイニングしたマイナーがタップルートに賛成していることを示す、暗号化された情報が含まれる必要があるのだ。

2度目となった今回の難易度調整期間中、ブロック687284において、その基準が達成された。期間が終わる6月13日までには、賛成に支持を表明するブロックが99%を超える可能性が高い。

現状のシグナリング率をビジュアル化したもの(緑のブロックは支持を表明)
出典:Taproot Watch

「スピーディー・トライアル」とコンセンサスに向けた長い道のり

タップルートは2017年のSegregated Witness(SegWit)以来、ビットコインで最も待ち望まれたアップグレードである。SegWitの焦点は、ビットコインプロトコルのスケーリングにあったが、一方のタップルートは、シュノア(Schnorr)署名と呼ばれる新たな署名の仕組みをビットコインにもたらす。

ビットコインコードを小さく調整することで、プライバシー、マルチシグウォレット、セキュリティ、さらにはスケーリングにも新たな可能性の扉が開かれる。9割の支持という条件が満たされたため、13日に今回の難易度調整期間が終わることで、スピーディー・トライアルの第1段階が完了する。

スピーディー・トライアルというプロセスは、タップルートのソフトフォークを先へ進めるために、マイナーから十分な支持が集まっているかを見極めるために使われている。開発者と利害関係者から成るビットコインコミュニティーの同意の上で採用されたものだ。タップルートに対して幅広い支持が寄せられていることが明確になった後も、何カ月にもわたって、その実行方法については議論が続いていた。

ビットコインのコードに変更を加える場合、いかなる時でもコンセンサスが必要となる。そのような変更を単独で実施できる、判断を「任された」単独の個人や組織は存在しない。コンセンサスを達成することは時に、コードそのものを書くことよりも複雑だ。タップルートの場合には、スピーディー・トライアルにコミュニティーの大多数からの支持が集まった。

タップルートに向けた次なるステップ

タップルートのソフトフォーク実施が確定した今、実施の次なる段階は5カ月間の待機期間だ。その期間中、マイナーとノードには、ソフトウェアをタップルート(やその他の改善)のための実施ロジックを含む、最新のBitcoin Core 0.21.1へとアップデートする時間が十分にある。

そして11月、ビットコインが指定の「ブロック高さ」(ビットコインブロック709632)に達すると、ついにタップルートが実施されることになる。つまり、タップルートに関連していて、Bitcoin Core 0.21.1に含まれている「Bitcoin Improvement Proposal」が、自動的に実行されるのだ。その時点で、アップグレードされたノードや機器はすべて、アップグレードされたプロトコルを使って行われたトランザクションを認識、受け入れることができるようになる。

実施後:その次は?

そこからは、タップルートがもたらすツール、特に、ビットコインの現行の楕円曲線DSAに取って代わる、「シュノア署名」の活用は、ビットコインエコシステムの開発者たちに委ねられる。

より小型で高速なシュノア署名には、「リニア」であるというさらなるメリットもある。その組み合わせが、ビットコインの取引プライバシーを向上させ、より軽量で複雑な「スマートコントラクト」(自己実行規則を伴う暗号化されたコントラクト)を可能にする。

長期的には、タップルートがツールとコーディングにもたらす改善が、パフォーマンス全体、そしてマルチシグテクノロジー、プライバシーソフトウェア、さらにはライトニング・ネットワークといったスケーリングテクノロジーのプライバシー向上という点で、ユーザーエクスペリエンスを高めることになる。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Locked In: Bitcoin’s Taproot Upgrade Gets Its 90% Mandate