イーサ・オプション取引で300万ドルの損失か

暗号資産のオプション市場というボラティリティの高い世界において、300万ドルを失うのは非常に簡単であるということを、あるトレーダーは身をもって学んだのかもしれない。オプション分析プラットフォーム、ジェネシス・ボラティリティ(Genesis Volatility)が明らかにした。

イーサ(ETH)のプットオプションの売り手は、イーサが急落しない方に賭けて大口の投資をしたが、22日にイーサ価格が3カ月ぶりの安値となる1700ドルまで下落したため、大きな損失を出すことになったとジェネシスは説明した。

「今四半期に売っておいた、12月が満期の2560ドルのプットオプションの5000契約を買い戻すことをトレーダーに強いるのに十分なだけ市場が動き、大きな損失が生まれた」と、ジェネシス・ボラティリティのCEO、グレゴア・マガディニ氏は語った。「取引によって、300万ドル以上の損失が出たようだ」

プットオプションは、原資産(今回の場合はイーサ)を満期日の当日に、設定された価格で売る権利を与える。オプションの保有者は、価格が権利行使価格を下回った場合に利益を得る。反対に、資産が権利行使価格より高く取引された場合にのみ利益をあげる。

今回トレーダーは、年末まではイーサ価格の値上がりが続き、オプション価格が一貫して値下がりすると見込んで、値上がり中に2560ドルのプットオプションを売った可能性が高い。

しかし、イーサは5月12日に4000ドル超えでピークに達し、22日には1700ドルまで下落。2560ドルのプットオプションの価値は高まり、売り手には厳しい損失をもたらした。今回の取引の舞台は、世界最大の暗号資産オプション取引所のデリビット。ここでは、イーサオプションの1契約が、1ETHを表す。

オプションを売ることは損失の可能性を伴い、プットでもコールでも、潤沢な資金を持ち、リスク許容度の高い機関投資家により向いている戦略である。

12月31日満期の2560ドルプットオプションの未決済の建玉
出典:Genesis Volatility

デリビットのデータは、取引が起きていた時期の状況を伝えている。12月31日満期の2560プットオプションの建玉の数は、イーサ価格が2倍の4000ドルまで上昇した5月12日までの4週間で、1万2000契約へと10倍に増加。23日には5000契約減少した。

「その建玉の大半は、ショート側でオープンされたものだ」とマガディニ氏は説明した。

12月31日満期の2560プットオプションの未決済の建玉
出典:Genesis Volatility

損失を計算する

22日に買い戻されたショートポジションは、300万ドル近い損失を出したはずだ。どのようにしてだろうか?

データが限られているため、トレーダーが2560ドルのプットオプションの5000契約を売った正確な価格は分からない。しかしマガディニ氏は、4月中旬から5月中旬の平均価格447ドルを、損益の計算に利用することを勧めてくれた。4週間の間にイーサが値上がりするに伴って、少しずつ売り続けた可能性は高い。

売り手は、447ドルの平均価格で5000契約を売ることで、223万5000ドルのプレミアムを手にした可能性が高い。しかし、22日には、ずっと高い1080ドルという価格で買い戻し、その出費の合計は544万ドルとなる。

つまり、トレーダーは数週間前にプットオプションを223万5000ドルで売り、22日に544万ドルで買い戻した。その損失は300万ドルを超えるという計算だ。大きな額に見えるかもしれないが、ポジションがさらなる損失を産むことを恐れて、買い戻したのだろう。

イーサのオーダーブック
出典:Gregoire Magadini、Genesis Volatility、Deribit

プットオプションの価格は、イーサ価格が先週2500ドルを下回るに伴って上がり始め、23日アメリカ時間の早い時間、イーサ価格が1800ドルまで値下がりした時に1080ドルまで急騰した。

イーサがその日の最安値近くの時に、ショートポジションが買い戻された。

さらに、機関投資家が好むパラダイム(Paradigm)のような相対取引(OTC)デスクではなく、デリビットで決済が行われた。そのためマガディニ氏は、オプションを売ることで個人投資家が痛手を被った典型的な事例と考えている。

熟練の読者の方は、ショートポジションはブル・プット・スプレッド、あるいはそれ以外の複雑な戦略の一環だったのではと思うかもしれない。ブル・プット・スプレッドは、より高い行使価格のプットオプションを売り、同じ満期日のより安い行使価格のプットオプションを買い、市場の値上がりまたは保ち合いによって利益を得るものだ。この戦略を長く実施すると、値下がりの間の損失を抑えられ、ただプットオプションを売るのに比べて、値上がり時期により多くの利益を安全に集めることができるというメリットがある。

しかし、2560ドルのプットオプションの売りが、より低い行使価格のプットポジションの買いを伴っていたという証拠はない。そうだったとすれば、トレーダーは22日に、ショートの分だけでなく買いの分も決済し、2560ドル未満のプットオプションの建玉は大幅に減少したはずである。しかし、そうではなかったようだ。

「12月満期の2560ドルのプットオプションと並んで決済された他のオプションはなかった」とマガディニ氏は指摘した。


※当記事の配信後、問題のオプション取引が行われた取引所デリビット(Deribit)はCoinDeskに対し、2560ドルのプットオプションで損失を出したのは(通常はヘッジされている)マーケットメーカーであり、買い手は300万ドル以上の利益を出したと語った。

デリビットのCCOによると、買い手は値上がり中にポジションをオープンし、それが未決済の建玉の急増につながった。6月23日の建玉の減少は、イーサ市場が値下がりするに伴い、プットオプションがずっと高い水準で取引されている時に、この顧客が利益確定した結果であるとのことだ。この利益確定取引の証拠の提示を求めたが、デリビットは回答していない。


|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:How One Ether Options Trader May Have Lost $3M in a Trade Gone Bad