日本、イギリス、カナダが警告──バイナンスは変わるか?

先週末にかけて、世界最大の暗号資産取引所バイナンスに対する執行措置や、それに関連する影響が見られた。世界規模で金融規制の限界を試し続けてきたバイナンスやその他の取引所にとって、より大きな困難の序章に過ぎないのかもしれない。

まずは6月25日、日本の金融庁が、無登録で日本居住者に金融サービスを提供していたとして、バイナンスに警告を発した。翌日には、イギリスの金融行動監視機構(FCA)が、イギリスでの事業に対して同様の警告を出した。

そして27日には、カナダのオンタリオ州がバイビット(Bybit)、クーコイン(KuCoin)、ポロニエックス(Poloniex)の各取引所に対して警告や措置を発したことを受け、バイナンスが同州でのサービス提供を停止すると発表。

バイナンスと同様に、これらの取引所は、事業を行う認可を明確に受けてはいない法域で幅広く利用される「グローバル」な暗号資産取引所というカテゴリーに分類される。週末にかけての一連の動きは、そのような暗号資産取引所に対する世界的なより厳しい取り締まりの先触れとなるかもしれない。

「規制逃れ」で成長

クーコインやビットフィネックスのような取引所は、「規制逃れ」と呼ばれるものを土台に成長してきた。この言葉は、異なる場所での法律の差異につけ込み、監視や規制を逃れることを意味する。また、不明確な規制や、厳しく実施されていない規制につけ込むことも意味する。

ウーバー(Uber)の成長は、規制逃れの典型的な例だ。2010年代初期から半ばにかけて、ライドシェアの大手であるウーバーは、技術的、法的策略を巧みに利用し、テキサス州オースティンといった、同社事業を明白に禁止していた法域へと拡大していった。そのような規制逃れによって、時価総額950億ドルの上場企業へと成長したのだ。

取引所の場合には、規制逃れは主に、規制の緩い法域に拠点を置きながら、VPNソフトウェアを通じて規制された国々でサービスを提供することを意味する。2018年に入ってもしばらく続いた先進国における規制当局からの無関心にも、取引所は恩恵を受けた。

ビットメックス(BitMEX)や、一時期のバイナンスのように、暗号資産の取引だけで、法定通貨のオンランプを提供しなかった取引所はとりわけ、規制当局の目には映らない存在であったようだ。

アメリカのような場所では、顧客にサービスを提供することを法律で名目上は禁止されていたが、バイナンスやその他の取引所は、当たり前のようにサービスの提供を行うことで知られていた。

ビットメックスでレバレッジの効いたロングポジションを取ろうと考えるアメリカ人の顧客は、VPNソフトウェアをインストールして、例えばモロッコにいるように見せかけるだけでよかった。

取引所は通常、規制当局からの苦情に対して、回避する方法が使われている明確な証拠を単に無視し、地理的境界線によって、サービスを提供するべきではない顧客にはサービスを提供していないとシラを切るだけであろう。

このような状況は、グローバルな取引所に対する規制当局からの監視が、最近の強気相場に伴って強化されても、続いていた。金融の規制やその執行は多くの国々、特に発展途上国においては緩く、取引所はそれらの国々の居住者、あるいはVPNを使ってそれらの国々にいるフリをしている人たちに自由に暗号資産を売ったり、取引サービスを提供し続けることができる。

規制を軽くしていることが分かっている法域に会社の本社を置けば、リスクはさらに低下する。例えば、長年ビットメックスの名目上の本拠地となっているセーシェル共和国。そして、バイナンスの表向きの本社が置かれているマルタなど。これらの本社は主に、法律上の目的のために存在し、バイナンスの事業は、様々なオフィスからなる不透明なシステムを通じて広がっており、それ自体も規制に対する防波堤となっている。

FCAの広報担当者は、今回の禁止は、イギリスにある子会社「Binance Markets Ltd.」のみに対するもので、バイナンス全体に影響するものではないと語った。しかし、Binance Markets Ltd.はイギリスでも、その他どこでも現在、事業サービスを行なっていないようだ。FCAは、バイナンスグループがいまだに、ライセンスを持たずに、Binance.comを通じてイギリスのトレーダーたちにサービスを提供していると指摘する。

続く取り締まりの強化

FCAは、イギリスの顧客はイギリスのルールを破らないバイナンスのサービスを「利用し続けることができる」と述べ、実質的にバイナンスに適正審査を任せたままにしている。しかしこの発言は、罰を受けずに事業できるという、バイナンスに対する許可と捉えるべきではない。

多くのユーザーをバイナンスに惹きつけるレバレッジ取引は、間違いなくイギリスで違法なものであり、規制当局は明らかに注目を高め、さらなる規制や罰則を追求していく可能性が高い。

イギリスにおける規制を受けた取引を整備する計画の一環として、バイナンスは2020年に規制を受けたイギリスの会社を買収した。バイナンスはこれが、公明正大にイギリスで事業を展開するための簡単な道だと見込んでいたことは明らかであり、買収当時、2020年の夏には事業を開始すると語っていた。

しかし、イギリスのバイナンスは規制当局からの許可を得ることができず、今回のFCAの動きは、裏での取引を抑制するというよりは、イギリス当局はバイナンスを正面から通す気はあまりないという、力強いメッセージを送ることの方に狙いがあったように思われる。

世界をまたにかけるバイナンスの野心にとって、今回の一連の動きは大きな打撃だが、より重要なことに、暗号資産界で最大級の法律違反常習者たちに対する取り締まりの継続をも意味している。

このような動きは、アーサー・ヘイズ(Arthur Hayes)氏をはじめとするビットメックス幹部たちに対するマネーロンダリング容疑でのアメリカの告訴から始まった。

不明確さ、無関心、VPNのおかげで、グローバルな取引所は長年にわたって規制当局をごまかしてきたが、幹部の告訴といった個人に及ぶ影響を見たリーダーたちは、ついに規制当局を真剣に捉え始めるかもしれない。

デイビッド・Z・モリス(David Z. Morris)はCoinDeskのコラムニスト。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:A Reckoning for Binance and Other ‘Global’ Exchanges