株式上場を目指す米サークル、ステーブルコインの裏付け準備金が焦点

世界第2位のステーブルコイン「USDコイン(USDC)」を手がける米サークルが今月、上場計画を発表した。CEOのジェレミー・アレール(Jeremy Allaire)氏は、「市場で最も開かれ、最も透明性の高い、完全準備ステーブルコインの発行企業」になると宣言した。

そこに至る道のりは長い。

​​サークルは7月8日、国際金融グループ、バークレイズの元CEO、ボブ・ダイアモンド氏が率いる特別買収目的会社(SPAC)Concord Aquisitionとの合併を通じて、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場すると発表。合併後の時価総額は45億ドル(約4900億円)と見られる。

上場計画発表後、アレール氏は、非公開企業から上場企業へ変容することは「サークルがUSDCを中心に構築している事業について、そしてUSDCを裏づける準備金について、はるかに高い透明性を提供するためのチャンスを生む」とツイート。

「2/6 大手企業や金融機関と私たちがパートナーを組み、世界中の人々がUSDCを使うようになるに連れて、上場企業になることは、企業としてさらに高い透明性を提供するのに不可欠なステップである」

「3/6 非公開企業から上場企業への変容の一環として、USDCを中心として構築している事業について、そしてUSDCを裏づける準備金について、はるかに高い透明性を提供するためのチャンスが生まれる」

時価総額63億ドルで業界トップのテザー(USDT)を筆頭に、ステーブルコインを裏づける資産についてさらなる透明性を要求するコメンテーターがますます増える中で、アレール氏は今回のコメントをした。USDCは、1年前には時価総額10億ドルに満たなかったところから、約250億ドルまで成長した。

規制当局や業界アナリストらは、ステーブルコインへの信頼の損失が、暗号資産市場を不安定にし、ウォール街にまで影響が波及すり可能性があると警告している。

サークルの事業成長予測が正しければ、事態はさらに深刻だ。8日のプレゼンテーションの中でサークルの幹部は、USDCの流通高は来年、2倍以上の830億ドルとなり、2023年までに約2000億ドルに達すると予測したのだ。

USDコインの成長予測
出典:Circle

プレゼンテーションでは、「準備金」という言葉は一度しか使われておらず、USDCは「準備金への利息で収入」を獲得するという文脈で使われた。

プレゼンテーションの中の「リスクファクター」の要素の中には、小さく次のような文言が組み込まれていた。「私たちには、顧客の資産を守る義務があり、それを怠ることは、私たちの事業にマイナスの影響を与え、負債や、規制当局による執行措置、評判の喪失につながる可能性がある」

サークルは2018年以来、資産に関する月次「証明」レポートを発行している。これらのレポートによれば、2020年2月までは顧客の資産すべてを、連邦機関によって保証されたアメリカの銀行に保有していた。しかし3月に関するレポートには、具体的な説明なしに「承認された投資」というカテゴリーが加わった。

投資家やメディアからの問い合わせが増えているにも関わらず、サークルは「承認された投資」の内訳や、投資された金額を公表してはいない。

6月30日に行われたCoinDesk TVのインタビューの中でアレール氏は、投資の内容に関する質問に直接答えることはなく、法律に基づいて「許容されている一連の非常に限定された保有可能な金融商品」であるとだけ述べた。

「考えてみれば、明らかに現金だ。それから、国債といった、短期的商品だ」とアレール氏。「USDC準備金の個々の投資先の内訳を発表することはないが、義務付けられている情報は確かに発表しており、求められるよりさらに高い基準を守っていることは、非常に明確にしている」

テザーやステーブルコイン全般に対して長年批判的な姿勢を見せてきた、Bitfinex’dというブロガーは7日、サークルの準備金資産の説明の移り変わりを時系列で追った記事をMediumに投稿した。

「準備金について透明性を保てないのならば、透明性がある企業とうたうことはできない」とBitfinex’dは指摘。「人々に自分の保有する資産を開示することは、違法ではない。他の人の資産を保有しているのであって、その人たちや家族の生活があなたたちにかかっているのだ。彼らは自分の資産がどのように使われているかを知る権利がある」

(エコノミストで作家のフランシス・コッポラ氏)
「またまたステーブルコインによるごまかし。今回はUSDC。会計事務所グラントソントン(Grant Thornton)による、サークルの4月の証明レポートは、すべてのUSDCが「カストディアカウント」にある米ドルによって裏づけられていることを確認するものとなっている。だけど….」

サークルは44の州で、送金業者のライセンスを取得しているが、送金業者の投資範囲に対する規制は州ごとに異なる。

例えばテキサス州では、送金業者が安全な資産にしか投資できないよう、より厳しい規制を課している。一方、ニューヨーク州やコネチカット州などは、コマーシャルペーパーや、上場企業の優先株に投資することを許可している。

ステーブルコイン市場が成長するに連れ、デジタル資産だけでなく、株式や債券などの伝統的市場にも与え得る影響について、規制当局や専門家からの懸念が高まっている。

ステーブルコインは、1兆4000億ドルの暗号資産グローバル市場を支える大切な役割を果たしているのだ。トレーダーは、裁定取引のチャンスを活用するために、取引所間でドルをすばやく移動するのにステーブルコインを利用するからだ。

一部のトレーダー、アナリスト、エコノミストらは、テザーをはじめとするステーブルコイン発行業者の財務上の損失、または信頼に関わる危機が、ビットコイン(BTC)など、ほかの暗号資産価格に下方圧力を加えることになる売却を引き起こすかもしれないと懸念している。

「ステーブルコインは、現金の形の法定通貨とも、デジタルの形の法定通貨とも同じくらい安定することは決してなく、果たされなかった約束をめぐるパニックが広がれば、救済を必要とするかもしれない」と、CoinDeskのコラムニストで研究者、ブラジル中央銀行で弁護士として働くマルセロ・M. プラテス(Marcelo M. Prates)氏は指摘した。

各方面から寄せられる警告

中国の中央銀行にあたる中国人民銀行の范一飛・副総裁は、ステーブルコインが国際金融システムの安定性にリスクをもたらす可能性があると、懸念を表明。

ボストン連邦準備銀行総裁のエリック・ローゼングレン(Eric Rosengren)氏も先月、以下の通り発言した。

「現在ほぼ規制を受けていないステーブルコイン市場が成長し、私たちの経済においてより重要なセクターとなるに連れ、人々がそのようなプロダクトから非常に急速に手を引いた時に何が起こるかを、真剣に考える必要があると、懸念している」

債券格付会社のフィッチ・レーティングス(Fitch Ratings)は先週、ステーブルコインの急速な成長は、短期信用市場の機能に影響を与える可能性があると警告した。

 FRB(米連邦準備制度理事会)は5月、市場関係者を対象に行った調査結果を発表。証券会社や投資家、政治顧問、学者の間では、金融システムの安定性にとって、暗号資産ステーブルコインが脅威になりつつあるとの見方が増えてきていることがわかった。

国際規制当局は少なくとも2019年以降、ステーブルコインの潜在的リスクを研究している。欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド(Christine Lagarde)総裁も昨年、ステーブルコインがはらむリスクについて同様の懸念を表明した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:サークルの共同創業者兼CEO、ジェレミー・アレア氏(Circle)
|原文:Circle CEO Says USDC to Take High Road, But It’s a Long Road