ビットコインの利用を変えるライトニング・ネットワークとは【前編】

6月、エルサルバドル立法議会の84名の議員のうち、74%に当たる62名が、ビットコイン(BTC)を法定通貨にする法案に賛成票を投じた。エルサルバドルのナジブ・ブケレ大統領は「歴史的だ」とツイートしたが、彼は間違ってはいない。

ビットコインを自国経済に受け入れる同国の姿勢は、この先の展開がどうなるにせよ、ビットコインの歴史の中でも最も影響力のある出来事だろう。

ビットコインを「使える」コインに

よく考えて欲しい。エルサルバドルの農民たちが、暗号資産(仮想通貨)管理アプリ「ブロックフォリオ(Blockfolio)」で保有するビットコインが「月まで届くほど高騰」して欲しいと願ったから起こった訳ではない。BTCインデックスファンドの夢によって促された訳ではないのだ。価格予測の話ではない。

70%が現金の経済において、村人や農民は実際にビットコインを使い、果物や野菜を買うために少しのサトシ(ビットコインの最小単位)を送り、生みの親のサトシ・ナカモトを笑顔にするような、本来のピアツーピアの形でビットコインを活用するようになるのだ。

この点に関して、少量のビットコインのやり取りを高速で安価、そして簡単にしてくれる、ジャック・マラーズ(Jack Mallers)氏の手がけるアプリ「ストライク(Strike)」に感謝できるだろう。

さらによく考えてみよう。ストライクは、ライトニング・ネットワークが支えている。ライトニング・ネットワークとは、ユーザーがホストとなるチャンネルやノードのネットワークを通じて、オフチェーンで取引を決済する「レイヤー2」のプロトコルであり、ビットコインを送るのにかかる時間と手数料を大幅に削減する。

マラーズ氏は、ストライクのためにライトニングを使うことを最初から決めていた。「あまりにも明らかだった」とマラーズ氏は述べ、ライトニングのレイヤー2ソリューションを「人間の歴史における、テクノロジーとしての通貨の進化の中でもとりわけ素晴らしいものの1つ」と呼んだ。

ライトニングは、ビットコインの爆発的普及を推進するエンジンだ。ライトニング・ネットワークは、ブロックチェーン全体で最も重要な資産のための、最も重要なプロジェクトだと言ってもいいだろう。

しかし、共同創業者兼CEOエリザベス・スターク(Elizabeth Stark)氏を筆頭とするライトニング開発チームは、不思議なほどに注目されていない。ライトニングはある意味、過小評価されているのか?2017年から2018年にかけての初期の注目の後、スターク氏はおおむねメディアを避け、仕事に没頭してきた。

ライトニングが表舞台に再登場するには、今が格好のタイミングだ。見出しやツイッターから見えてくる最近のビットコインの話題は、価格、価格、価格、イーロン・マスク、価格、中国、価格、価格、イーロン・マスクの終わりない連発のように感じられる。

ライトニング・ネットワークはある意味、投機騒ぎへの抵抗だ。ライトニングは、投資家に買い尽くされるだけのものでも、デジタルゴールドだけでもない、使われるビットコインなのだ。

「デジタルゴールドに過ぎないという考えでは、ビットコインが成し遂げられることを活かしきれない」とスターク氏。「ビットコインはプログラム可能な通貨であり、ライトニングはビットコインを世界中の何十億人へと拡大させることを後押しできるだろう」

そして今、それが実際に起こり始めているのだ。スターク氏とチームから、世界へ向けたメッセージがある。ライトニングはもはや単なる「可能性」ではない。ただの未来ではない。ライトニングはここにあり、機能しているのだ。

10億人にビットコインを届ける

私が初めてライトニング・ネットワークについて耳にしたのは、2018年にタイで開催されたビットコイン会合の場であった。数人のビットコイン開発者たちが、ライトニングネットワークを可視化した、ほとんど理解不可能なプレゼンをしたのだ。彼らの話には、チャンネルとノードという言葉が溢れていた。これがビットコインの未来なのか?

それから多くが変化した。「ライトニングは今や現実だ」と、ライトニング・ラボの事業担当バイスプレジデント、デジレー・ディッカーソン(Desiree Dickerson)氏は語る。彼女は内分泌学、生物物理学、遺伝学の知識を持ち、米政府が医療保険制度改革法を施行するのを助けた経歴も持つ。

「あと2年後だと言う人々もいるが、そうではない。ノードについて考える必要もないような使い道があるのだ。(中略)私は毎日ライトニングを使っている」

ライトニングは非常に高速だ。ディッカーソン氏によれば、ライトニングの最大スループットは現在、1秒間に2500万トランザクションとなっている。(これに対してオンチェーンのスループットは、1秒間に7トランザクションだ)

ネットワークの成長に伴って、スループットはさらに増加することが見込まれている。10〜60分かかるオンチェーンとは異なり、ライトニング・ネットワークの決済は即座に完了すると、ディッカーソン氏は語った。

その速さは、ビットコインを使うということの意味合いを変える。強気相場において、「価値の保管手段」としての役割をビットコインが果たすという考えは、ほとんど覆せないものになったかのように思われた。

それに対してライトニングはこう反応する。「まだまだだ」と。「ライトニングは、人々がビットコインとやり取りし、ビットコインを使う方法を変容させる」と、ディッカーソン氏。「『よし、値上がりした。投資リターンが100倍になった』というだけのものではない。『え、実際にビットコインで取引して、使うことができるの?』という感じになるだろう」

事業そのものを見るところから始めよう。ブロックチェーン分野における重要性を考えると、ライトニング・ラボは数百人のスタッフを抱え、開発者軍団がコードをどんどんと書き出していると、私は想像していた。

しかし実際には、スタッフは合わせて21人。「みんなショックを受ける」とディッカーソン氏。チームはほぼリモートで仕事をし、サンフランシスコからワシントンDC、ニューヨークにまで散らばっている。

ライトニングには、控えめな包括的目標がある。この先10年で、10億人にビットコインを使ってもらうことだ。(推計4600万人のアメリカ人がビットコインを保有しているが、実際にそれを取引に使うのはごくわずかだ)

普及のためのアプローチ

どのように普及を促すのか?アメリカの視点からは、最も明白なアプローチは、コインベース、ロビンフッド、Cash Appなどの典型的なクリプトオンランプにライトニングを組み込むことだ。

Cash Appを手がけるのは、ビットコイン支持者(かつライトニング・ラボに対する投資家)のジャック・ドーシー氏であることを考えると、Cash Appが決定打となるように思えるかもしれない。

ドーシー氏は2年以上前、ライトニングをCash Appに組み込むのは、「もし、ではなくいつ」の問題だと予測した。それ以降、統合の可能性についてほとんどアップデートはなく、この点についてスターク氏に聞くと、詳しい話をすることを躊躇した。しかしドーシー氏は6月、ライトニングをツイッターに組み込むのは「時間の問題だ」と示唆した。

普及に向けた、よりクリエイティブでそれほど明白ではない道もある。こちらは舞台裏で起こるものだ。ライトニングは、開発者向けのツールを開発することに重点を置いている。そして開発者たちが、人々が使いたがる魅力的なアプリを生み出してくれることに賭けているのだ。

「開発者向けのツールを開発すると、極めて高い影響力を持つことができる」とスターク氏。「ライトニング・ラボのミッションとして、インターネットネイティブのデジタル支払い取引レイヤーを開発している。それを可能にするためのインフラを開発しているのだ」

ストライクはこの戦略の広告塔だ。App Storeからダウンロードして、自分の当座預金口座とつなげるのを含めて、私がスマートフォンでストライクを設定するのに90秒もかからなかった。今までに見た中で最も簡単なクリプトオンランプだった。

「ライトニングに法定通貨から直接のオンランプがある。それはすごいことだ」と、インテルの元エンジニアで、現在はライトニングの事業開発責任者を務めるライアン・ゲントリー(Ryan Gentry)氏は話す。「それは真のゲームチェンジャーとなるだろう」

金融包摂達成のための具体的方法

ライトニングが大切な理由を説明しよう。スターク氏のお気に入りの例え話を使ってみる。数十年前、幸運にも豊かな国に暮らしていたり、大学の近くや大都市に住んでいたとしたら、図書館や本を簡単に入手できていた。

「しかしエルサルバドルの小さな町に暮らしていたら、そのように本を入手することはできなかった」とスターク氏。「インターネットが民主化をもたらし、誰でもが情報にアクセスできるようになった」と語るスターク氏は、ビットコイン価格に興味はない。人類に「図書館」という名のファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)のドアを開くテクノロジーの力を大切に思っているのだ。

ビットコイン支持者は長年、ビットコインが「非銀行利用者層に銀行サービスをもたらす」役に立ち、推計17億人の人々にファイナンシャル・インクルージョンをもたらすと主張してきた。

しかし、彼らは時に、どのようにそこまでたどり着くかの方法については、言葉を濁してきた。ライトニングが、その方法となり得るのだ。「このインターネットネイティブの価値レイヤーの結果は何か?ライトニングなしではチャンスを手にできなかったはずの、ずっと多くの人に対してチャンスの扉を開くことになる」

人権財団(Human Rights Foundation)の最高戦略責任者、アレックス・グラッドスタイン(Alex Gladstein)氏は5月19日、世界で12億人が、2桁、3桁台のインフレ率のある場所に暮らしており、問題はベネズエラといった典型的な例に使われる国だけよりもずっと広く蔓延していると指摘した。

「ナイジェリアは公式インフレ率が15%。人口は2億1000万人だ」とグラッドスタイン氏は述べ、さらに統計の話を続けた。トルコ(1億人、インフレ率15%)、アルゼンチン(4500万人、インフレ率50%)、パキスタン(2億人、インフレ率10%)。ライトニングに支えられたビットコインが、これらの国で人々がより良い暮らしをするのを助けるために積極的に使われていると、グラッドスタイン氏は語った。

その一例がエチオピアのカル・カッサ(Kal Kassa)氏だ。カッサ氏はマーケティング企業を運営し、グラフィックデザイン、プログラミング、翻訳、コンテンツ管理システムの運営補助などの報酬支払いにライトニングを使っている。

「請求書を受け取って、ライトニングで送ると、1秒もかからない。驚かれるよ」と、カッサ氏は語った。ライトニングを人々に送り、彼らがそのテクノロジーについて学ぶのを助けることをカッサ氏は楽しんでいる。

例えば、エチオピアの17歳のある少年は、ノートパソコンを持っていないので、有意義な形でカッサ氏の力になることができない。「少年は私にジョークを送ってくる」とカッサ氏。「そのジョークが聞いたことのないものなら、私が彼に500サトシ送るんだ」

サトシを積み重ねる

対照的な面もある。アメリカやその他の経済的先進国では、人はしばしばビットコインを支払いに使う話をする。ゲントリー氏はこれを「主に西欧的な視点」だと考え、発展途上国では、ビットコインの獲得により関心があると感じている。「ビットコインを獲得する最も簡単な方法は、ライトニングウォレットを通じてだ」とゲントリー氏は指摘した。

例えばゲーマーだ。一部のゲームに夢中の人たちは、ただ時間を浪費している訳ではない。ライトニングで「サトシを集めている」のだ。長年ゲームにハマっているディッカーソン氏は、これが最も期待できるユースケースの1つであり、見過ごされた不平等を是正する方法でもあると考えている。

「ユーザーが生み出したコンテンツは、ゲーム提供業者にとって極めて価値が高い」とディッカーソン氏。「なぜ(ユーザーが)報酬を受けていないのか?」高スコアを叩き出したり、想像上の夢を実現したりする代わりに、ドラゴンを退治して、サトシを集めることが出来るのだ。

ビットコイン2021カンファレンスの会場の「MintGox」eスポーツ・アリーナでは、ゲームトーナメントをライトニングが支えていた。他にも例えば、Zebedeeのゲームでは「サトシが命の代わりになる」のだ。Zebedeeによれば、「得点を得ると、サトシが追加される。死ぬと、サトシが減る。サトシが全部なくなると、サーバーから締め出される」

さらなるライトニングのユースケースを見ていこう。アプリの「フォールド(Fold)」を使うと、クレジットカードや銀行口座を利用して残高をチャージして、報酬プログラムとしてライトニングを獲得することができる。私も試してみたが、非常に簡単だ。

毎日ルーレットを回して、サトシを獲得することができるといった具合に、アプリは「ゲーム化」されている。私は873サトシを獲得したが、その価値に相当する実物の30セントよりもずっとエキサイティングに感じられる。

スタック(Stak)では、オンラインでの小さなタスク(翻訳や画像のラベル付け)を行い、サトシを獲得できる。同ウェブサイトは、1万9000人のアクティブワーカーがいるとうたっている。

オープンノード(OpenNode)は、業者がビットコイン支払いを受け取るのをサポートするのにライトニングを使っており、ビットコイン2021のカンファレンスではあらゆる所で活用されていた。

「ビットコイン2021カンファレンスの一貫したテーマの1つは、ライトニング・ネットワークの成熟性だった」と、米テレビ局CNBCのレポーター、マッケンジー・シガロス(MacKenzie Sigalos)氏は指摘。「ほとんどすべてのブースがライトニング決済を受け入れていた」

ブルーウォレット(BlueWallet)は簡単なライトニングウォレットを作っている。オーケーエックス、クラーケン、ビットフィネックスなど、より多くの暗号資産取引所が、ライトニングを組み込んでおり、そのような取引所はかなりの数に上る。(ライトニングを基盤に開発をする企業は150社以上あると、ゲントリー氏は語った)

これらのユースケースの多くは、より貧しい国々の人たちが「サトシを獲得」するための支援となる。ゲントリー氏やディッカーソン氏は、「ビットコインを獲得」ではなく、「サトシを獲得」と表現することに私は気づいたが、それは意図的なようだ。典型的なライトニングウォレットは、法定通貨の財布に入っているものに似て、500ドルに相当する100万サトシ以上を保有する人は滅多にいない。

BTCではなくサトシに焦点を当てることは、ライトニングの世界各地での魅力を暗黙に考慮することでもある。「サトシが法定通貨の最も小さな単位と等しい国々が存在するのだ」と、ゲントリー氏。

例えば、イランのリヤルは、約0.000024米ドル相当で、1サトシの価値は(当記事執筆時点で)約13リヤルだ。あるいは1サトシは、7ベトナム・ドンに相当する。「ビットコインや通貨についての前提が、私たちのものとはまったく異なる人たちと毎日話をしている」と、ゲントリー氏は語った。

予測の難しさ

統合には時間がかかる。一方でゲントリー氏は、目標はビットコインを10年以内に10億人の人々に届けることだが、「それよりずっとはやく完了する可能性も大いにある」と語った。

ビットコインに内在する不確実性以外に、タイムラインを予測するのが難しい理由の1つは、開発者に重点を置くライトニングの戦略にある。「私たちがすることの多くは、Zedebee、ストライク、ブルーウォレットのようなスタートアップが世に出て、ユーザーを獲得できるようにするインフラを開発することだ」とゲントリー氏。

「タイムラインを決めるのは私たちではない。私たちに出来るのは、プロトコル、ノードを開発し、ネットワーク構築をサポートすることだけだ」

ネットワークそのものも成長には時間がかかる。「ライトニングには、情報通信ネットワーク、あるいは電話線やファイバー線の規模のものを見ている」とゲントリー氏。

ライトニングチームは、1万のノードのわずかしか実行していない。それ以外は有機的なもので、彼らのコントロールを超えているのだ。「これは本物の、有機的で真に分散型の成長であるため、時間がかかる」とゲントリー氏は語る。「しかし、これは真のネットワークであるから(中略)なくなったりはしない。成長し、ますます定着するばかりだ」

ライトニング=ビットコイン

それは本当かもしれないが、ライトニングが成し遂げたすべてのことの割には、その本当の大切さは、特に初心者にとっては、少し難解に思える。

プール・アンド・ループ(Pool and Loop)など、ライトニングが開発した社内プロダクトは、詳しくない読者を困惑させるだろう。ライトニングのニュースレターの「LND(ライトニング・ネットワーク・デーモン)を始めよう」というセクションには、次にようなポイントが含まれている。

・優れたルーティングノードの要素
・ルーティングノードの最適な設定
・ライトニング・リクイディティの管理
・未確認のトランザクションの取り扱い
・ライトニング・ネットワーク・ノードを安全に守る

例えば私の両親が、これらの意味が分かる可能性はゼロだ。スターク氏は、これが問題だということを認識している。「エンドユーザーがチャンネルについて理解している必要があるべきではない」とスターク氏。

長年にわたって彼女は、ビットコインをライトニングで送るのは、写真をメッセージで送るのと同じくらい簡単であるべきだと主張してきた。スターク氏は現在のビットコインの状況を、インターネットの初期になぞらえる。そのような例えを使うのはスターク氏が初めてではないが、ライトニングのローンチの2年前、2014年以来、驚くほど一貫してそのように主張しているのだ。

「プロトコルとしてのビットコインには大きな可能性がある。TCPレイヤーのようなものだが、誰もまだHTTPレイヤーを作っていない」とスターク氏。ライトニングの役割は、ユーザーフレンドリーなHTTPレイヤーに命を吹き込み、ビットコインを送ることが上手くいくようにすることだ。

「私が思い描く未来のビジョンは、ビットコインとライトニングの区別をなくすというものだ」とディッカーソン氏。「ライトニングはビットコインを送るためのネットワーク。つまりライトニングがビットコインなのだ」

別の見方をすると、ライトニングのホットウォレットは当座預金口座のように機能し、コールドストレージのビットコインは、長期的なホドル(保有)のためにあると、スターク氏は説明した。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:The Lightning Network Is Going to Change How You Think About Bitcoin