
- エルサルバドル政府のビットコインオフィスは、広範なビットコイン教育プログラムを運営している。
- 同国は高度なスキルを持つ労働力を生み出しており、テザー(Tether)やビットフィネックス(Bitfinex)などの暗号資産(仮想通貨)関連企業にとってより一層魅力的に映っている。
- ビットコイン教育を受けたエルサルバドル人は、はるかに高次な職および給与の見通しを持っている。
エルサルバドルは、2021年にナジブ・ブケレ(Nayib Bukele)大統領がビットコイン(BTC)を法定通貨にし、同国の公式通貨である米ドルと同じ地位を与えたことで世界を驚かせた。
それ以来、エルサルバドルは約6億3000万ドル(約907億円、1ドル=144円換算)相当のビットコイン準備金を抱え、世界で最も先進的な暗号資産規制の枠組みの1種を確立し、ビットコイン担保国債を10億ドル(約1440億円)発行することを約束し、さらにはステーブルコイン大手のテザーに対して本社をエルサルバドルに移転するよう説いた。
しかし、エルサルバドル政府におけるビットコインオフィスのディレクター、ステイシー・ハーバート(Stacy Herbert)氏によると、同国にもたらされた最大の成功の1つは、ビットコインを軸とした広範な教育プログラムだという。
「ビットコインを用いる国にはビットコインエンジニアが必要なのは明白でしょう。私たちはそのような人材を育てている。それには長い時間がかかるが、素晴らしく前向きなフィードバックのループを生み出している」とハーバート氏はCoinDeskのインタビューで語った。「修了し、職を得て、全員が仲間になる。この地でテクノロジーの息吹が生まれているのが感じられる。」
ハーバート氏は、テザーやビットフィネックスのような大企業が本社をエルサルバドルに移転したり、オフィスを開設したりすることを決定した場合、事業運営に必要な高度な教育を受けた労働力を見つけるのに支障はないと見ている。
「多くの学生がこれらの企業で働く機会を十分に見つけている。なぜなら、こうした人材に対する需要が非常に大きいからた」とハーバート氏は語った。エルサルバドル人のビットコイン教育の質の高さは、エルサルバドルを事業所の設置場所として検討する企業をさらに増やし、それがより多くの学生にビットコインを学ぶ動機を与えていると同氏は続けた。
ブケレ大統領は「ルネッサンスのビジョンを持っている。シンガポール2.0や、フィレンツェ2.0のように、どうやって到達するか。戦略を立てる必要がある」とハーバート氏は述べた。「人材が必要になる。賢く、楽観的で、聡明な人材が必要で、エルサルバドルにはその条件が揃っている。」
ビットコイン教育
ハーバート氏は長年のビットコイン愛好家であり、2010年にテレビの国際放送で暗号資産(仮想通貨)について最初期に語った人物の1人である。ビットコインが法定通貨になった直後、同氏は2021年に夫のマックス・カイザー(Max Keiser)氏とともにエルサルバドルにやって来て、ほぼ即座に同国内のビットコイン開発者を訓練するための教育プログラムCUBO+を立ち上げた。その後、ブケレ大統領は同氏をビットコインオフィスの運営者に選び、2022年11月に正式に設立を迎えた。
同ビットコインオフィスは、政策や法律について助言を行い、エルサルバドルのビットコインに関した取組のマーケティングを行う。しかし、ハーバート氏が就任して最初に行ったことは、高校にビットコイン教育を取り入れることであった。このプログラムは当初5校のみを対象としていたが、現在は全国規模で展開されている。
生徒はビットコインとライトニングネットワークノードの設定方法、およびビットコインを生成するためだけに使用される特殊なコンピューターであるASICの技術的な詳細を教わる。特にASICの授業は熱狂的に受け入れられているとハーバート氏は語った。「生徒たちは手応えを感じられており、深い理解をする上でとても役立った。」
しかし、ビットコインの授業は高校生だけに限定されているわけではない。ハーバート氏が「非常に集中的なブートキャンプ」と称するCUBO+は、ビットコインの理論、歴史、哲学を解説するコースを運営している。このプログラムは、約100~125人の応募者を対象としており、参加すると大学の単位が付与される。最終的に最も優れた技術スキルを持つ21人の学生を選出し、教育をさらに推進していく。ビットコインのワークショップに参加するために飛行機で向かった学生もいるほどだ。
「(初年度の)修了者の100%が職を得た」とハーバート氏は語った。「中には月に4000ドル近く稼いでいる者もいる。ご存知のとおり、エルサルバドルにおけるコンピューターサイエンス専攻の卒業生の2023年の平均初任給は月に600ドルだった」。
約8万人の公務員も3日間のビットコイン認定コースを受講している。また、人工知能(AI)とロボット工学をテーマにした別のプログラムが、小学校1年生から9年生までを対象とした学校で展開される。「私たちは、素晴らしい経済に向けた基盤を築いている」とハーバート氏は語った。 「ビットコインの技術的な詳細だけを扱っているにとどまらない。これは、主権と独立が何を意味するかを理解するための、考え方の転換なのだ。」
CUBO+はハーバート氏個人にとっては、すでに成果をもたらしてくれたプログラムとなっている。というのも、ビットコインオフィスでは同氏の下で3人のスタッフが働いているが、その全員が同政府機関で働く前にこのプログラムを卒業していたのだ。
黄金期を謳歌しよう
エルサルバドル政府は最近、国際通貨基金(IMF)との35億ドルの新たに合意した案件の一環として、ビットコインウォレットを段階的に廃止し、民間部門におけるビットコイン決済の受け入れを(義務ではなく)任意とすることを承諾した。ハーバート氏は、ビットコインオフィスはこの交渉に参加していなかったものの、今回のエルサルバドルによる譲歩によって何かが変わることは一切ないと見ていると述べた。「最優先なのは常に国民だ。そのため、我々の主権とビジョン実現のための戦略を維持しながら、国民にとって最も役立つことを何でもしていく。」
しかしながら、IMFとの合意が発表されて以来、エルサルバドルはビットコインの取得戦略をわずかに変更している。1日に1ビットコインを購入するのに加えて、同政府は3日間に分けて10ビットコインを追加購入した。こうしたパターンの変更がIMFとの合意への反応かどうかという質問に対するハーバート氏の回答は以下の通りだ。「大統領に直接聞いてみてほしい。しかし、大統領は歩を早める準備ができている。ドナルド・トランプ氏の大統領就任があり、競争は始まっている。世界中で、我々の後を追う競争が繰り広げられているのだ。」
ハーバート氏の見解では、エルサルバドルは史上初の国家戦略としてビットコイン準備金を設定した時点で歴史に名を残しており、米国が独自の準備金を設定することになったとしても、同国に倣うことになるだけだ。つまり、これは競争であり、エルサルバドルは必ずしも劣勢にない。ハーバート氏によると、他の国々は、成果を上げつつあるエルサルバドルの取り組みに追いつくため努力する必要があるという。
エルサルバドルの弁護士が最近ハーバート氏に語ったところによると、同国は、少なくとも記憶にある限り、平和と繁栄を経験したことがないという。1970年代、アメリカがディスコミュージックとハリウッドの黄金時代を謳歌していた頃、エルサルバドルは社会不安に見舞われていた。それが後にエルサルバドルにおける内戦を引き起こし、1990年代には暴力的なギャングの台頭に対処できないほど国家は弱体化してしまった。
しかし、ブケレ大統領のリーダーシップとビットコインへの取り組みは、国民の意識を一変させているとハーバート氏は述べた。突如、未来が刺激的なものに見えてきたのである。
「エルサルバドルは、これから訪れる、今まさに到来せんとする黄金期を謳歌するに値すると思う」とハーバート氏は語った。「我々にとって、幕は開かれたばかりだ。」
|翻訳・編集:T.Minamoto
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|原文:El Salvador’s Secret Weapon? Its Extensive Bitcoin Education Program, Says Stacy Herbert