DeFiとウォール街の戦いはすでに始まっている

金融サービスの世界における注目は現在、イーサリアム上のDeFi(分散型金融)エコシステムの爆発的成長に集まっている。

DeFiPulse.comを直近でチェックした際には、30の貸付サービス、32のトレーディング、20のデリバティブツール、22のウォレット、22の資産管理組織、そして20のアルゴリズムあるいは資産連動型ステーブルコインが存在していた。この数字は、当記事編集と配信のプロセスの間に間違いなく増加したはずだ。

これらの200強のサービスは集合的に、既存の銀行業務の大半の再構築を意味する。預金を集めたり、ローンを作ったりする基本的な機能と並んで、主要なトレーディングの多くのタイプがすでに存在するのだ。

DeFiは大きなリターンと、それに見合った水準のリスクをもたらすもので、現在のところ、リスク耐性の高い初期の参入者たちのためのビジネスとなっている。しかし、このままそのような状況が続いていくわけではない。

野心的なDeFi企業はすでに、伝統的な中央集権型金融(CeFi)ビジネスと、彼らが抱えるよりリスク回避的な顧客を標的とし始めている。

DeFiの強み

DeFi企業やプロトコルには、容赦のない効率性をはじめとして、大きな強みがある。ユニスワップ(Uniswap)、スシスワップ(SushiSwap)、ポリ(Poly)、セルシウス(Celsius)などのスタートアップは、既存の銀行業界で必要となるものと比べるとほんのわずかの人員やコストでハイボリュームな事業を構築している。

非許可型で相互運用可能、開かれたイーサリアムエコシステムのおかげで、より優れた貸付アルゴリズムの開発のために、銀行インフラ全体を構築する必要はないのだ。

DeFi企業はまた、通常許可型で、大半のERC-20やERC-721トークンよりずっと標準化の進んでいないAPIベースのシステムに比べて、はるかに素早くソリューションを繰り返すことができる。

これらの優位にも関わらず、既存の金融サービスエコシステムは戦わずして自らの顧客ベースを明け渡すことはないし、彼らにも、規制遵守のスキルをはじめとして、独自の大きな強みがある。

CeFiの優位

米証券取引委員会(SEC)は、「名ばかりのDeFi」が、投資家所有の企業を監視の目から守ることもなければ、時に投資可能な資産として宣伝、販売されているガバナンストークンが、ハウェイ(Howey)テストを突破して、規制を免除されることもないと、はっきり明言した。

伝統的金融企業は規制遵守を熟知しており、証券登録から顧客確認(KYC)遵守まで、あらゆるものに対して成熟したプロセスを有している。

規制遵守以外にも、既存の金融サービス業界には、ブロックチェーンネイティブな新興企業に対抗するのに必要な大きな強みがある。

まずは、1カ所ですべてを済ませられる総合金融機関として機能できる能力だ。クレジットカード、住宅ローン、ビジネスローン、そして小切手も、すぐにはなくならないだろう。金融エコシステムの複数の要素をシームレスに統合できる力は、大きな強みとなる。

オンチェーンとオフチェーンの金融資産をすべて一括で見られることは、力強い魅了なのだ。大半の消費者や企業は、どのバックエンドシステムで取引が発生しているかなど知りたくもないだろうし、興味も持たないだろう。

この戦いにおいて、伝統的金融サービス企業はまた、顧客をずっと大局的に見ることができる。例えば、大半のオンチェーン貸付システムは、ローンを作るのに担保に依存しており、現在のところ、その担保は完全にオンチェーンだ。

クレジット履歴や住宅ローンを抱えた銀行は、はるかに幅広い資産とデータを検討し、はるかに低いレートでより多くのクレジットを提供できるだろう。

戦いの結末

あらゆる熾烈な競争と同様、この戦いも、両者が相手にとても似たようなものになる結果をもたらすだろう。ブロックチェーンスタートアップは可能な限りはやく銀行ライセンスを取得しており、オラクルがオフチェーン資産やクレジット格付けをもたらしてくれることを見込んでいる。

規制遵守チームも採用し、監査役やセキュリティーの専門家を引き込んで、リスク管理のための社内プロセスを成熟化させ始めている。

1つの時代の終焉のように感じる人もいるだろう。規制やセキュリティーに関する幾層ものチェックに直面するために、新しいプロダクトが市場に登場するスピードは低下するだろう。

しかし、得るものの規模は大きくなる。ブロックチェーンと暗号資産は現在、2兆ドル規模の市場だ。一方、グローバルな株式市場は単独で、71兆ドル相当以上の資産を抱えている。それらの資産の大半が、オンチェーンへと移行し、DeFiエコシステムで機能するようになる未来を想像するのは、それほど突飛なことでもない。

既存企業への警鐘

勝者を予測するには時期尚早だが、ここ20年間のテクノロジー主導の変容は、既存の金融機関に警鐘を鳴らすだろう。

変化するのに苦戦する企業と関わった私の個人的経験では、インターネットが市場を変容させる中、既存プレーヤーが犯した2つの重要な間違いがあると思う。

1つ目は、実世界の規制や事業運営の複雑さに対処することで、新規プレーヤーたちが同じように負担を感じると思い込むこと。そうではないと私は考えている。

銀行であれ小売業者であれ、既存プレーヤーは通常、何十年も積み重なったプロセスの複雑性を抱えている。新しいテクノロジーを加えることは、幾層もの複雑さを剥ぎ取るよりずっと簡単だ。

2つ目の大きな間違いは、初期の市場での普及率が低いために、時間があると思い込むことだ。しかし、時間はない。

市場リーダーは、一度確立されれば、押しのけるのは非常に難しい。新しいサプライヤーで市場に足を踏み入れた顧客は、戻ってくる可能性は低い。

このようにDeFiとCeFiの戦いにおいては、確かに新規市場参入者が有利かもしれないが、それは勝利を保証するものでは決してない。

ポール・ブローディ(Paul Brody)氏:EY(アーンスト・アンド・ヤング)のグローバル・ブロックチェーン・リーダー。

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:The CeFi-DeFi Battle Has Already Begun