暗号資産に虎視眈々、大手企業の進出はいつか?

フィデリティ・デジタル(Fidelity Digital)が2021年7月に実施した調査では、ヨーロッパとアメリカの機関投資家の3分の1以上がデジタル資産を保有していると回答した。しかし、伝統的巨大金融企業は、暗号資産業界に押し寄せている訳ではなさそうだ。どういうことだろう?

暗号資産を大量に保有する企業の多くは、伝統的金融の世界の企業ではない。暗号資産保有数でもとりわけ際立っているのは、マイクロストラテジーとテスラの2社。

マイクロストラテジーは6月21日現在、10万5085ビットコイン(BTC)以上を保有しており、その時点での価値は27億ドル。一方、テスラの第2四半期の保有ビットコインの価値は、13億ドル相当と報告されていた。

ヘッジファンドマネージャーとしてキャリアを築いてきたマイケル・ノヴォグラッツ氏が設立したギャラクシー・デジタル(Galaxy Digital)は、5億ドル相当以上のビットコイン、暗号資産ブローカレッジのボイジャー・デジタル(Voyager Digital)は約4億ドル相当のビットコインを保有している。

ビットコインを保有する主要な非伝統的金融系企業としては他にも、ジャック・ドーシー氏の率いる決済プラットフォームのスクエア(Square)や、ビットコインマイナーのマラソン・デジタル(Marahon Digital Holdings)、そして暗号資産取引所のコインベースなどがある。

しかし、伝統的金融機関も、デジタル資産分野へ飛び込むのはそれほど先のことではないかもしれないと、暗号資産運用会社サーソン・ファンズ(Sarson Funds)の創業者、ジョン・サーソン氏は語った。

伝統的金融機関は、ヘッジングおよび分散戦略としての有望性、市場中立的戦略や代替的投資戦略における有用性から、暗号資産に惹かれているのだ。

「暗号資産へ企業が押し寄せるだろうと思われる」と、サーソン氏は語り、次のように続けた。「参入が始まれば、止まることはないだろう。値上がりしている時に暗号資産を買った企業が売却したという話は聞いたことがない。売りたくなるようなことは何も起こっていないからだ」

企業への普及は何を意味するのか?

暗号資産分野へ大手金融機関が大規模に押し寄せれば、さらに数千の投資家と、何十億ドルもの資金が流れ込むかもしれない。そうなれば、それら資産の基本的価値に対して、長期的にプラスの影響がもたらされる。

なぜならば、暗号資産の価値は、市場におけるトークンの独立した値動きではなく、それを支える基盤ネットワークの規模から生まれるからだ、とサーソン・ファンズの共同創業者、ジャホン・ジャマリ氏は説明した。

ビットコインやイーサリアムなどのコインは、ネットワークにつながる接点であるノード、つまり参加者が増えるほどに価値を増す。それがネットワークの成長の継続を意味するからだ。

ここで良い例えとなるのはインターネットだろう。初期の頃には、つなげられたコンピューターとダイアルアップ接続で、共有のプロトコルで情報を共有できた。しかし、参加者が少なかったために、モデムの付いたコンピューターを保有することの価値は、大半のユーザーにとって比較的低いものであった。

1980年代の中頃に私が小学校で初めてインターネットに出会った時、300bpsのダイアルアップモデムでつながれる唯一の場所はNASAだった。それから数年後、AOLをはじめとする企業によって、数百万のアメリカ人がオンラインに参加。インターネットの価値は、劇的に高まった。

ジャマリ氏は、暗号資産でも同じようなことになるだろうとみている。

「(暗号資産は)株式ではない」とジャマリ氏。「私たちが目の当たりにしているのは、インターネットの成長、あるいは情報通信の拡大により近いものだ」と続けた。

それでも、メディアの注目の大半は、値動きに注がれている。ビットコインは4月、約6万5000ドルの史上最高値を更新。その後数カ月で、中国による暗号資産の取り締まり、ビットコインの環境負荷、ボラティリティ、セキュリティをめぐる規制当局、政治家、メディアからの圧力の高まりの中、50%以上値下がりした。

企業はどこにいるのか?

しかし、ビットコイン価格が低い時でも、企業が急いで投資することはなかった。CoinDeskでは6月、一部の取引所で保有されているビットコイン残高の停滞と、1000BTC以上を保有する大口投資家「クジラ」の数の減少を伝えた。

その理由の1つは、企業の暗号資産分野への参入に時間がかかっているからだと、サーソン氏は指摘した。

「暗号資産についてもっと知りたいというので、2000億ドルを保有するオーストラリアの年金基金に電話したことがある。それでスケジュールはどんな感じかと聞いてみた」と、サーソン氏は語り、次のように続けた。

「向こうは、『暗号資産についてリサーチを行い、今四半期、あるいは夏になって投資したいかを検討する。次に取締役会にプレゼンをして、投資するかどうかを決定する。投資することに決定したら、自らやるか、運用会社を雇うかを検討する。それにも四半期かかる。その後、運用会社を評価するために改めてリサーチを行う』という感じだった。投資するまでに少なくとも2年かかる計算だ。それでも少なくとも、事態は動き出している」

ステート・ストリート(State Street)が450人強のスタッフを抱えたデジタル資産部門を新設したことは、新らしい資産や手法、テクノロジーを導入するのがゆっくりだとして悪名高い巨大企業でさえも、暗号資産を真剣に検討するようになっていることを象徴していると、サーソン氏は指摘した。

BNYメロンも先日、グレイスケール(Grayscale)との連携を通じて、暗号資産カストディ分野へと進出する計画を発表した。

「顧客と話していて分かるのは、この分野を理解して、学び、どのように関わるかを見極めようとしているということだ」とBNYメロン・パーシング(BNY Mellon Pershing)の最高情報責任者、ラム・ナガッパン(Ram Nagappan)氏は述べる。「私たちの側としては、暗号資産を扱うためのインフラと基盤を整えようとしている」

「暗号資産は無くならないだろう」と、ナガッパン氏。「これだけの企業、規制当局、法律が生まれてきていたら、なくなってしまうことはない。まだ脇で様子見している人たちすべてにとって、より受け入れやすい形に変わっていくだけだ」と続けた。

その他の方法、その他の影響

暗号資産にアクセスする方法は、他にも市場に登場している。例えば、プロファンズ(ProFunds)は先日、トークンではなく、先物契約に投資するビットコインミューチュアル・ファンドをローンチした。

このような革新的プロダクトにより、欧米の企業は、より慣れ親しんで安心できる方法を通じて、暗号資産を保有できるようになるだろう。

アメリカ発の暗号資産ETFやビットコインETFは、いまだに米証券取引委員会(SEC)からの承認を待っているが、機関投資家は、カナダやヨーロッパのETP(上場取引型金融商品)を通じて暗号資産にアクセスすることができる。

保守的な大手資産運用会社のキャピタル・グループ(Capital Group)でさえも、今ではビットコインそのものと類似していると幅広く考えられている、マイクロストラテジー社の株を大口で保有することで、暗号資産分野に参入したと、サーソン氏は指摘した。

今年の初め、マイクロストラテジーのCEO、マイケル・セイラー(Michael Saylor)氏は、同社の現金準備金をビットコインに投資する計画を発表し、現在では同社は30億ドル相当以上のビットコインを保有している。

フィデリティ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガン、ブラックロック(BlackRock)などの企業はここ数カ月で、デジタル資産関連の取り組みを発表、あるいは拡大した。

このように企業の関心が高まる中、巨大な企業マネーがこの先数カ月で暗号資産分野に流れ込む可能性が高まっている。新規参入する企業はそれぞれ、暗号資産界に新たな投資家をもたらすようなプロダクトや取引所を開発するだろう。

フィデリティ・インスティテューショナル(Fidelity Institutional)のリサ・バーンズ氏は「みんなが暗号資産にどっぷり入っていくような、大規模な普及はまだ見られていない」と述べる。「しかし、関心の高まりはますます加速しており、企業として私たちは、大いに投資している」

|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock
|原文:Crypto for Advisors: Big Institutions Are Eying Crypto. But Where Are the Inflows?