CBDCはDeFiとステーブルコインの未来をどう変える?

CBDCはDeFiとステーブルコインの未来をどう変える?

中央銀行デジタル通貨(CBDC)をめぐる議論はここ1年で、かなり前進してきた。ほぼ完全に概念的な議論の域を出なかったCBDCが、今では実際にどのように機能するのかを見極めるためのリサーチと開発の様々な段階にある。

中国のデジタル人民元が現在、先頭を行っている。いくつかのパイロットを経て、中国政府は2022年、10億人を超える国民にCBDCを展開する模様だ。

CBDC開発で同じような段階に到達している国は他にないが、驚くほど急速な前進は見られる。G7の財務大臣らは先日、CBDCのための決定的な原則について意見の一致を見た。しかし中国以外では、最も顕著な結果のいくつかは、アジアから生まれている。

香港金融管理局(HKMA)による取り組みや、HKMAが参加している共同での試みは、特に注目に値する。HKMAは2017年以降、CBDCを検討している。

「プロジェクト・ライオンロック(LionRock)」と名付けられた最初の取り組みでは、銀行間の決済のためのデジタル通貨、いわゆる「ホールセール型」CBDCのコンセプトをリサーチしていた。

2019年までには、国境を超えた支払いのためのCBDCのリサーチのために、タイ銀行と協力関係を締結。アラブ首長国連邦中央銀行、中国人民銀行のデジタル通貨研究所、国際決済銀行(BIS)が加わった後には、この共同での取り組みは、「mブリッジ(mBridge)」と呼ばれる、複数のCBDCの橋渡しをするプラットフォームを開発する新しい段階へと突入した。

最新の展開は、現状に最も大きな影響を与え得るものでもある。CBDCは、暗号資産(仮想通貨)が慣れ親しんできた非許可型金融の存在を脅かす脅威となっているのだ。

リテール型CBDCへの意見募集

HKMAは10月、CBDCホワイトペーパーを発表。電子香港ドル(e-HKD)の見込みに関して、通貨政策、銀行、分散型台帳技術の専門家からの意見を募った。

このホワイトペーパーは、中央銀行と金融セクターの間でどのように通貨の責任を分担するかなど、多くの問題を提起している。しかし、ブロックチェーンや暗号資産コミュニティーにいる人間にとっては、熟考すべきは他にたくさんある。

CBDCに必要な技術的インフラに関して、このホワイトペーパーは特定していないが、7つの「プロブレム・ステートメント」に関する助言を求めている。プライバシー、相互運用可能性、スケーラビリティとパフォーマンス、サイバーセキュリティ、コンプライアンス、運用の堅固さとレジリエンス(回復力)、そしてリテール型CBDCがもたらすテクノロジーによって可能となる機能の7つである。

お馴染みの難問

ブロックチェーンや分散型台帳技術の導入を検討したことのある企業や組織であればどこでも、これら7つの問題のどれかに直面したはずである。究極的には、次の点に行き着く。イーサリアムなどの非許可型でオープンな分散型パブリックネットワークのメリットは、デメリットを上回るのか?それとも、許可型の方がより優れたオプションとなるのか?

CBDCの文脈では、許可型と非許可型のどちらの台帳を選ぶかが、非常に広範な影響を持つことになる。ある問題領域に十分な解決策をもたらすことが、別の問題領域で問題を生み出すことは避けられない。

例えば、中央銀行はビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)などの暗号資産と同じレベルの匿名性をCBDCがもたらすことは望んでおらず、アーキテクチャにコンプライアンスベースの仕組みを組み込むためのチャンスをとらえるだろうと考えて問題ないだろう。アカウント開設のために、ユーザーに顧客確認(KYC)やアンチマネーロンダリング(AML)チェックを受けてもらうことは、明らかな例だ。

しかし、身元チェックを導入すると、政府による監視やユーザープライバシーにまつわるもっともな疑問を生み出し、その点と、金融関連の法律に適合させたり、CBDCが犯罪行為に使われるのを防ぐ必要性との間でバランスを取る必要が出てくる。

数の優位

運用上の堅固さとレジリエンスと、サイバーセキュリティの間でバランスを取ることにも、同じようなトレードオフの関係がある。

イーサリアムやビットコインなどの非許可型ブロックチェーンは、長年にわたって、ネットワークの規模のおかげで、攻撃に対して堅固であることを証明してきた。非許可型という性質が参加を促し、攻撃のコストを法外なものにする、非常にレジリエンスの高いアーキテクチャを生み出す。

しかし、CBDCの観点からは、デメリットもある。とりわけ、パフォーマンスとスケーラビリティに対するコントロールの欠如だ。パブリックブロックチェーンネットワークのアップグレードプロセスは長引く可能性がある。特に、分散型ネットワークの参加者の過半数からの同意が必要な場合には。

オンチェーンガバナンスに関しては、賛否両方の主張があるが、ネットワークの全参加者が誠実であると何らかの方法で検証できて、コントロールの期間が限られていたとしても、中央銀行が法定通貨のガバナンスコントロールを、分散型ネットワークに完全に移譲する可能性は低い。

最終的には、何らかの形での許可型のオプションが優位となるかもしれない。しかし中央銀行は、コンプライアンス、コントロール、パフォーマンスのニーズで妥協することなく、プライバシーとセキュリティの問題を解決する必要がある。

ステーブルコインの不安な未来

HKMAのホワイトペーパー、そしてCBDCの議論全般に欠けている要素の1つが、分散型金融(DeFi)におけるチャンスだ。

DeFiが生まれ、進化したのは、暗号資産に内在する特定の機能と強みのためだ。例えば、スマートコントラクトが管理する、自動的な取引でプログラム可能な通貨を生み出す能力。トレーダーは即座に裁定取引を活用し、世界のどこにいても四六時中、どんな額の取引もほぼ一瞬で決済ができる。そのためCBDCは、より広範なグローバル資産市場を真に変容させる可能性を秘めているのだ。

しかし、ステーブルコインの未来に関しては多くの難しい問題が提起される。暗号資産やDeFi市場の価値が成長し、機関投資家の関心が日ごとに高まる中、規制当局はますます、警戒を声高に呼びかけている。

米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長は先日、ステーブルコインを「ポーカーのチップ」と呼び、ステーブルコインを対象とした何らかの法律が登場するのも時間の問題のようだ。

これは、暗号資産、金融、テクノロジーなど様々な分野の弁護士、アナリスト、コンサルタントにとってより気になる問題となっている。

マッキンゼーは先日、CBDCとステーブルコインの現状についての自社の見解を発表し、規制を受けたステーブルコインはCBDCと共存できるが、片方がもう片方よりも優位になる可能性も同じくらいあると指摘した。

不公平な強み?

CBDCには、最初からステーブルコインよりも優れた2つの明らかな強みがあることを指摘しておこう。

まず、前述の通り、CBDCには最初から、コンプライアンスとデジタルアイデンティティの機能を組み込むことができる。対照的に、複数のブロックチェーンを超えて発行されるテザー(USDT)などのステーブルコインは、プラットフォームのルールの制限の中で機能する。

テザーは現在の形では、USDTの使用のためにKYCチェックを一方的に求めることはできない。しかし、そのような機能は、金融機関にとってのコンプライアンスの負担と、銀行業務収益の最大5%を飲み込んでしまうようなコストを下げることができる。

2つ目に、CBDCは税金の収集と分配を自動化し、銀行にとっての悩みの種を緩和することができる。スイスなど多くの法域において銀行は、在留外国人向けのものなど、一部の取引において源泉課税を行っている。あらゆる国において銀行は、脱税の場合に当局からの開示命令に応じなければならない。

これらのメリットを鑑みると、CBDCと規制を受けたステーブルコインの2択では、ほぼあらゆる金融機関にとってCBDCの方が簡単な結論だ。

リテール型CDBCを立ち上げることに多くのジレンマが絡んでいるため、本当の影響がはっきりするにはまだ数年かかるかもしれない。しかし、CBDCは金融システムに大きなチャンスをもたらすが、究極的にはステーブルコインと現在のDeFiの存続を脅かすような脅威となることは、すでに明らかだ。


チャールズ・ディハウシー(Charles d’Haussy)は、イーサリアム開発のスタートアップ、コンセンシス(ConsenSys)のマネージングディレクターで、香港に拠点を置く。


|翻訳・編集:山口晶子、佐藤茂
|画像:Shutterstock.com
|原文:What CBDCs Mean for the Future of DeFi and Stablecoins

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